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人の息すら天に上る  作者: 天智ちから
蛇と流星
4/40

見えない星は輝いている

「おかえり〜!」

「ただいま」


 学校から帰った龍也は帰った瞬間にふわふわと自分を迎えに来るナガレに頬を緩めて、自分の前まで飛んできたナガレを掌で受け止める。ほんのりと暖かい温度が掌に伝わりナガレの存在を主張する。

 結局持って帰ってくることになった本を机の上に置くと不思議そうにナガレが本に近づく。


「これこの前の本だね」

「うん。もらったんだ」

「りゅーや、お気に入りだもんね。ぼくもすき」

「この本に出てくる星のどれかがナガレだったりしたのかな」


 名前の無い星。見ることの出来ない星。もしかしたらそんな星がナガレだったのかもしれない。

 紙袋から【星の記憶】とは違う本を取り出した。それは学校から帰る途中、本屋に立ち寄って買った星についての本だった。

 いつもならば自宅へとすぐ様に帰る龍也がその足のまま本屋へ寄れたのは松司先生と話して気分が高揚したままだったからなのかもしれない。

 購入した本は星座と神話について書かれた本と、天体としての星についての本。


「あたらしい本だ!」


 喜びを全身で現すようにチカチカと光り飛び回るナガレに苦笑いして天体としての星についての本を開く。


 本は興味と知識の入口であり宝庫である。【星の記憶】という本を入口に、星についての知識を龍也は手に入れようとしている。興味への入口が本ならば、知識を得るための手段として選んだのはやはり本だった。

 恩師である松司先生が持ってきた本だったから、だけではない。ナガレと出会っていたこと、そして恩師である松司先生が持ってきた本がナガレと同じ星の本だったことが、龍也を入口まで導いたのだ。

 どちらかが欠けていたとしたらきっと龍也は今ほどの興味を持つことはなかっただろう。


 ナガレについて何か情報がないかを本から探す。

 もしかしたら星の本よりも、怪奇現象や妖怪などの本のが見つかるのかもしれないと思いながら、ナガレと一緒に本を読む。


「ナガレ、なんか気になったこととかないか?」

「う〜ん。あんまり覚えてないよぉ」

「そっか……」


 空から落ちてきたナガレは、自分がなんなのかすらわかっていなかった。隕石というには石はなく、ただ光るだけ浮かぶだけの存在だった。それに龍也が話しかけ続けたことで意識が芽生え話すことが出来るようになったただの光は、ナガレという龍也にとって1番大切な友達であり理解者になったのだ。


「ナガレがなんでも、俺は好きだよ」

「ぼくも!りゅーやだいすきだよ!」

「一緒だな」


 不思議な存在と不思議な出会い。奇跡のようなこの出来事はきっと長くは続かないと、龍也は気づいている。なんなら、本当は自分は長い眠りについていてナガレがいる今が夢なのではないかとすら思っている。

 ナガレは、突然訪れたように、突然消えてしまうのだろうか。


「あ!この星かっこいいよ!」

「どれ?」

「これ!」


 思考がネガティブに陥りそうな中、ナガレの声に引き戻されてチカチカ光るナガレが示す場所に目を落とす。

 ナガレがかっこいいと言った星は一等星の2番目に明るいカノープスだった。

 中々日本で見られる場所がないからか1番明るいとされているシリウスより知名度は落ちるが、1度は学校の理科で習うのではないだろうか。学校から配られた星座早見盤を空に翳しながら、ひとつひとつ星をなぞって確認した覚えが龍也にもあった。


「ここからは見えないんだなこの星」

「そうなの?」

「うん。ほら」


 カノープスの特徴について書かれたところを指で差しながら読み上げていく。


――日本では東北地方南部より南の地域でしか見ることはできない。シリウスに次いで明るいとは思えないほどに減光して赤くなり、見つけることはより困難となる。


「オーストラリアなら1年中見ることが出来るらしい」

「おーすとらりあ」

「カンガルーとかが有名な国。俺も、あんまりわかんない」

「かんがるー?」

「今度、調べてみようか」

「うん!」


 2番目に明るい星なのに、その光を日本で確認することはほとんどない。外からの様々な影響によって光は減退し、赤くなる。それでも、場所を変えればこの星は沈まない星として1年を通して空に輝いているのだ。

 

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