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第八話 束縛の魔女

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 ハジメ達の前に現れたネームド”束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)“はまず手信号で指示を行う。コンパクトな指示なのだが、周りのアラクネ達がそそくさと動き始めた。

 意外にも上位関係を叩き込まれているようだ。


 そんな中最初にゲンザブロウが動き出す。


「数が多い、ここはわしとチュウジに任せてハジメはネームドの相手をしてくれ。しかし、無理はするなよ。弱点を探すのに集中してくれればいい!」


「わかりました。出来るだけ早くお願いしますね。こいつかなり人を喰っていますよ」


「わかっている。いくぞチュウジ、なるべく多くのアラクネを巻き込んで攻撃するのじゃ。ここは大森林の真ん中、さほど暴れても問題ないぞ」


「そうね。私もちゃんと戦わないと危ないわね」


 ハジメは“束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”に向かって足を進め、ゲンザブロウとチュウジがネームドの周りを囲っているアラクネを相手にする。実はハジメには範囲攻撃が無く、多数の相手には向いてない。その為火力には自信が無いが、攻撃範囲が広いゲンザブロウとチュウジの2人がアラクネの相手をする。


 しかし、環境が悪い。ここはネームド“束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”を含めたアラクネの巣、獲物を狩るための糸があちらこちらに張り巡らされているため動きが阻害されてしまう。

 一歩も動けないということはないが、いつも通り動くには違和感が大きすぎる。


 ここで初めに動けたのはチュウジである。なぜならチュウジはオリジナル魔法による遠距離広範囲攻撃ができる。

 ゲンザブロウがチュウジ守る限り、足場は関係ない。


「お茶魔法“火箭乱風(ミルクティー)”。消えなさい、雑魚ども」


 チュウジは自身のオリジナル魔法であるお茶魔法を見下すように唱えた。普通お茶魔法と聞いたら、たいしたことないものをイメージするが、チュウジが関わればお茶魔法は魔法の概念を壊した万能魔法となる。


 “火箭乱風(ミルクティー)”はゲンザブロウを飛び越え、暴れるように炎の塊がアラクネ達の顔や足元に向かって飛んでいく。コントロールが効かない“火箭乱風(ミルクティー)”のため、殲滅はできない。だが、アラクネは虫系統の魔物のため、火に準ずる魔法は一撃で倒すことができる。


「この場に適している魔法じゃのう。ほれ、次はあそこじゃ、しっかりと狙うんじゃぞ」


「あのね、この魔法はコントロールできないのよ。初発は運よく当たったけど次はあなたに当たるかもしれないわよ」


「そう言いながらもコントロールできる魔法も使えるのだろう。早くしないとハジ坊が喰われてしまうぞ」


「わかっているわよ。これは魔力の消費量が少し多いのよね...お茶魔法“火箭整風(ロイヤルミルクティー)”」


 次に唱えたチュウジが唱えた魔法は“火箭整風(ロイヤルミルクティー)”。火力は“火箭乱風(ミルクティー)”に比べ劣るが、コントロールが容易なため急所にあたり、ゲンザブロウが指示した範囲のアラクネを殲滅する。


 これによりアラクネは3分の1ほど退治できた。しかし、アラクネはまだまだ生きている。チュウジが攻撃したのはゲンザブロウの攻撃が届かない範囲であり、実はと言うとチュウジとゲンザブロウの周りに近づいて来ている。


 アラクネは人と比べて背が高い、さらに手足が長いためすでに2人は攻撃範囲に入っていた。だが、これは2人の戦術だった。

 3人態勢になるまではよく2人で任務を果たしていた為、2人の戦闘パターンは固定されている。


「ほら、あなたの番よ。気合い入れなさい」


「ふー、数が多いな。久しぶりにやるしかないのう」


「あら、もしかして必殺技を出すのかしら?なら私は少し後ろに下がるわね」


「それは嫌みか?まぁいい、下がっておれ」


 ゲンザブロウはチュウジが後ろへと下がったのを確認して、懐から折りたたんである三節棍を取り出した。その三節棍を流れるようにアラクネの頭部へと炸裂し、一撃で破壊する。そして、そのまま折りたたむことなく延長線上にいた別のアラクネの胸部に当たり、また破壊する。

 次に三節棍が折りたたまれ時に左手に持ち替え、同じようにアラクネを倒す。また持ち返して倒す、持ち返して倒す、持ち替えして倒す...


 あっという間に倒されたアラクネの死体が積まれていく、アラクネが一歩踏み入れるとともに倒されていくことにより、チュウジと違い魔力を消費することなく殲滅をすることができた。


 これはゲンザブロウが持っている三節棍、名を“白河(シラカワ)”。最小限の力で殲滅することができるこの武器には、『効率化』が宿っている。

 これによりゲンザブロウはどこに三節棍を振るえばいいのかを直感でわかるようになるのだ。


「絶好調じゃないの。私も“火箭整風(ロイヤルミルクティー)”を撃ってと、これで安定してきたわね」


「ほれ、ここはわしに任せてチュウジはハジメの所に行ってくれ。なかなか苦戦しているみたいじゃぞ」


「あらあら、食べられそうになっているわね」


 ゲンザブロウとチュウジが優位に戦えていた半面、ハジメは“束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”にまだ一撃も入れられていない。

 これは別に“束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”が素早いというわけではなく、ハジメがいつも通りに動けないでいたからだ。


 “束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”は地上には降りてこない。そのためハジメも空中戦をしなくてはいけなくなる。ここで魔法が得意ではなく、浮遊をすることができないので木と木を飛び跳ねながら移動する。


 しかし全ての木にアラクネの糸、それもネームド級のアラクネなので粘性も一段と高い作りになっている。


「チュウちゃん、この糸どうにかできない?すごく動きづらいからネームドに攻撃がとどかないんだよ」


「わかったわ。はい、“氷核流水(ジャスミン)”。これでどうよ」


「もっと木に掛けて!」


「わがままね。こんな感じ?って、ちょっと!ネームドこっちに来たわよ!」


「いや、見てわかっているから動いてくれよ。でも結果オーライかな?」


 そう言ってハジメは木を蹴り上げ“束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”の真上に位置を取り、体を回転させながら鬼神丸を叩きつける。

 自由落下も加わったことで威力が上がり、”束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”は咄嗟に人の部分の手で防御態勢をとるが、腕を切り落とすことができた。


 腕を切り落とされた“束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”は怒りを露わにして地面に降りたハジメを蜘蛛の脚で攻撃をする。交互に8本の脚で攻撃されるので、まるで槍の雨が降って来るようである。


 しかし、ハジメはこのポジションが好機だと思った。なぜなら心臓の位置が直ぐそこに来ているからだ。道中にいたアラクネを解体した時に心臓のような臓器が蜘蛛の部分に入っているのがわかっている。


 なので、ハジメは“束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”から一撃くらってでも心臓を突き抜こうと思っていた。


 だが、ここである人が邪魔に入る。


「ハジ坊、だめじゃ!はやくそこから出てこい!」


「え!どうして?」


 アラクネをあらかた倒したゲンザブロウが老人とは思えないスピードで飛んできて、下から救い上げるように白河を”束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”の胴体に一撃入れる。


「どりゃあ!」


 ゲンザブロウのドスの効いた声が森に響く。


 不意による一撃だったこともあり大きな体が一瞬だけ浮いた。その間にハジメが“束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”の下から出てくることができた。

 抜け出したハジメはゲンザブロウの横に並ぶ。


「どうしたのゲンさん、何か分かった?」


「いくらかアラクネを倒しておるとな、何故か一撃も入れていないのに息絶える個体がおるのじゃ」


「なにそれ、どういうこと?」


「よく見てみると体が変色しておる。これは毒によるものじゃ。そして、こんなこと誰ができるかというとネームドしかおらん。どうやら巻き込まれてネームドの毒が付いたのだろう」


「でもアラクネが毒を分泌できるって聞いたことがないよ」


「わしでも聞いたことがない。しかし、あれはネームド。毒を作る固有スキルを持っていても不思議ではない。そしてハジ坊、心臓を突くために一撃くらおうとしたじゃろう。死ぬところだったぞ」


「危なかったね。解毒できる隊員の所まで間に合いそうもないし気をつけないと」


 ハジメはそう言ってまた木に登っていく。そして、ゲンザブロウは少しの間姿を晦ませる。先ほど全力で疾走したため、体力が尽きてしまったからだ。


 ここで余談だが、ゲンザブロウは必殺技が使えない。正確に言うと使えなくなったのだ。


 実はと言うとゲンザブロウの白河は効率の良い選択を教えてくれるだけで、その選択についていく力がないといけない。昔は今の数倍の力をゲンザブロウは有していた為必殺技を使えていたのだが、今のゲンザブロウの身体能力では到底不可能になってしまった。


 なので、今のゲンザブロウは必殺技なしで隊長を務めている。


「ハジメ、次はあなたが囮になりなさい!次は私が一撃入れるわ」


「わかった。すごいの見せてよね」


「任せなさい!」


 チュウジは遮蔽物が無く見通しのいい場所に移動をし、いつでも魔法を撃てるように準備をする。

 それを踏まえハジメはチュウジを中心に円を描くように移動する。チュウジから一定の距離を保ちながら一方向に移動するには最適だからだ。


「ハジメは囮が上手わね。これなら何とか当てることができるかな?まぁ、やるしかないわ」


 チュウジは詠唱を始める。魔法は消費魔力が多くなると詠唱が必要になるので、今までと違い中規模魔法を使うようだ。


「…紅茶を極める王よ、緑茶を極める女王よ、今我にその至高の力の一端を与えたまえ!中級お茶魔法“雷帝之一撃(ダージリン)”!」


 チュウジのオリジナル魔法のため詠唱もふざけている様に感じるが、しっかりと詠唱として認識され、唱え終わると同時に大きな暗雲が空に広がる。


 その雲からは一筋の光が“束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”目掛けて落ちた。その景色に見とれていたら少し遅れて轟音が鳴り響く。落下地点では砂埃が舞った。


「おーい!俺のことも考えて撃ってくれよ。びっくりしすぎて心臓止まるかと思ったじゃん!てか、これ聞こえているのか?」


「聞こえているわよ!でも見てみなさい。雷はだいたいの魔物に効くのよ」


「そうなの?たしかにすごい音だったからこれで倒せていてもおかしくないか」


「そうでしょう、そうでしょう」


 2人はチュウジが放った“雷帝之一撃(ダージリン)”の落下地点を見る。砂埃が収まり”束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)“の姿が再度現れてくる。

 そこには、体から数本糸を出した“束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”の姿があった。


 体の表面に焦げ跡があるものの中までは雷が通ってない。どうやら体から出ていた糸が地面に刺さっているため雷を上手く流したようだ。


「雷の対策もばっちりってこと?やばい、もう攻撃に移ろうとしている。逃げないと。チュウちゃん!もう一発違う魔法よろしく!」


「わかったわ。ちょっと考えてみる。その間囮がんばって!」


「はい、って!ベタベタが戻ってる!やばいよ」


「ほんとに?」


 冷やされていたことにより粘着力を失っていた“束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”の糸が、時間経過により元の状態に戻ってしまった。

 この土壇場によるピンチにハジメも焦ってしまう。


 そして、その焦りが原因なのかハジメはある失態を犯してしまった。


「なんかここ深いぞ。ちょっと!どんどん脚が沈んでいく!」


「待って。そこ川があった場所じゃないでしょうね。今足を止めたら一貫の終わりよ!」


「わかっているって!」


 今までの常識が通用しないネームド“束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”。その相手に向けて新たな作戦を立てようとするも、大切なところでハジメは失態を犯してしまう。

 そんな中、戦いは後半戦へと進んで行った。

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@doragon_narou8で検索したら出ると思います。名前は魔竜之介です。

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