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第七話 蜘蛛の女王

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 村長から逃げるように解散した二人は今日の宿へと向かった。宿は流石に田舎なのでそこまで豪華ではないが、不快と思うほど汚くはない。


 宿では買い物を済ませたチュウジが机に顎を置いてダルそうに待っていた。どうやらいいデザインの服はなかったようで生地だけを買っている。金は持っているので服作成はプロに外注するのだろう。その方が多くの服をつくれるのでいいのかもしれない。


「意外に早かったわね。その村長にもっと無駄話をされていると思ったわ」


「まだまだ話しそうだったけど逃げてきたんだ。それよりもこれ知っている?これで洗うとこの生地ができるらしいよ。少し貰ってきた」


「へ~、これ重曹よね?」


「知っているんだ!」


「ええ、これを紅茶に入れると色が濃くなるのよ。サノスケに教えてもらったわ。でも、だからといっておいしくなるとは限らないけどね」


「この粉食べて大丈夫なの?まぁ、いいや。それでこれがなんでこんな効果があるのか知ってるの?」


「う~ん、なんだったかな。アタカリ?アクカリ?なんかそんな感じの性質が関係しているってサノスケが言っていたわね。興味なかったからあまり覚えてないわ」


「そんなもんだよね。明日は重曹をもう少し買ってから行こうと思います。ゲンさんはどう思いますか?」


 そもそもチュウジの情報に期待していなかったハジメは話を進める。明日はいよいよグラン大森林へと入るので最終確認をゲンザブロウと行う。

 今回はいくらハジメが中心として動いているとしてもゲンザブロウの意見は無視することはできない。


「そうじゃのう、特に付け加える意見はないぞう。明日は朝早く出発するから夜更かしには気を付けることだな」


「そうですね。隊員達にも伝えておきましょう。酒も控えさせてください。ではまた明日ここに集合してくださいね」


「わかったわ」


「あい、わかった」


 まだ夕方にもなっていないが今日は解散となった。


 ハジメは明日ネームドに遭遇した時のために矛を研ぐことにしたのだが、ここまで全然つかっていないなと思い留まる。 

 しかし、バックに入っていた重曹を取り出し試しに使ってみようと思った。


「なんか掃除に使うって言っていたしこれで磨いてもいいのかな?研磨剤に似ているし…」


 そう思いながら刃の部分に塗ってみるとわずかだが輝いているように感じる。感じるだけで実際はあまり変わっていないのかもしれないがきれいになったとハジメは感じたのだ。


 それからハジメは風呂に入り、夕飯を食べ、すこしだけ酒を嗜んでから就寝した。田舎なのですることもなく早めに就寝した。


 次の日の朝、寝坊するであろうチュウジを起こしてからハジメは集合場所に向かう。ハジメが到着したころには当たり前のように全員そろっており、あとは2人が来るだけになっていた。


「よし、来たな。これで全員集合だぞ」


「わかりました」


 なぜかハジメもチュウジと同じような扱いになっているため、そこは不覚に思ってしまったハジメである。


「それじゃあ、出発するとしましょうか」


「そうじゃな」


 八咫烏の隊員達はこれまでと同じように馬に乗って進んでいく。グラン大森林の中には馬を連れていけないので、村に置いていこうという案もあったのだが、大森林の前で一部の隊員が待機するのでそこまで馬を連れていくことになった。

 ハジメやチュウジなど隊長格にはわからないがネームドから逃げるだけでも一苦労なので、馬はできるだけ側に待機させることが必要らしい。

 そういうゲンザブロウの意見を理解したハジメは馬で行くことにしたのだ。


 村から2時間ほど進むとグラン大森林の前に着いてしまった。グラン大森林は近くで見ても異変が起こっているとはわからないほど静かで、大自然という言葉が似合うほど人の手がはいっていない感じがする。木が一本一本大きく獣道すら見当たらない。


 しかし、ここまでハジメたちは川を伝って来たからわかるが、川に河川生地の元が沢山流れていた。川はあたり一面真っ白で川に面している岩は識別できないほど河川生地の元が覆いかぶさっている。


「ほんとこれはなんだろうね。でも、発生源はグラン大森林の中からで間違いないようだよ。では、作戦通り各隊数名はここに残ってくれ。あとは川に沿って歩いていこう」


「「「「「おう!!!」」」」」


 そこから、ハジメ達は一列に隊列を組み進む。


 川の周りはベタベタしてしまうので、少し距離をとったところを歩いて行く。ハジメ、チュウジ、ゲンザブロウの順番に進んで行き、その後ろを隊員が付いてくるような並びだ。


 大森林の中を進んで行くと魔物はでてこないが、野生動物はどんどん出てくるようになった。無視はできないので退治していく。


「このイノシシ大きいわね。普通ネームドがでる場所は食糧不足でガリガリになるのにここのは丸々太っているわ」


「ほんとだ、おいしそうだね。帰りに持って帰ろう」


「だが油断は大敵だぞ。ネームドのほとんどは肉食獣が多い、イノシシは葉の根や虫を食べる。こいつはネームドと食料が被らなかったからここまで太っているのだろうな」


「そういうことか、見るからに葉の根とかの食料には困らなそうだからね。このイノシシを食べたら大きくなれそうだからもしかしたらネームドも育っているかもしれない」


「いや、ネームドは人を食べない限り能力的な成長はない。イノシシを食べてもネームドが育つということはないだろう。ただ、ネームドになる前の記憶によって肉を食べることがあると聞いたことがあるな」


「まぁ、そんなこともあるよね。こんなところに住んでいれば人間を食べる機会も少なそうだし」


 3人でグラン大森林の状況を考察していく、結局イノシシがおいしそうなことくらいしかわかっていないが、周りを少しずつ確認しながら進んで行く。


「南西方向!何か接近してきます!」


 突然6番隊の隊員が魔物の接近に気づき声を上げる。隊長3人が後ろを確認すると木の上を渡って大きな影が近づいてきているのがわかった。


 すぐさま隊員の前に出たハジメはその魔物に切りかかる。

 しかし、簡単に攻撃が弾かれてしまいすぐにカウンターが返ってきた。


 それと同時に魔物の正体が判明する。

 そこには裸の女が立っていた。しかし、下半身が蜘蛛のように6本の脚がついている。良く見ると上半身も虫が人間に擬態しているようで気色が悪い。

 そうとうな特殊性癖でなくては好む者はいないだろう。


「ゲンさん、これってアラクネだよね。ちょっと黒髪の俺達には荷が重いよ」


「しかし、戦うしかない。この人数なら流石に倒せるだろうから一斉にかかるぞ」


「はい」


 虫系統は緑髪の得意分野なので黒髪のハジメ達には苦手な分野となる。しかし、八咫烏は王家直属の部隊なので戦闘面だけにおいては国最高峰と言っていい。

 ハジメは弱音を吐いたが時間も掛ければ魔物一体くらい倒すことができる。


「もしかして村長が言っていた女の亡霊ってアラクネのことじゃないの?ほら障害物も多いし遠くから見たら裸の女性よ」


「確かアラクネを裸の女性と間違っても不思議じゃないね。それにそこら辺の一般冒険者数人なら歯が立たないと思うし」


「わしもそう思うぞ。ここのアラクネはイノシシ同様良く育っておる」


「まちがいなくイノシシを食べているだろうね。でも、イノシシは虫を食べる。虫であるアラクネはイノシシを食べる...なんだか混乱してきた」


「アラクネは虫と言うより魔物じゃ。イノシシには食べられんよ」


「それもそうか」


「それにしてもこの河川生地の正体がわかったわね」


 そう言ってチュウジはアラクネが攻撃と絡み合わせてきた白い糸を手に取った。

 このアラクネは蜘蛛の魔物なので蜘蛛同様に拘束用の白い糸を出す。この所為で数名が一時戦闘不能になってしまった。


「でも、なんかこれ脆くないかな?村ではゴシゴシ洗っても何ともなかったのに、これは俺でも引きちぎることができるよ」


「たしかに、粘着力も若干弱い気がするのう。それに服が作れるほどの強度があるとは思えん」


「そうね、川にはまだ河川生地が流れてきているからもっと強力な個体がいるかもしれないわ。それもネームド級のがね」


「ここに来てネームドの有力情報が手に入ったね。ここからはアラクネが増えると思うけど無用な戦闘は防いでいこう。そして、奥にはネームドがいると仮定して進もう」


 ここで大事なのは隊員の待機場所となる。ネームド近くまで連れて行くと大規模な戦闘に巻き込まれてしまい、このままアラクネと戦った場所に待機させても不測の事態に動くことができない。


 そこでゲンザブロウが“糸電話”を作った。隊員を等間隔に配置し、その間をそれぞれ持っていたコップとアラクネの糸を使い糸電話を作ったのだ。

 これはなんでもゲンザブロウが子供のころに流行った遊びだそうだ。


 そこからは生息している魔物の情報がわかったので、どんどん進んで行く。情報収集に長けているハジメは情報さえあればこのくらい難なくない。


 アラクネも体格が大きいので見つけやすいという点も大事だ。大きいので糸なしでは木の上に登れない。なので、あまり糸が張り巡らされていない木を見つければあまりこわくない。


 しかし、余裕だったのは中央付近に入ったとたんがらりと変わった。最後の隊員と別れた後、辺り一帯真っ白になったのだ。いたるところにアラクネの糸が張り巡らせており、川はもう見えなくなっている。

 ここが、アラクネ達の住処なのだろう。


 そして、そのエリアに一歩踏み出すと一気にハジメ達はゾワリと黒髪が逆立ったのが分かった。 これはネームドの存在を感じた証拠だ。

 だが、その殲滅したい欲に駆られながらも焦りはしない。


 それと同時にアラクネがぞろぞろと集まって来る、この糸すべてが鳴子のように侵入者を知らせる役目をしているのかもしれない。


 そう考えながらもハジメ達はアラクネ達の中央から目が離せない。


 黒髪ならわかるのだ。ネームドが近づいてくるのが。


 足音もなく表れたネームドは元はアラクネだとすぐにわかる。違いといえば下半身にも蜘蛛の顔が付いているところだろう。そして上半身は見た目が人間に近づいている。

 そして、なにより体がでかい。周りにいるアラクネの5倍はある。すでに数体のアラクネはその巨体に押しつぶされている。


 手にはなぜか木を持っており、その木を蜘蛛の方の口でばりばりと食べている。見ればわかるあれはゴムの木だろう。見るからに肉食であるアラクネには似合わない。


 そんなネームドの名前は”束縛の魔女(スパイダー・ウィッチ)”。自然を使い害をなす、理に反した魔女がハジメ達の前に現れた。+

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@doragon_narou8で検索したら出ると思います。名前は魔竜之介です。

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