第六話 トロナ鉱石と重曹
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朝早く起き、次の村へと出発をする。年長者ほど朝起きるのが早いと思うが、さすがに昨日のご馳走を前にはしゃがないわけがなく、浴びるように酒を飲んだものが多かったので、全員を起こすのにハジメは難儀した。
だが、1番起すのに大変だったのはチュウジだとは言うまでもない。
二日酔いが多い八咫烏の今日の目的は河川生地を買うこと。
この情報は隊長クラスだけでなく隊員全てに行き届いたようで、皆買う気満々だ。河川生地を家族や恋人などにお土産として買って帰ろうという考えだろう。
遠征が多い仕事についているので迷惑をかけているお礼と言うわけだ。点数稼ぎとも言う。
「ゲンさん、さっきの村のことは知っていましたけど、次の村のことはどんな村なのか知っていますか?少しでも情報が欲しいんですけど」
「そうじゃのう、一つ名産があるがそれは今は関係ないじゃろう。強いて言えば冒険者の街と言って良いじゃろうな。なぜなら、グラン大森林は低級のモンスターが多く住んでおる。だが、ネームド出現によって街の様子も変わるじゃろうから今はどうなっておるかわからんのう」
「そうですよね。もしかしたら冒険者を相手にしている商売人が生活をすることができてない場合がありそうですね。こう言う時って国は補助金とか出すんですか?」
「どうじゃろうか、聞いたことないのう。何もしないことが多いと思うぞ」
八咫烏は軍務系なので財政のことは詳しくないため知らないが、実際は税金を集めている者、則ち領主が支援を行っている。しかし、今はネームド(仮)の出現によって商人がグラン大森林付近の街や村に物資を届けることができないため、支援ができない状態になっている。
「しかし、今回の任務は本当にネームドなのでしょうか?俺今までこんなに情報が曖昧な任務初めてなので結構ビビってるんですけど」
「ハジメはまだ隊長になってから日が浅いから比較的情報が開示された任務に送られておったのじゃよ。だがここまで何もわからない任務は久しぶりになるのう。少なくともネームドかそうじゃないのかの情報は欲しいところじゃな」
「そもそもこう言うのってどうやって集めているんでしょうね?」
「ほとんどが市民からの通達じゃな。それをサンジュウロウが裏付ける証拠を持ってくるのじゃ」
ゲンザブロウが言うサンジュウロウとは、八咫烏7番隊隊長のことで名をサンジュウロウ・タニと言う。仕事は主に情報収集だが、特に情報収集に特化した能力を持っているとかそう言うのはない。
ただネームドかそうではないかの確認をする、黒髪持ちなら誰でもできる仕事だが、命懸けである。
2人でいろいろ話しながら道を進こと5時間、遂に2つ目の村が見えてきた。村の近くには大きな川が流れており、水害など大丈夫なのかと思いそうだが、近くで見るとしっかりと整備されている。それ以外は普通の村だ。
グラン大森林に1番近い村と聞いていたが、さすがにここから見える位置にはないようで、魔物の影響も今のところないようである。
隊長クラス3人はまた村長に挨拶に行く。しかし、前回の村とは違い門を守っている衛兵に止められてしまった。
衛兵は小さな村を守っているとは思えないほど良い装備を着けていたのでハジメは警戒してしまう。
「八咫烏の皆さんですか?村長が宿の方に向かって欲しいとのことですので、そこの井戸を曲がった先にある赤色の屋根の建物に向かって下さい」
「わかった。俺たち村に入っても問題ないよね?」
「はい、村長に話を聞いているので大丈夫ですよ」
「わかった。ありがとう」
小さな村であれほど装備が整った衛兵を見たことがなかったので、ハジメは止められた時に少し驚いてしまったが、話し方が丁寧だった為すぐに大丈夫だと感じた。
入っても大丈夫なのか聞いたのは念の為だ。
衛兵に言われた通りに赤色の屋根の宿に向かう。
宿は思っていたよりも大きかったが、お世辞にも綺麗とは言えない内装をしている。これは冒険者用の宿だとハジメはゲンサブロウに教えて貰った。
「おーい!八咫烏の人たちだよね、こっちだよ。俺が村長!一緒にご飯食べようよ!」
「......ああ」
今回立ち寄った村の村長は30前くらいで若いのにも驚いたが、服装はもっと若いのに3人は驚いた。
話し方も立場が上の相手に対してもタメ口で、関わりたくないタイプの人間である。
「それで、ここで話をするのか?」
「ああ、ちょうど飯の時間だから食いながら話そう」
「...そうだな。ちょうど時間的にも昼食の時間か。みんなも今のうちに昼食を取っておけよ」
ハジメが隊員達に指示を出す。指示を出すと各々席について注文をしていく。だが、こういった感じの宿は酒以外メニューは少ないので皆同じものを頼んでいた。
ハジメ達も村長のテーブルに座る。食事は隊員達と違い座るとすぐに出てきたのであらかじめ村長が頼んでいたのだろう。
気が効くじゃないかとハジメは思うも、あまり美味しそうではない食事にげんなりしてしまう。チュウジなど店員に何も言わずに自分が持っていたお茶を入れ始めた。
「すまねぇな。今グラン大深林がネームドって言うやつの所為で冒険者が来なくなってしまったんだ。だから収入源がなくて村の食事もあまり良くなくてな、我慢してくれ。あ!まずは自己紹介だな。俺はこの村の村長をやっているクルスだ。よろしくな」
「俺は八咫烏3番隊隊長のハジメだ。まぁ、食事の件はしょうがないとわかっているから大丈夫かな。そこまで拘ってないし」
「それはありがとな、代わりと言ってはなんだがこの宿使ってくれ。いつもは冒険者が使っているんだが、今は閑古鳥が泣く状態だ。部屋は空いているだろう」
「それはありがとう。ありがたく使わせてもらうよ」
ハジメは宿を無償で借りることができたので、一段落ついたと食事を口に運んだ。
用意されていたのはパンと少し小さいステーキとサラダだ。ステーキは見た目通り噛み切りにくかったが、ソースがおいしかったのでハジメ達は問題なく食べることができた。
「それじゃあ、本題なんだけどこれからネームド討伐に向けて情報が欲しいんだけど何か知らないかな?」
「ネームドって奴があんまりわからないが、グラン大森林で暴れてやがる魔物のことなら少しわかるぞ」
「マジで!詳しく教えてくれ!」
「おお、ちょっと落ち着け。ちゃんと話してやるから」
「...ごめん」
ハジメはここに来てようやくネームドの情報が手に入ると思った為少し興奮し、テーブルを乗り越えて村長に顔を近づけ過ぎてしまった。
村長の一言を聞いて我に帰ったハジメは席について話の続きを聞く事にした。
「これは俺が聞いた話だがな、冒険者が行方不明になる前にグラン大森林の中で裸の女を見たって言うんだよ。でもな、あんな場所に裸の女がいる訳がないんだよな」
「そりゃそうだ。それで?」
「ああ、だからな昔の女冒険者の亡霊って事になったんだよ。だが、亡霊でも女の裸だぜ?男なら誰でも見たいだろ?だからバカな奴が見に行っているらしくてな、そう言う奴が行方不明になっているって訳だよ」
「なら村長は神隠し的な霊的な事だと思っているってこと?う〜ん、なんか酔っ払いが作ったみたいな話だな。まぁ、頭の片隅には置いておくよ」
さすがに信憑性のない話だったのでハジメは聞き流した。アンデッドがいるこの世界で霊などはあまり怖がられていない。紫髪持ちによって簡単に討伐されてしまうからだ。
「他に情報はある?」
「ないな。あの話を聞いてから冒険者がいなくなってしまった。これも亡霊の仕業かもしれないぞ」
「はいはい、亡霊の話はいいから」
「つまらねえな、冒険者がいなくなってから話し相手がいなくなって暇なんだよ。俺の元カノとかの話をしてやろうか?」
「いらねぇ、金払われてもそんなつまらない話聞きたくないね」
どうやら村長は冒険者の口調が影響しているようだ。だが、それもここ最近冒険者が来ないので寂しい思いをしていると初めに伝えた。だが、この口調故にハジメは心を開き、遠慮を忘れてしまったので容赦無く断る。
「ねぇ河川生地は?私達河川生地買いに来たんだけど」
「いや、ネームド討伐だから。忘れているよね?そこだけは守ってよチュウちゃん」
「河川生地?そんなものそこらへんで売っているぞ。行ってみるか?」
「え?付いてくるの?俺達でかってに行ってくるからここにいろよ」
「まぁまぁ、そう言わず。俺が案内すれば安く手に入るかもしれねぇぞ。損はさせねぇから任せろよ」
「どんだけ暇人なんだよ...」
どうやら村長自ら村を案内してくれるようだ。
「そう、じゃあハジメをよろしくね。私は先に行っているわ」
「わしも行くとするかのう。ハジメ情報収集は任せたぞ」
「え!俺1人でこいつの相手をしないといけないの?それはないよう」
「おいおい、任せておけって。どうやらお前とは仲良くやれそうだ。ほら、早速行くぞ!」
「...あとで覚えておけよ」
こうしてハジメと村長のマンツーマンの村案内が始まった。
村の中心では数は少ないがちらほらと服が売ってある店があった。どれも河川生地が使われているようである。
この村の特産がいくら河川生地と言っても村人の数が少ないので、服の生産はあまり多くないようである。その代わり生地自体はたくさん用意してあるようで服の3分の1の値段で生地が売ってあった。
「これが河川生地だよね?おばさん」
「いらっしゃい!そうだよ、買っていくかい?」
「ああ、売れる分全部ちょうだい。先輩にお土産で買っていきたいからね」
「太っ腹だね、さすが王都からやってきた人達だ、ほら全部持っていきなさい。全部で銀貨3枚だよ」
「安いね、その値段でいいよ。ありがとう」
「また来な!」
ハジメは一店舗分の生地を買い占めた。他の隊長や隊員も他の店から河川生地を買っていたのでそれほど良い生地なのだろう。
しかし、この生地は一体どこから手に入れているのだろうか?村には王都にある大規模な製糸場は見た感じないのだが、これほどの量の生地を手に入れるには必要だろうとハジメは思った。
「村長、そもそもこの生地はどうやって仕入れているんだ?製糸場もないし、原材料となりそうなものもないから疑問に思うんだけど」
「ああ、そうだね。別に隠すことでもないから教えても良いか。こっちに来てみなよ」
「教えてくれるんだ」
確かに河川生地のような滅多に手に入らないものは仕入れ先や製造方法などが秘匿されていることをハジメは思い出した。情報一つだけで家族を養っている者もいるのでそこら辺はなんとも言えない。
村長が案内した先は村から少し離れた川だった。この村に八咫烏が来た時に見た川だ。
川には年配の女性や子供たちが川でひたすら何かを拾っていた。
「これが河川生地の元になる糸さ。この糸は2ヶ月ぐらい前かな?それぐらいの時からこの川に流れてくるようになって、最初は迷惑だったんだけど、今は良い収入になっているってわけ。どう?すごいだろう?」
「すごいかどうかは別として、不思議だね。なんで河川生地って名前か気になっていたんだけど川から流れてくるからだったのか。ちなみにこれが何なのか調べに行ったの?」
「いや、それがこれはグラン大森林から流れているみたいでさ、ちょうど行方不明者が出てきた時と時期がかぶってしまって調べにいけなかったんだよ。迷惑なもんだ」
「ふ〜ん」
試しにハジメも拾ってみる。
糸は全て真っ白で太さも髪の毛ぐらいだろうか、長さはバラバラで短いのもあればものすごく長いものもある。どうやら流れてくる間に千切れてしまっているのだろうとハジメは予想をした。
「あ、黒髪のお兄ちゃん早くこのバケツに入れないと手にくっ付いちゃうよ」
「わ!本当だ。ベタベタするね」
糸を長い間持っていると手にくっ付いてしまった。水につけていないとこうなるようで拾っている者は皆バケツに水を入れ、そこに糸を浸けているようだ。
「この糸ベタベタするけど本当にあの河川生地になるの?天日干しでもして水分を抜く感じかな?」
「いや、この糸は乾かしてもベタベタするんだ。だから、ここで一工夫するんだよ。次はこっちに来てみな。答えがあるからさ」
「はいはい、次はどこに行ったら良いんだ?」
次にハジメが案内された場所は井戸だった。井戸の周りには衣類などを洗う洗い場があり、5.6人の主婦たちが一心不乱に真っ白な糸を擦りながら洗っていた。
「洗ってベトベトを取っているってことか。意外でもなんでもなかったね」
「それが普通に洗ってもダメなんだな。この粉を混ぜないとベトベトは取れない。しかも粉もこの村の名産だからすごいだろう」
村長は側にあった白い粉をハジメに見せた。
「この粉は何だ?もしかしてやばい粉だったりして...色も白いし」
「いやこれ、危なくないし、吸わないからね。あれ?知らないかな?これ自体は有名だと思うんだけど」
「これはトロナ鉱石から作られた重曹じゃのう。重曹は掃除とかに使うんじゃよ。ハジメは訓練ばかりで掃除とかやってこなかったから知らなくて当然じゃな」
「あ!ゲンさん」
ここでゲンザブロウが2人の元にやって来た。手にはたくさんの買い物袋を持っているので用事を済まして来たのだろう。
ゲンザブロウはこの白い粉のことを知っていたようでハジメに説明をする。
「トロナ鉱石は確かこの川を越えた先にあった記憶しておるぞう」
「そうだね、このおじいちゃんの言う通りトロナ鉱石は湖の近くで採れるんだよ。この村の男どもは専らこの鉱石を採掘に行くのさ。もし時間あるなら行くかい?案内するよ」
「やだよ、さすがにそれは無理だね」
「それは残念」
さすがに体力が余っているハジメでも、もう村からはこれ以上出たくないと言う。ハジメより元気な村長はそれを笑いながら残念がった。
「しかし、重曹は掃除だけに使うと思っていたのだが、こんなことにも使えるのだな。この年になっても学ぶことは多いのう」
「よかったね。俺も学んだよ」
「ほっほっほ、そうかそうかよかったなハジ坊よ」
2人は会話を無理矢理終わらせながら村の方に向かって歩き始める。こうしないとまだまだ話したがっている村長が会話を続けそうだったからだ。
こうしてハジメは幾らか重曹を村長に貰って八咫烏が待っている宿に向かった。重曹をもらったのはチュウジに学んだことを自慢するためだ。
いくら女性と言っても掃除などしたことがないチュウジが重曹のことを知らないと思って...
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