第五話 ゴムの木と河川生地
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八咫烏本部で会議をしてから3日経ち、3番隊、4番隊、6番隊が新たなネームド討伐に向かう日となった。集合場所は王都を魔物から守っている門となっており、ハジメは集合の30分前に門に着いた。
しかし、ハジメはすでに集合していた隊員を見てあることに気がつく。
「あれ?今日馬が必要なの?聞いてないんだけど」
「え?私たちは副長に9番隊が急遽任務によって馬を持っていったから自分達の馬は各自で用意してくれと言われました。なので隊長もそうなのかなっと思って...」
戦馬は高級品なので軍で用意しようとすると高い経費がかかる。なので、いくら王国の軍隊と言っても八咫烏全員の戦馬を用意することができない。
わずかに八咫烏本部で育てていた戦馬も9番隊が持って行ったと隊員は言う。
そこで、いつもは八咫烏の戦馬を使うハジメは途方にくれていた。
「どうしようかな。歩きか...」
「やはりハジ坊は馬を忘れてきたか。この間の会議で9番隊が持っていくから各自で用意しろと副長が言ってたではないか。ほれ、わしはこうなることを予想して馬を2頭持ってきたぞ。これを使いなさい」
ここで、ゲンザブロウが2頭の馬を引き連れやってきた。
「ありがとう!ゲンさん。やっぱりゲンさんはすごいよ。このままずっと八咫烏にいてください!」
「いやいや、もうわしは引退したいのにのう。こんなことを言われたらやめづらいではないか。早く孫の様子を見ながらゆったりと余生を過ごしたいのに」
「ほらほら、そんな年寄りくさい事言わずに早く出発しましょう!俺が先頭を行きますね、おい!整列を組め、出発するぞ!」
今までこの世の終わりの様な顔をしていたハジメは、そんなことがなかったかのように明るくなった。すでに集合時間が過ぎているのですぐに出発するように隊員に伝える。
しかし、ゲンザブロウはもう1人隊長が来ていないことに気がついた。
「いや、まだ1人来ていない様じゃぞ。全員揃わないと出発はできんのじゃ」
「誰ですか?もしかして俺の部隊とかですかね?いや、揃っているみたいです。ゲンさんの部隊も揃っているし...あ!よく考えたらチュウちゃんがいない!」
今回からネームド討伐に向かう際は3部隊での行動になったことをハジメは思い出した。なので、あと1人隊長がいないといけない計算となる。
そこで、ハジメはチュウジがいないことに気が付いた。こんな時も遅刻しているのかとハジメは思う。
「ゲンさん、もしかしてチュウちゃんっていつも遅刻してくるんですか?俺初めて一緒に行くので知らないんですけど」
「他の部隊の時は知らんが、わしの時は毎回そうじゃな...」
さすがのゲンザブロウもチュウジの遅刻の多さには庇いきれないようだ。庇ったとしても何も変わらないのだが。
そうこうしていると遠くから1人の女性が歩いてやって来た
その女性は迷うことなくチュウジだとわかる。
さすがに寝巻きではなくレザーで作られたコートを着て、うっすら化粧をしているのだが、誰かさんと一緒で馬を持って来ていない。
ハジメと同じく会議中に寝ていたチュウジは馬が必要なことを知らないようだ。
「ゲンさん、見てください。目を背けないでください!」
「見たくないぞ、絶対に見たくない」
「ほら、眠そうな顔でこっちに来ましたよ。あ!ちょっと!逃げないでください!もう...チュウちゃん、なんか今日馬が必要らしいよ」
2人とも馬を持って来ていないチュウジを見ないようにしているのだが、さすがにずっとこのままでは任務に向かうことができないので、ハジメは仕方なくチュウジに話しかける。
「そうなの?馬なんて持って来てないわよ。そもそも高価だから持っていないし」
「いや、そんな言い切られても...どうしましょう、ゲンさん」
ここにわざわざ馬を2頭持ってくる人など誰にでも優しいゲンサブロウしかいないので、もう馬は余っていない。馬を持って来ていなくて肩身の狭いハジメは自分ではどうしようもなくなり、ゲンサブロウに助けを求めた。
「ハジメの後ろに乗せるしかないのう。女性と一緒に乗るのは恥ずかしいと思うが我慢してくれよ」
「うっ、2ケツは恥ずかしいけど、断れるほど立場が強くないからな...」
「どうやら決まったみたいね。さっそく行くわよ」
「こいつ...」
誰のせいでこうなったのかと大声で叫びそうになったが、そもそも自分も悪いのでギリギリのところで口をつぐんだ。
ちなみにハジメも馬を忘れたことはチュウジには言っていない。
そして、ようやく出発した部隊は相変わらず何もない砂利道を進んで行く。
王都から一歩でも出ると人の手が入っていない自然が広がっている。なぜかというと、これは魔物が関係しており、経費をかけて対策をしないとすぐに土木作業員が襲われてしまい工事どころではなくなるのだ。なので、商人と冒険者しか通らない道に経費をかけるよりも、王都の中で皆が使う道に経費を使ってしまうので外の道は全て砂利道となっている。
馬には蹄鉄を履かせているので砂利道でも大丈夫だ。
「ゲンさん、ここからグラン大森林まで2日かかるのですが野営をするんですか?」
「どうやらいい所に小さな村があるらしから、そこで休むことになっとるんじゃよ。何軒か空き家を手配してもらっておるから、そこで寝られるぞ」
「へー、それは良かった。俺はともかくゲンさんとチュウちゃんは野営とかできなさそうだからね」
「確かにわしはそうだのう。もう歳には勝てんくなってしまったんじゃよ。だが、もう1人の方の心配はしなくても大丈夫みたいじゃぞ」
「本当だ。まだ出発してから全然経ってないのにもう俺の後ろで寝ているよ。このための縄なのか」
チュウジが馬に乗る際に自分とハジメを縄で結んで固定をした。そこまでしないでも落ちないだろうと思っていたのだが、まさか寝るために固定させたのかとハジメは驚いてしまった。
それから砂利道を進むと艶やかで肉厚な葉が付いている木が生えた森が見えてきた。だが、森と言っても明らかに人の手が入っているように見える。
さらに、そこに生えてある木にはどれも傷をつけてあり、そこから白い液体が出ていた。どうやらそれを誰かが集めているようだ。
「ハジ坊、あれを見てみなさい。あれは何をしておるか分かるか?」
「え?なんでしょうか。樹液を出して虫を捕まえるとか?でも不味そうな樹液ですね...」
「そりゃそうじゃ、あの木の樹液は食べるために取っているわけではないからのう。あれはゴムの木じゃ。だから、白い樹液はゴムの原料なのじゃよ」
「へー、あの樹液から作るんですね。でも、ゴムって白かったですっけ?確かほとんど黒色だったと思いますけど」
「あれは真っ黒い炭を混ぜているからじゃよ。炭を混ぜたら強度が上がるらしいからのう」
「そうなんですか、さすが物知りですね。年の功って言うやつですか?」
「そうじゃ、今向かっている村の特産がゴムで有名じゃぞ。もうそろそろ着くはずじゃ」
ゴムの木でできた森を抜けると小さな村が見えてきた。村自体は小さいが、各家は王都の平民街の家よりも立派で、相当ゴムで儲かっていることを村全体で表していた。
ほとんどの家が新築のようで、だからこそ自分たちが泊まる空き家が多いのだろうとハジメは考える。
村に着いた隊長クラスの3人はまず村長の屋敷に向かう。さすがに許可を得ているとしても30人以上の武装した軍隊を何も言わずに村に入れたら睨まれてしまうので挨拶に向かうのだ。
あと情報収集もしなくてはいけない。
「あの屋敷ですかね、これまた大きい。本当にこの村はゴムで儲かっているみたいですね」
「そうじゃのう。最近では高級馬車の車輪にも付けられておって、これを付けていると乗り心地が良いらしく貴族どもがこぞって手に入れようと奮闘しておるみたいだぞ」
「貴族が欲しがるなら相当良いみたいですね」
「ほら、屋敷の前に立っておる男が村長じゃ。今回はハジメが中心となって情報を集めてみなさい。勉強になるぞ」
「わかりました。こんにちは!八咫烏3番隊隊長のハジメ・サイトウです。今日はネームド討伐のために来ました」
村長の屋敷の前には使用人を引き連れた村長が立っていた。村長宅に使用人がいるのは珍しいが、屋敷の大きさからして妥当だろう。
村長は50代後半くらいで肥満体型だ。だが、髪の毛が残っている為そう言った不安などはなさそうである。
「これはこれは初めまして八咫烏の皆さん方、私が村長を任せてもらっておりますベランです。この度は王都からわざわざ来てもらってありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、空き家に豪華な食事を用意しておりますので楽しんでいってください」
「わざわざありがとうございます、村長さん。しかし、ここまでしていただいて大丈夫ですか?この街はあまりネームドとは関係なさそうですけど」
「いえいえ、それが私たちどもも関係があるのです。詳しい話は中で致しましょう」
「そうですね。お願いします」
ハジメ、ゲンサブロウ、チュウジの3人はそれぞれ自分の隊に休息を取るように指示を出してから村長宅に入っていく。
屋敷の中はさすがに貴族の様に絵画や壺などを飾ってはいなかったが、机や椅子などには細部までこだわっていることが窺える。
3人と村長が席に着くとすかさず使用人が紅茶を出してくれる。その紅茶を一口飲んで話し合いが再開された。
「それで、この村とネームドの関係性なんですけど、何があるのでしょうか?」
「実は私たちの村の特産であるゴムの木はグラン大森林の固有種なんです。それをここまで仕入れて来て育てているのですが、最近ではネームドの所為で仕入れができていません。事業の拡大を考えていたのですが今は計画が頓挫しています」
「なるほど、そういうことですか。確かにそれは痛いですね。もしかして、この村からグラン大森林に行った人とかはいるのですか?もしいるとしたらその人からも話を聞きたいですね」
「それがこの危機を思って私の孫を含めた5人ほどの若者がグラン大森林に向かったのですが、誰も帰って来てないのです。もしかしたら...なので、八咫烏の皆さんに討伐をお願いしたいと思います。この村からも協力は惜しみません」
「わかりました。私達も最善を尽くしますので一緒に戦いましょう。お孫さんもまだ亡くなったと言うわけではないと思うのでそちらの方も任せてください」
「わかりました。よろしくお願いします」
ハジメは協力を惜しまないという言葉を聞いて、目の前の村長のネームドに対しての本気度が伝わってきた。孫が帰っていないと言うのでもしかしたらもう手遅れになっているかもしれなが、もしもの場合に備えて探して見ようとハジメは思った。
この考えはゲンザブロウとチュウジも同意してくれたのでネームド討伐に加えて生存者捜索も任務に加わった。
「ところで、気になっていたんだけどあなた達が着ている服の生地は王都でも見た事ないわね。これでネグリジュを作ったらよく眠れそうだわ」
ここで、今まで黙って紅茶を飲んでいたチュウジが初めて声を出した。
「確かに、シルクの様に見えるけど伸縮性がすごいね。俺も触った事ない生地だ」
「わしでも初めて見るのう。どこに売ってあるのじゃ?」
ハジメも使用人が来ていた服を触らせて貰ったら初めての感触に驚いてしまった。ゲンザブロウも同じく驚いた顔をしている。
どうやら村長だけでなく使用人まで不思議な生地で作った服を着ていると言うことは、あまり高価ではない生地のようなのでハジメ達はこの生地について質問をした。
「この生地は“河川生地”と言って隣の村で最近になって売られ始めたのです。ちょうどここからグラン大森林に向かう道を進むとその村はあるので寄ってみてください。確か値段はそこまで高くないですよ」
「そうか、どうやら明日泊まろうとしていた村にその河川生地と言うのが売ってあるらしいのう。それはちょうどよかった。わしも買って帰ろう」
「私も絶対買うわ。最近暑くなっているからこの生地は最適ね。涼しそうだもの」
「インナーとしても良さそうだよね。汗を吸いそうだし。こうなったら明日は早く出発して買い物の時間を作らないといけないですね」
「えー!早起きなんて嫌なんだけど。でも、すぐに売り切れたら嫌だわ。また村に来るのはめんどくさいし。しょうがないから馬の上で寝るとするわ」
「そうじゃのう。我慢じゃ」
楽しみが増えた3人は明日すぐ出発をすることにした。約1名少し反対したが最終的に賛成をしたのでハジメは安堵する。
それから話し合いが無事に終わった。あまりネームドの情報は手に入らなかったが、何がヒントになるか今の所分からないので最近の出来事など細かく聞いた。
今回は河川生地以外の有用な情報は聞けなかったので次の村に期待しながらハジメは空き家に向かい、ご馳走を口にする。
だが、この河川生地がネームド討伐に向けての大きな情報となったのは今のハジメ達には知る由もなかった。
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