第四話 隊長と会議室
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「3番隊只今戻りました!」
「同じく、2番隊も只今戻った。今回報告のあったネームドも討伐してきたぞ!」
「おかえり、2人とも。今から会議をするところだからちょうどよかった。私もすぐに行くから先に行っておいてくれ」
ハジメとシンパチが八咫烏の本部に戻り、帰還したことを局長であるイサミ・コンドウに報告する。室内なのに帽子を被っているが、何故なのかはハジメには聞けない。ハゲ隠しなのかと思うも、後ろ髪が少し帽子から出ているのでそうではないようだ。
それに40代の男の髪事情など別にどうでも良いとハジメは思うので追求はしなかった。
そんなイサミは優しい声と口調とは裏腹に今さっき帰って来た2人に会議に参加するよう伝える。
「後でも良くないか?」とハジメは思いながらも、上下関係に厳しいイサミにそれが伝えられるはずもなく速やかに同意の返事をする。そして、シンパチの方は疲れていないので、なんとも思っていないようだ。
「わかりました。ネームドの死体は解体場に置いておくよう部下に指示しておきました。ネームドの詳細は後日書類作成後にさせていただきます」
「わかった。それにしても仕事ができるようになったじゃないかハジメ。最初の頃はトシゾウにしこたま怒られていたと言うのに。そう思うよな?シンパチ」
「はい、戦闘もその後処理も完璧にこなしていましたぞ。時代の流れとは早いものですな」
「ああ、同感だ」
「なんだかほのぼのしているところ失礼なのですが、会議があるのでは?早くしないと副長に怒られますよ。あの人場合によっては局長相手にでも説教しますからね」
「そうだな、だが時間的には大丈夫だ。しかし、ハジメは早く行った方がいいな。今日の報告が以上なら会議室に向かっていいぞ」
「わかりました。それでは失礼しました」
「我輩も失礼するぞ」
イサミの書斎から出た2人は会議室に移動する。移動すると言ってもイサミの書斎の隣の部屋なのですぐ着いてしまう。
会議室はシンプルな作りで、広い部屋に長方形の大きな会議テーブルが置いてあるだけ、あとはお茶出し用の小さいシンクが隠れるように置いてある。
椅子は局長と副長、隊長クラス10名の計12脚ある。すでに4名が揃っていた。
会議は任務で遠征をしていない限り強制なので他は任務中なのだろう。
「ハジメ、少し遅いのではないですか?あなたは1番若手なのだから率先して場の設営をしなくてはならない。俺の教えたことを忘れたわけではないですよね?」
「げっ!もういた」
「もういたではない!」
「いや、今ネームド討伐から帰って来たからしょうがないじゃないですか、副長。それに今の時代若手だからって雑用のように扱っていたら“パワハラ”って言うやつでそのうち訴えられますよ?」
「またごちゃごちゃと意味のわからないことを。いいから茶の準備をしなさい」
八咫烏のトップ2である副長を任せられているトシゾウ・ヒジカタはハジメが会議室に入った途端ダメ出しをする。
トシゾウの主な仕事は人員の育成。八咫烏の今の若手は子供の頃からトシゾウにこれでもかと言うほど厳しい試練を与えられている。
今日もハジメを叱りながらお気に入りのメガネを光らせていた。
そして、教え子の中でもハジメはトシゾウが教育係を任せられた年である9年前から教育を受けており付き合いも長い。それゆえ、昔からハジメはトシゾウに苦手意識があった。
「これこれ、今回は遠征から帰って来たばかりだと言うからしょうがないじゃないか。それにわしもお茶を淹れるのは好きだから大丈夫じゃよ。茶菓子もわしが持っていたのじゃ。2人とも食べなさいな」
「ありがとう、ゲンさん。あ!このお菓子最近人気のお店のところですよね?美味しいな。お茶もどれど......お、美味しいです...」
「本当にこいつは。ゲンさんもあまり甘やかさないでください。ハジメは後で訓練に参加することだ。まったく、ぐっ...この茶...」
2人ともあまりにも渋いお茶に2人とも黙ってしまう。いくら隊長クラスと言ってもいきなりこの渋いお茶を飲んだらさすがに言葉が出ない。
それにこのお茶を入れてくれた八咫烏6番隊隊長を任せられているゲンザブロウ・イノウエは八咫烏最年長の70歳であり、物凄く優しいお爺さんで八咫烏の隊長含め隊員全てお世話になっているためトシゾウでも文句は言えない。
「やっぱ俺がお茶を淹れようかな...」
「我輩のも頼む」
シンパチはゲンザブロウの淹れるお茶が渋いことを知っているので、ハジメにお茶を淹れるようにお願いをする。
ハジメにお茶の淹れ方を教えたのはトシゾウなので、トシゾウもまたハジメに頼もうとしようとしたところ、会議室のドアがゆっくりと開いき、ダラダラと1人の女性が入ってきた。
「危ない、危ない、遅刻するところだったよ。間に合ったみたい」
「おい、チュウジ。集合時間には遅刻です。あなたは今まで仕事はなかったではないですか、なのに遅刻とは...もっと時間に余裕を持ちなさい」
「はいはい、副長はいつもピリピリしているね。あ。このお茶ハジメの?全然飲んでないじゃん...ってまずい...」
「声が大きいよ、チュウちゃん。これゲンさんが淹れてくれたんだから」
「ホッホッホ。若い者には少し渋かったのか。次は違う茶葉を買うとするか」
ゲンザブロウは笑って不味いと言われたことを受け流す。しかも、その相手のために新しい茶葉を買おうとしているので、本当に優しいなとハジメは思った。
「若いって私もう28で大人の女性なんだけど...お茶は私がいれる。ハジメのそのお湯頂戴」
「はい、どうぞ。それにしてもその服どうにかならない?絶対それ寝巻きでしょ。ブラ紐見えてるよ」
「ハジメのエッチ。この服はだらだらしやすいのよ」
八咫烏4番隊隊長であるチュウジ・マツバラはいつも八咫烏の本部では全く色気のないタオル生地のネグリジュを着ている。だが、長年愛用しているのか首元がダルダルに伸びきっており、かがむと周りの男はハラハラしてしまう。
そのせいなのか、八咫烏の中では男性人気が高い。だが、チュウジと結婚や婚姻をしようと思う人は全くいない。それもだらしない性格が関係しているだろう。
「今日はダージリンにしようかな?あなた達も飲むでしょう?」
「はい」
「うむ」
「...ああ」
他の隊長も各々返事をする。
こんなに見た目がだらしない人なのに、お茶を淹れることに関してはチョウジの右に出る者はいない。なので、ハジメやシンパチどころかトシゾウもチュウジのお茶を要求した。
この会議室のティーセットもチュウジが用意している。
チュウジは6人の返事を聞いてから人数分のティーカップを温め始め、その後空気を多く含んだ軟水をティーポットに入れ、スプーン1杯分の茶葉を蒸らす。
3分蒸らしたところで少しずつティーカップに入れていく。この時に、最後の一滴はしっかりと自分の分にチュウジは入れる。
「本当に美味しいよね、チュウちゃんの淹れるお茶は。何が違うんだろう?淹れ方は同じだと思うのに」
「めんどくさいから教えてあげない。やはりこのお茶菓子はダージリンが合うわ。美味しい」
そう言ってチュウジは自分の時間に入ってしまう。他の隊長クラスもお茶を飲むのに集中してしまい、全員無言になってしまった。
しかし、ちょうど仕事を終えたイサミが会議室に入ってくることによって静寂の時間はすぐに終わった。ちなみにイサミはマイボトル派なのでお茶の準備はしなくてよい。
「よし、会議を始めるぞ。それで、今日集まった者は7人と。結構集まったな」
出席の有無
局長 イサミ・コンドウ 出席
副長 トシゾウ・ヒジカタ 出席
1番隊隊長 ソウジ・オキタ 欠席
2番隊隊長 シンパチ・ナガクラ 出席
3番隊隊長 ハジメ・サイトウ 出席
4番隊隊長 チュウジ・マツバラ 遅刻
5番隊隊長 カイリュウサイ・タケダ 欠席
6番隊隊長 ゲンザブロウ・イノウエ 出席
7番隊隊長 サンジュウロウ・タニ 欠席
8番隊隊長 ヘイスケ・トウドウ 欠席
9番隊隊長 ミキザブロウ・スズキ 出席
10番隊隊長 サノスケ・ハラダ 欠席
尚、欠席者は全員任務のため欠席している。
「はい、そのようですね。会議を始めましょう」
「それでは、最初の議題だが5番隊と10番隊が対応しているネームドが予想よりも手強く苦戦しているらしい。なのでその援護に行って欲しい。誰か行ってくれないか?」
「質問なのですが、ネームドはどの様な特性なのでしょうか?それによって決めた方がいいでしょう」
「そうだな。鳥系の魔物のネームドらしい。攻撃力が高く一撃でも多く耐えられる者が欲しいということだ」
「では、私たち9番隊が行きましょう。私の盾が役に立ちます」
「わかった。よろしく頼む」
「はい、畏まりました」
八咫烏9番隊隊長であるミキサブロウ・スズキは大盾使いなのでこの任務に向いていると自分で伝える。他の隊長も同じ考えなのかすぐに決まった。
「少しいいでしょうか?近頃ネームドの討伐難易度が上がっています。私たちも今回のネームドに苦戦しました。今までの2部隊体制ではなく、ここからは3部隊以上での行動にしませんか?」
「我輩も同じ気持ちだ。これまでのような余裕はなくなってきている。このまま行くと八咫烏は壊滅してしまうぞ」
「それはあまり戦場に出ていない私も思っていた。それを踏まえて次の議題であるネームド討伐は3人で行ってもらうよ」
「あい、わかった。それなら我輩が行こう」
「悪いがシンパチは別の仕事を頼みたいから3番隊、4番隊、6番隊で行ってもらおうかな。3日後に王都から北に移動したところにある“グラン大森林”に向かってくれ。なんでもそこの大森林の近くを通る商隊が襲われたらしい。たくさんの髪色持ちが何人か向かったが誰も帰って来ていない。そこでネームドが生息していると予想され私たちに依頼してきた」
「冒険者は森で迷子になっている可能性はないのですか?」
「そうかもしれんが、依頼者からはネームドの可能性が高いと言われた。この街道を商隊が使えないと飢える街が出てくる。あちらもギリギリなのだろうな」
月に一度の商隊だったので、一度の失敗で街に大きな損害が出ており、すでに2回失敗しているので依頼者は後がなかった。
そして、依頼者は王家を通して八咫烏に依頼しているので、断ることはできない。
しかし、八咫烏はネームド以外とはあまり戦えないのでネームドかそうでないかの情報が大切なのだ。
だが、逆にネームドだった場合を考えて、民のためハジメは行動することを決めた。
「わかりました。この任務承りました」
それからもどんどん会議が進んで行く。だが、ほとんど話す者はイサミとトシゾウだけだったのでハジメとチュウジは睡魔と戦うことで大変だった。
会議が終わった頃には夜になっており、夕食を取りに行く。
結婚していないハジメ、シンパチ、チュウジ(ミキサブロウはすぐに援軍に行くため欠席)は3人で飲食店に行った。
さすがにチュウジは寝巻きで行こうとするとトシゾウに怒られるので上着を羽織っている。ゲンザブロウに借りた上着なので少し爺臭いとハジメは思ったが、当の本人は何も気にしていないようなので何も言わない。
3人は八咫烏本部から近い個人経営の定食屋で食事を取ることにした。ここは冒険者などの野蛮なものが住んでいる地区ではなく、一般市民が住む住宅街にも近いので騒がしく食事をすると言うよりも、1人で済ますのに向いている食堂だ。
そして、ハジメが奥の席を選び二人はそれについて行く。チュウジは椅子に座るや否や机に頬をつけウェイターを待つ。
「それにしても、久しぶりに先輩と離れての任務ですね。3ヶ月ぶりかな?えーと、俺はこの焼肉定食と麦酒で」
「そうだな。ハジメが我輩なしで戦えるか心配だぞ。我輩はモツ煮大盛りと蒸留酒をお願いする」
「大丈夫じゃないの?私がいるからめんどくさかったら逃げればいいしね。私は唐揚げ定食とウーロンハイを」
ここでシンパチはハジメの戦闘面を心配していたが、ハジメはそんなことよりもシンパチが自分なしで戦闘以外の任務をこなせるか心配をするが、ちょうど店員が注文を取りに来たので会話が途切れてしまった。
「まぁ、なんとかなりますよね。それにしてもチュウちゃんと一緒の任務は初めてだから結構楽しみかも」
「私なかなか任務には行かないからね。めんどくさがるとこうやってあまり仕事をしなくてもお金がもらえるの。これが上手に生きる秘訣よ」
「いや、八咫烏は歩合制だからその分給料減るじゃないですか。あまり羨ましくはないですね」
八咫烏は討伐されたネームドの販売を行い、売り上げの6割を隊長で等分している、そのためネームドを倒せば倒すほど給料が増える。
「私の趣味はお茶だけだからお金はこれくらいでいいの。それよりも私は働きたくないな。早く結婚したいし」
「彼氏とかいないんですか?聞いた俺が言うのもなんですが、いなそうですけど」
「...いないわ。でもあなた達もでしょう?どうなのよ」
「...やめましょうよこの話。あ!料理きましたよ。食べましょう!」
「なんか逃げられたわね。でも、いいわ。あなたの定食美味しそうね。でもこのウーロンハイはイマイチだわ」
お茶好きのチュウジはどんな時でもお茶を飲もうとする。だが、自分の淹れるお茶以外を美味しいと言ったところを見たことないので頼まなければいいのにとハジメは思った。
「一言余計なんだよな。それにしてもチュウちゃんてどうやって戦うの?」
「魔法よ」
「それは知っているけど、どんな魔法なのか聞きたいんだよ。水魔法とか風魔法とかね」
「言葉で伝えるのは面倒だわ。ネームドが出て来たら見せてあげるから、楽しみにしておきなさい」
「まぁ、そうだね。楽しみにしておこうかな」
こうしてハジメ達は疲れた身体を癒し、次の任務に向けて意気込んだ。だが、2人は会議中に寝ていて大事な話は聞いていなかったので3日後大変な目に遭うのだった。
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