第十話 毒と村長
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ネームド”束縛の魔女“は3人の活躍によって、討伐することができた。
しかし、近年ネームドの強さが上がっているとしても、明らかに強くなっている。
通常1人で相手できるネームドに対して、3人がかりでギリギリなのは異常事態だ。
そして、現在違う異常事態が3人を襲っていた。
「ゲンさん!寝ちゃだめだ。やばい、ネームドの左腕にタックルした時に、右腕が当たったんだ」
「そうみたいね。早く解毒しないと危ないわよ」
ゲンザブロウは”束縛の魔女“の生成した毒に侵されていた。
この戦いでハジメとチュウジは”束縛の魔女“の毒に侵された状態を見ていないのだが、それでも判断できるほどゲンザブロウの右腕は変色している。
一応だが、黒髪はネームドに対して耐性があるのでネームドの毒は効きづらい。ただ、効きづらいだけで・まったく効かないわけではない。
ハジメはそんなゲンザブロウの右腕を見て、先輩であるチュウジに助けを求める目で見た。
「そんな目で見ないで、私は攻撃魔法が使えるだけで他の魔法は使えないの。そして、解毒魔法は使えない魔法に入るわ」
「そうか、この市販品の解毒剤は効くかな」
「一応やってみましょう」
ハジメはそう言って、リュックから常備している解毒剤を取り出す。これは冒険者が念のために持つ物で、どんな毒でも治すというものではないが、藁でもすがる思いでハジメはゲンザブロウの右腕に使ってみる。
右腕を水で洗ってからできるだけ清潔にし、解毒剤の入った瓶の蓋を開けて豪快にかけて使用する。
しかし、いくら待っても何も変わらない。使用方法は間違っていないのに状態が変わっていないということは、使用した市販の解毒剤ではダメだったということなので、ハジメ達は一段と落ち込む。
だが、落ち込んでいる間もどんどんゲンザブロウは衰弱していく。
そんな姿を見て、チュウジはある決断をした。
「右腕を切り落とすわよ」
「は?冗談だよね?冗談だからそんな酷なこと言っているんだよね?」
「冗談なんかじゃないわよ。私たちではこの毒を治せない。治癒師の元にも間に合わない。ならもう毒の根源がある右腕を切り落とすしかないわ!」
ハジメはゾッとする。そんな解決策思いもしなかったからだ。しかし、チュウジの頭の片隅にはずっとこの策があったのだ。
チュウジも最後の策だと思い今まで提案しなかったが、考えはしていた。
これはチュウジの経験から来た策となっているので、ダラダラと日々を過ごしているチュウジにも辛い任務があったのだろう。
「切断面はきれいな方が出血は少ないわ。けど、わたしにはそんなことできないからハジメがやりなさい。私は火であぶって止血する」
「マジか...俺人を斬ったこともないのに」
「ほら、時間がないわ。早くそれを洗いなさい、水が足らなかったら言うのよ」
ハジメは言われるままに鬼神丸を渡された水で洗う。もしかしたら“束縛の魔女”の毒が付いているかもしれないので慎重に洗った。
チュウジは魔法で火の玉を作り、それを浮かせてからゲンザブロウが持っていた大きめの鉈を火に当てた。
火に当てて数分で真っ赤になり、この赤い部分を切り口に当てるのだ。
「準備ができたわよ。それじゃやりましょう」
「わかった,,,」
ゲンザブロウを木に括り付けて、右腕だけを90度上げるように固定する。
その横にチュウジが立ち、目の前にハジメが立つ。
ハジメは何度か素振りをして、終わると深く息を吸った。
「ためらわずにいきなさい」
ハジメは返事をすることなくゲンザブロウの右肩に鬼神丸の刃を乗せる。そのまま振りかぶることなく、息を吐くと同時に鬼神丸を振った。
「フッ」
その後、右腕がゴソッと落ちると同時にチュウジが真っ赤に熱しった刃を当てる。
当てたところから『ジュー』という小さな音がなった。
さすがに最初は痛みでゲンザブロウも唸っていたが、数秒で意識を失う。
「どうだ?」
「痛みで意識を失っているだけで脈はあるから大丈夫よ。どうやらこれで毒もなくなったわ。後は包帯を巻いて清潔にしましょう。それにしても上手に斬ったわね。さすがだわ」
「成功して本当に良かった。チュウちゃんもすごいね。これでゲンさんも死なずにすんだ」
「そうよ。私はやる時にはやるんだからもっと褒めてもいいわよ」
「そういうところがダメなんだけどな」
と言いながらもハジメは心の中でチュウジを面倒くさがらないようにしようと思った。
「では、行きましょうか。いくら毒が消えたとしても体力がないからこのまま放置したらかってに死んでしまうわ。せっかく頑張ったから生きて貰わないと」
「言い方気を付けて。じゃ、行こう」
ハジメがゲンザブロウを担ぎ、その他の荷物をチュウジが持つ。だが、鬼神丸はチュウジには重くて持てなかったため、ハジメが持っている。
2人はゆっくりと来た道を歩いて行く。途中アラクネが数体現れたが、激戦によってアドレナリンが出ているチュウジが瞬時に殲滅した。
魔力も少しだけ回復しているため魔法も問題なく使えている。
1時間ほど歩くと最後に分かれた隊員のグループが野営をしながら待っていた。
ハジメは少しだけだが安堵する。
「みんなちゃんと生きてた!もうアラクネに食べられていたと思っていたよ」
「全員無事なので安心してください隊長。しかし、もう少し遅かったら大変なことになっていたかもしれませんね」
「そう、よかったよかった。あれ?この布に包まれているやつはなんだ?」
ハジメはテントの中で白い大きな布に来るまれた物が目に入った。
それが3つもある。
「ああ、これは1つ目の村の村長が言っていた冒険者だと思われる遺体です。ここから少し歩いたところを調査した際に見つけました」
「そうか、そうだったな...」
布を少しめくり、確認すると確かに遺体が入っていた。たしかに村長に捜索のお願いをされたということを思い出す。
「よし、ならこれでこの森には用無しかな」
ハジメは医療班がゲンザブロウの応急処置が終わったのを確認してからグラン大森林を出るよう指示する。
グラン大森林を出ると、けが人を乗せる用の簡素な馬車が用意されており、そこに冒険者の遺体と気を失ったゲンザブロウを乗せる。
さすがに遺体とゲンザブロウを一緒にするのは悪いかなっとハジメは思ったが、その間でチュウジが横になって寝始めたのを見て、何も思わないようにした。
森の入り口で待機していた隊員によると、ここでも何体か魔物が現れたようで馬が何匹かやられてしまったようだ。
そのため、何人かの隊員が歩いている。
ハジメは隊長なので馬に乗っているが、今にも疲労で眠ってしまいそうになる。
そのため、後ろから隊員の1人が後ろから押さえている状態だ。
「もう眠い。何も出てこないから俺寝てもいいんじゃない?」
「ここの魔物は突然出てくるんですよ。それにチュウジ隊長が寝てしまったので上司が全員いなくなったら、指示系統が壊滅します。あ!ほら、見えてきましたよ」
「本当だ、宿に直行しよう。誰かあそこに露払いに行ってくれ」
「わかりました。私が行ってきます」
隣で並走していた隊員が馬を走らせ村に直行する。
ハジメ達が村に着くころには話を付けた隊員が門で待っており、その横にはあの村長が立っていた。
「お!ハジメじゃないか。どうしたその傷、もしかして野良猫と喧嘩してきたのか?」
「ちょっと、今はやめてくれ!後でかまってあげるから、寝させて!」
「しょうがないな~、俺がおんぶして宿まで運んでやろう」
「もういいってば!もう村に入るよ!はい、入りました!ここからの指示はチュウちゃんを起こしてチュウちゃんに貰ってね。それじゃ後はよろしく!」
そう言ってハジメは宿えと一直線で走って行った。一度止まっている宿なので、迷いはしない。
「え~、もっと話そうよ~」
その日ハジメは一度も見たものはいなかった。
次の日、昼過ぎに起きたハジメは身支度を整えると、案の定寝ていたチュウジを起こし、そのまま1階の食堂に行く。
食堂では村長がお茶を飲みながら持っており、そこから一番遠い席に2人は座った。
「おいおい、今日はかまってくれるって聞いたからずっと待っていたのに、こんな時間まで寝やがって。約束は守れよな」
「ここならばれないと思ったのに、まぁしかたない。俺はこの一番高いやつとプリンアラモード、あとクリームソーダお願い。この人に付けといて」
「私も同じの、飲み物はミルクティね。私のもこの人に付けといていいから」
「えらい素直に招いてくれると思ったらそういうことか、いいんだけどね。いいんだけど理由が理由だけに俺は少し悲しいよ」
村長が2人のいる席に座ると一斉に注文し始めた。どれも今の村の状態なら高価な料理のために躊躇してしまう料理を遠慮なく村長の付けで注文した。
「そんなことよりも聞いてくれよ。昨日は河川生地の元が大量にとれたんだよ。突然川の流れが速くなって何事かって思ったんだけど、河川生地が大量にとれるなら良いことだったんだな」
「ふ~ん、よかったね。帰りにまた買うよ」
ハジメはたぶん自分たちのせいでそうなったとわかっていたが、話が広がりそうだったので黙って話を流した。
「ああ、そうしてくれ。それでお前たちの仕事の方はどうだったんだ?そこまで満身創痍ってことは収穫ゼロってことはないんだろう?」
「俺達の仕事はちゃんと終わった。それで、そのことについて村長に報告があるんだよ」
「おお、なんだ?なんだ?」
「俺たちが倒したネームドって魔物なんだけど、その魔物の技?っていうのかな?まぁ、それみたいなのが糸を出すやつで。それがどう考えても河川生地の元なんだよ。だからこれからは河川生地作れなくなるかも」
「嘘だろう!これから河川生地が作れなくなるなんて」
「でも河川生地は冒険者の仕事がないから作ってるって言ってたじゃん。俺たちのおかげで冒険者が戻って来るんだから結局良いことだってわけ」
「え?...確かに!そういえば俺たちの本業って河川生地の販売じゃないわ!ってことはハジメ達は俺たちを助けてくれたことになるな。感謝するよ」
チャラい村長はニコニコしながらハジメ達にお礼を言う。
お礼を言われたと言うことはおごってくれることが確定したと思い、追加注文をする。
「店員さん、パフェも追加でお願いします」
「じゃあ、私行くわ」
ここで昼食を食べ終わったチュウジが立ち上がる。
「あれ?どこに行くんだ?」
「河川生地を買いあさって来るわ。これから作れないってことは価格が高騰するから王都で一儲けできそうじゃない」
「頭いいね。お金出すから俺の分も買って来てくれよ」
「いいわよ」
2人がこそこそとあくどいことを考える。
しかし、これが危機と感じ、動いた男が1人いた。
「あ!俺、今日は用事があるんだった。ちょっと俺1回家に帰るわ」
「おいおい、今日はこのハジメ様が一日中かまってあげるって言っただろう?ほら、このパフェを2人で食べようじゃないか。あ!この間言っていた元カノの話も聞かせてくれよ!」
「止めないでくれ。俺はこれを村の人に伝えないといけないんだ!」
チュウジが町の中央に行き、ハジメが村長の足止めをする。
悪だくみをするときは人間言葉が無くても心が通じるのだ。
「まぁ、いい。倉庫にまだまだ在庫があるから、この村が損をすることがないだろう。それに俺たちは王都に売れに行けないからな。宣伝になる」
「へー、考えてるじゃん。もっと村長を困らせようと思ったのに」
「お前は俺に何の恨みがあるんだよ。フッ、それでお前らが狙っていた獲物はどんなやつだったんだ。それが河川生地を生み出していたって言うから気になるな」
「え~とね。アラクネって知ってる?なんか蜘蛛みたいな魔物なんだけど、その上位種みたいなやつだね」
「アラクネね。あんな奴がいたのか、そりゃあ簡単には勝てねえな。あいつらは肉食だから人間をたくさん食べるんだよな」
「えっ!やけに詳しいな」
ハジメは村長が魔物について知っていることに驚く。あまりにも詳しいので大きな声が出た。
「でもアラクネの糸はここまで丈夫ではなかったはずだからな。何か変わったことをしているのか。それとも食べているものが違うとかか?」
「知らねえ、ネームドってそもそもほかの魔物の常識が通用しないし。あっ!でも毒生成があいつの固有スキルだったから、何だったんだろうな」
「俺としては食べていたものが関係していると思うんだけどどう思う?何か見なかったか?」
「見た見た、ゴムの木食べていたよ。バカみたいにぼりぼりと」
「それだ、絶対それだよ!」
「びっくりした!そんな顔近づけるなよ。それにしても何でこんなに詳しんだ?あんた、ただの村長だろう」
ハジメは魔物に詳しいことを不思議に思い聞いてみる。
「俺、元々王都の大学で魔物学を学んでいたんだよ。だから詳しいってことだ」
「王都の大学って卒業したらエリートコースまっしぐらじゃないか。なんでこんなところにいるんだよ」
「卒業出来たらな。俺は卒業できなかったからここにいるってわけ」
「ああ、平民がいるとないことあること貴族に言われて居づらくなるって聞いたことがあるからな」
「いや俺は女遊びにはまって授業をサボるようになってな。単位が足りなくなったんだ」
「あっそ、同情した俺がバカだった」
残りのパフェをやけ食いして、席を立つ。村長と話すと疲れると思ったハジメは部屋に戻ることにした。
「おっ!部屋に戻るのか?最後にもう一度、ありがとう。お前たちのおかげで俺たちはまたいつもの日常が戻って来たよ」
「どういたしまして、明日の朝には帰るから今日の夜飲もうか」
「それいいな、あと河川生地についてもどうにかなりそうだから心配しなくてもいいぞ。このことについても飲みながら話そうぜ」
「ああ」
ハジメは密かにこの村の心配をしていた。
ネームドを倒したとしても簡単には冒険者は戻ってこない。それに加え、新たな収入源である河川生地が無くなると更に立ち行かなくなってしまう。
しかし、話していると解決策があると聞いて安堵した。
部屋に戻ると久しぶりに感じる達成感と食後の満腹感でまた深い眠りについた。
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