「あんたの言うことのほとんどは信じられないんで」
ゼリービーンズ王国の王都ジュレ。
この街は魔物の侵入を防ぐため、高い城壁にに囲まれている。
王都を守るのは壁だけではない。
神竜ガルディアンの守護によって、魔物が壁の中へ侵入することは絶対にない。
「ようこそ。王都ジュレへ」
門番から歓迎の言葉を受けたレイとシャルルルカは門を潜り抜ける。
「うわあ……!」
門の先には別世界が広がっていた。
見渡す限りの人、出店、建物の数々。
レイは目を輝かせて、それらを見回した。
「はえー、すっげえですね! 人多いし! 建物が全部大きいし!」
「王都だからな」
レイは店先に置かれている質の良さそうな魔法の杖を見つけ、フラフラと近寄った。
杖についた値札を見て、レイは目をひん剥く。
「値段高っ!?」
レイは思わず後ずさった。
「王都だからなー」
「シャルル先生、さっきからそればっかりですね?」
レイがシャルルルカを見ると、シャルルルカはぼんやりと人の往来を眺めていた。
──そういえば、先生、王都に入ってから大人しいような? いつもなら勝手にどっか行ったり、人に話しかけて怒らせているのに……。
レイはシャルルルカの視線の先を辿る。
きゃっきゃっとはしゃぐ小さい子供と、それを困ったように見守る両親がいた。
「どいつもこいつも平和ボケした顔してやがる」
シャルルルカがぼそりと呟く。
「平和ですよ。昔は魔王がいたらしいですけど、勇者様がやっつけてくれましたからね。……あっ。ほら。噂をすれば、勇者様の銅像がありますよ……」
広場の中心に四体の銅像を見つけたレイは、シャルルルカの手を引いてそれに近づいた。
銘板プレートには『魔王を討伐した勇者一行』と掘られている。
それぞれ、『大戦士ヴィクトウィル』、『大神官アレクシス』、『大盗賊チャター』──そして、『大魔法使いシャルルルカ』。
「シャルルルカ!? 先生の名前だ! 本当にあったんだ……」
「嘘だと思ってたのか?」
「あんたの言うことのほとんどは信じられないんで」
レイはふと思う。
──アレクシスって人、先生に手紙を出したあの人と同じ名前だし、顔もそっくりだ。まさか、本当に……?
レイはシャルルルカ像の顔を覗き込んだ。
「おい、あんまり私の銅像をじろじろ見るな」
「いや、これ絶対先生じゃねえですよね。全然似てねえです」
「実物の方がかっこいいって?」
「言ってねえです」
──どちらかと言うと、銅像の方がイケメンだ。
ちらりと横のシャルルルカを見る。
長い前髪、ボサボサの頭、ボロボロのとんがり帽子、よれよれの服、うさんくさい笑み。
全てが銅像と違った。
ただ一点、銅像の持つ魔法のロッドは、シャルルルカがいつも手に持っている杖とそっくりだった。
しかし、シャルルルカは杖を自作出来るから、似せて作ったのだろうと、レイは一人納得した。
──先生も銅像みたいにちゃんとしたら少しマシになるんだろうなあ。まあ、先生は言動と行動で全部台無しだろうけど。
レイは再度、大魔法使いシャルルルカの銅像の顔を見上げる。
大魔法使いシャルルルカは天使のように優しく微笑んで、王都を見守っていた。
「随分と観光気分だな?」
シャルルルカの顔が割って入ってきて、現実に引き戻される。
「このまま王都をぐるりと回ってお土産買って帰るか?」
シャルルルカはそう言って、ニヤニヤと笑う。
レイは本来の目的を思い出し、ふるふると首を横に振った。
「か、帰りません! あたしは先生を教師にするために来たんですから!」
レイはシャルルルカの手を掴み、足を踏み出した。
「行きますよ、先生! いざ、ドロップ魔法学園へ!」