表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つきクソ野郎だと追放され続けた幻影魔法使い、落ちこぼれクラスの教師となって全員〝騙〟らせる  作者: フオツグ
クソ野郎、ようやく追放

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/63

「魔法だけは超一流」

 レイはシャルルルカの手を引いて、冒険者ギルドを出た。

 ギルドの扉の前でシャルルルカは「ふう」とため息をつく。


「私が世話をしてやったと言うのに、一方的に脱退させるとは恩知らずな奴らだ」

「いや、あんたのせいだからな!?」


 レイがシャルルルカを指差して叱りつける。


「──ひったくりよー! 誰か捕まえてー!」


 そんな二人の耳に、女性の叫び声が聞こえてきた。

 声の聞こえた方向を見ると、男性が人をかき分けながら走っている。

 こいつがひったくりだとはっきりわかった。


「退け退け退けえ!」


 ひったくりが叫ぶ。

 人々は咄嗟に道を開けてしまっていた。


「止めないと!」


 レイは魔法のタクトに手に持ち、魔法の呪文を唱える。


「《岩壁(ファレーズ)》!」


 ひったくりの数歩先の地面がメキメキと盛り上がる。

 腰程度まで盛り上がった地面をひったくりはひょいと乗り越えた。


「ああっ。避けられた!」


 レイが情けない声を上げる。

 次の手を考えるが、ひったくりは目前まで迫ってきていた。

──ぶつかる!

 レイは目を瞑って、衝撃に備えた。

 シャルルルカはというと、何事もないかのようにゆっくりと、ひったくりの方に足を踏み出した。


「《幻影(アリュシナシオン)》」


 ひったくりとのすれ違いざまに杖を軽く地面に突き、そう唱えた。

 シャルルルカの後方に黒いドラゴンが出現する。

 ひったくりはそれにギョッとして、つまづいて転ぶ。


「ど、ドラゴン!?」

「なんでこんなところに!」


 周囲の人々は悲鳴を上げながら逃げていく。

 黒いドラゴンはひったくりの顔に鼻先を近づけた。


「ひいいいいい!」


 腰の抜けたひったくりは手足をばたばたと動かして、後ずさろうともがいている。

 黒いドラゴンは大きく口を開けて、がぶりとひったくりの頭に食らいついた──ように見えた。

 ドラゴンはパッと消え、その場には、恐怖のあまり白目を剥いて気絶しているひったくりだけが残った。


「盗賊の癖に盗まれたと気づかれるなんて、とんだ間抜けだな。そんなことだから盗みで稼ぐしかなくなるんだ」


 シャルルルカはひったくりを見下してそう吐き捨てた。


「流石ですね、シャルルルカ先生! 幻影魔法だけは超一流!」

「それ以外も超一流だろうが……」


 シャルルルカは不満そうに唇を尖らせる。

 先程の黒いドラゴンは魔法で生み出した幻影。

 街中にドラゴンなど出現していなかったのだ。

 レイはひったくりの手にあるハンドバッグを奪い取る。

 それはひったくりが持つのに似つかわしくない高級そうなバッグであり、一目でひったくられたものだとわかったからだ。


「捕まえてくれたんですか!?」


 黒いローブにとんがり帽子を身につけた女性が、息を切らせて駆け寄ってくる。

 高そうなイヤリングや指輪がキラキラと輝いている。

 レイはひったくりに遭った人だと直ぐにわかった。


「災難でしたね」


 そう言って、ハンドバッグを女性に手渡す。

 女性はハンドバッグをぎゅっと胸に抱いて、ホッと息をついた。


「あのっ、本当にありがとうございます!」

「お礼ならこの人に言って下さい。この人が捕まえたんです」


 レイは関係なさそうにそっぽを向いているシャルルルカを指差した。

 女性はシャルルルカを見て、ハッとした。


「え! 嘘! 藤色の長い髪に金色の瞳、そして、その魔法のロッド……もしかして、大魔法使いシャルルルカ様!?」


 キラキラと目を輝かせてシャルルルカを見る女性。

 レイはそれと対照的に「げっ」と苦い顔をする。


「ええ。私は確かにシャルルルカですが……」

「やっぱり! お会い出来て光栄です! 冒険者ギルドの前で会えるなんて……冒険者パーティーを点々としているという噂、本当だったんですね!」


 女性は顔を赤らめて、手を差し出した。


「あの、差し出がましいかもしれませんが、握手をしてくれませんか……!?」

「本当に差し出がましいですね。ひったくり一人捕まえられない未熟な魔法使いの手を握れと?」


 女性は笑顔のまま固まった。


「そんな実力で高価な装飾品の金を払えるんですか? 他の男なら、手を握っただけで貴女のパトロンになったかもしれませんが、生憎、私は貴女のような厚化粧の女に施しを与える趣味はありません」

「コラー!」


 レイはシャルルルカの後頭部を引っ叩く。

 そして、女性に向かって頭を下げた。


「すみません、本当にすみません! あとのことはよろしくお願いします! では、失礼しました!」


 レイはシャルルルカの手を引いてその場をそそくさと離れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ