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嘘つきクソ野郎だと追放され続けた幻影魔法使い、落ちこぼれクラスの教師となって全員〝騙〟らせる  作者: フオツグ
嘘つきクソ野郎の弟子

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10/63

「どうしてあたしの幻影は」

「──そこにいる人達、気をつけてぇ!」


 突如、校舎の方から聞こえた大声に、演習場にいた全員が驚いて、声のした方を見る。

 校舎の二階の窓から、白衣を着た男子生徒がレイ達を覗き込んでいた。

 そして、その窓から別の男子生徒が飛び出して来るのが見えた。

 ダン、と大きな音を立てて、男子生徒は着地する。

 その男子生徒の体は、異常な程に筋肉が膨れ上がり、目が血走っていた。

 どう見ても、近づいてはいけない相手だった。


「な、何ですか、あれ!?」


 レイの疑問に、白衣の生徒が答えた。


「僕が作った筋力増強薬を飲んだら、副作用で闘争心を抑えられなくなっちゃったみたい……。改善の余地あり、だね……」

「冷静に分析している場合ですか!?」

「あああ、そうだった……! 彼を止めないと!」


 暴走した生徒は、レイを含む編入希望者達を真っ赤な目で睨みつける。


「タタカウ……タタカウ……」


 そう言いながら、地面を蹴り、レイ達に迫る。


「きゃー! こっち来たー!」

「に、逃げろー!」


 編入希望者達は叫びながら、様々な方向に逃げる。


「皆の者! 我が輩のそばへ集まれ!」


 ピエーロが子供達の叫び声に負けないように叫ぶ。

 編入希望者達はわーわーと騒ぎながらも、ピエーロの指示に従う。

 レイもピエーロの元に駆け寄った。


「──く、来るな!」


 遠くから声が聞こえて咄嗟に振り向く。

 離れた場所で、キョーマが腰を抜かしていた。

 暴走した生徒から距離を取ろうと必死にもがいている。


「キョーマくん!」


 レイは一も二もなく駆け出した。


「レイ嬢!? 我が輩から離れるでない!」


 レイの行動に気づいたピエーロが叫ぶ。

 レイを連れ戻すにしても、ピエーロは他の編入希望者達のそばを離れる訳にはいかない。

 せめて、魔法で援護しようとレイを見守ったが……。


「速い……! 身体強化魔法を使えるのか! この速さなら間に合う!」


 レイは一瞬でキョーマの元まで辿り着いた。


「キョーマくん! 無事ですか!?」

「格下……!? なんで来た!?」

「良いから、逃げますよ!」


 レイがキョーマを背負い、来た道を引き返そうと振り返る。


「うっ! もうここまで……」


 暴走した生徒は目の前まで来ていた。

 肥大化した筋肉が何百倍にも大きく見え、レイは尻込みする。


「下ろせ、格下! 俺の炎で蹴散らしてやる……!」

「肉体強化されてるとはいえ、相手は人間です! キョーマくんの火魔法じゃ、大怪我をさせちまうかもしれません!」

「じゃあ、どうすんだよ!? 俺、火以外の魔法は使えねえぞ! お前だって、初級しか使えねえって言ってただろうが!」


 レイは懐から魔法の杖を取り出す。


「……あたしに考えがあります」


 空に向かって杖の先を向ける。

 大きく息を吸って、呪文を唱える。


「《幻影(アリュシナシオン)》!」


 それは、シャルルルカの専売特許だ。

 彼の弟子であるレイも当然、使うことが出来た。


 □


 三年前。

 レイは池のほとりで幻影魔法の練習をしていた。


「《幻影(アリュシナシオン)》!」


 レイは呪文を叫ぶと、目の前に三角の耳と黒い大きい瞳が特徴的な動物のようなものが現れる。

 レイは猫の幻影を作ったつもりだったが……。


「うーん。なんかぼやっとしてるな……」

 

 目の前のそれはぼやけていて、直ぐに幻影だとわかってしまう。


「どうしてあたしの幻影は現実味がないんだろう」

「幻影は頭の中で想像した通りにしか動いちゃくれない」


 レイの様子を見ていたシャルルルカが言う。


「思い浮かべたものが精巧であればあるほど、よりリアルな幻影を生み出すことが出来る。《幻影(アリュシナシオン)》」


 シャルルルカが呪文を唱えると、宙にネコが出現した。


「わあ、可愛い!」


 ネコは伸びをしながら欠伸をして、その場に丸くなる。

 きめ細やかな毛並みも、耳や尻尾の動きも、本物のネコとそう違いがなく、レイはそのネコが幻影だとは思えなかった。


「この子が存在しないなんて嘘みたいです。どうしたら精巧な幻影が想像出来るんですか?」

「ネコは好きか?」

「好きです」

「だったら、一緒に暮らすのが手っ取り早い。よく観察して、触って、舐め回せ」

「舐めるんですか!?」

「そうだ。私が色んなものをリアルに見せられるのは、色んなものにそうやって来たからだ」

「嘘ですよね。嘘じゃなかったらドン引きです」

「舐めたくないなら別に強制しない。私みたいに色んな幻影を作れなくても良いのなら」

「それは……。うーん。上達するためなら仕方ないのかな……。でも、色んなものを舐めるのはちょっと……」


 レイはうんうんと唸った。


「知性の低い魔物ならある程度不自然でも騙せる。だが、人間を騙すは非常に難しい……」


 シャルルルカはニヤリと笑った。


「何か一つでも、人間を騙すことが出来たら上出来だな」


 □


 シャルルルカはありとあらゆるものをリアルに見せ、あらゆる生物を騙すことが出来る。

 彼は幻影魔法のプロフェッショナルだ。

 レイはその域に達していないが、唯一、リアルに見せられると自負しているものがある。

 レイと共に暮らし、よく観察して、触れているもの。

 レイの尊敬すべきではない師匠、シャルルルカ・シュガーである。

 彼は堂々とレイの前に立っている。

 本物のシャルルルカには「全然似ていない」と言われたが、レイには本物そっくりな自信があった。


「あれは、シャルルルカ様の偽物!」


 ピエーロがレイの作り出した幻影を見て叫ぶ。


「えっ!? シャルルルカってあの魔王を倒したっていう大魔法使いの!?」


 ピエーロの言葉を聞いて他の編入生が驚きの声を上げた。


「頼みますよ、シャルルルカ先生!」


 シャルルルカは暴走した生徒に向かって、フラフラと歩き出した。


「タタカウウウウウウ!」


 暴走した生徒はそれに突進する。

 しかし、幻影に実体はない。

 彼の攻撃は空振りした。


「ウウッ!?」


 暴走した生徒は驚いて、足を止めた。

 シャルルルカはそれを見てニヤニヤと笑い、指をクイッと動かして彼を挑発する。

 シャルルルカが暴走した生徒の気を引いている間に、レイは彼の横を駆け抜け、ピエーロの元へと急いだ。


「早くこちらへ!」


 ピエーロが手招きする。


「あっ……!」


 もう少しのところでレイは足をもつれさせて転んでしまう。

 その拍子に、手から魔法の杖を落とした。


「いてて……」

「何やってんだ、格下!」

「すみませ──」


 ハッとして後ろを見ると、暴走した生徒が向かってきている。


「先生は……!?」


 幻影のシャルルルカの姿はもうない。

 転んだ拍子に幻影魔法が解けてしまったらしい。

 暴走した生徒がレイの目前に迫る。


「く、来るな……!」


 キョーマが魔法の杖を持った手をぶんぶんと振って、暴走した生徒を近づけまいとする。

 レイは必死に魔法の杖へ手を伸ばす。

 魔法なら、まだ何とか出来るはずだと。

 でも、届かない。

──助けて、シャルル先生……!


「──よくぞ、ここまで来てくれた!」


 ピエーロが叫んだ。


「《岩壁(ファレーズ)》!」


 レイ達と暴走した生徒の間に岩の檻が出来上がり、生徒は檻に顔をぶつけてしまう。

 暴走した生徒が目を回してる隙に側面にも檻を作る。

 次は後ろの道を塞ぎ、最後には蓋をした。


「よ、良かった……」


 レイはホッと息をついた。


「ピエーロさん、ありがとうございま──」

「レイ嬢!」


 ピエーロはレイを厳しい目で睨みつけた。


「何故勝手なことをしたのだ! 今回は無事だったので良かったが、貴女まで危ないところだった! 危険な行動は慎むように!」

「す、すみません!」


 レイはピエーロの鬼の形相に震え上がり、頭を下げる。


「──わあ! 捕まえてくれてありがとうございます!」


 白衣の男子生徒が、呑気に笑いながら、ピエーロ達に近づく。

 いつの間にか下りてきていたらしい。


「ミスター・グレープジュース!」


 ピエーロは続いて、彼をキッと睨みつけた。


「治験で問題を起こすのはこれで何回目だ!? 治験の際は教師を監督につけるようにと、口酸っぱく言っているだろうに!」

「ひえ……! ご、ごめんなさい……!」


 白衣の男子生徒はベソをかきながらぺこぺこと謝った。

 ピエーロの標的が別に向いたため、レイは少し胸を撫で下ろした。

 横を見ると、キョーマが手を震わせている。


「キョーマくんは大丈夫ですか?」

「俺は助けなんていらなかった」

「え?」

「俺はお前より格上なんだ……! 格下に助けられるなんてあっちゃいけねえ!」


 キョーマは顔を真っ赤にさせてレイを睨みつける。


「この屈辱はいつか果たす……!」


 キョーマは立ち上がり、レイから遠ざかる。

 レイはキョーマの後ろ姿を呆然と眺めるしか出来なかった。

 転んだときに出来た擦り傷がズキズキと痛んで、なかなか動けなかった。

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