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嘘つきクソ野郎だと追放され続けた幻影魔法使い、落ちこぼれクラスの教師となって全員〝騙〟らせる  作者: フオツグ
クソ野郎、ようやく追放

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「追放されてやるよ」

「シャルルルカ、お前をパーティーから追放する」


──ああ、またか。

 冒険者になってから、その言葉を聞いたのは何度目だろう。

 あるときは無一文で閉め出され、またあるときは殴る蹴るの暴行を加えられたのちに放置された。

──でも、それは仕方ないことだろう。

 追放される度に、それで済ませてきた。

 非があるのは間違いなくシャルルルカで、シャルルルカを追放する彼らの行動は、尤もだと思ったからだ。

 というのも──


「理由はお前が幻影魔法しか使わないからだ。他に魔法を使えると言っていたが、俺達はそれを見たことがない」


 追放を言い渡した【ウィアード】のリーダーは、深刻そうな顔で言葉を続けた。


「お前の幻影魔法は確かに素晴らしい。だが、お前の幻影魔法は魔物にダメージを与えたり、弱体化させたり、味方を強化、回復をしたりしたか? はっきり言って、お前をパーティーに入れ続けるメリットがない」


 魔法。

 それは得意不得意はあれど、誰にでも使える神秘的な力。

 魔法使いとは、そのエキスパートのことを言う。

 しかし、魔法使いであるシャルルルカは戦闘において幻影魔法しか使わない。

──確かに不満だと思う。でも、追放の理由はそれだけじゃない……。

 シャルルルカが口を開く。


「それは嘘だな。本音は?」

「【ウィアード】のメンバーへの数々の嘘や暴言、セクハラ発言、一度も返済しない借金。魔物討伐のドタキャン。毒草料理を食わせて昏倒させる。あとは──」

「俺の恋路の邪魔しやがったんだ! この嘘つきクソ野郎は!」


 アイパッチをつけた黒装束の男は、リーダーの後ろでそう叫んだ。

 彼も【ウィアード】のメンバーの一人だった。


「……えー。それらを含むその他諸々の理由で、お前に出て行って貰いたい。それが本音だ」

「そうか」


 そう言って、シャルルルカは席を立つ。


「追放されてやるよ。この大魔法使いシャルルルカを追放したこと、後悔すると良い」


 こうして、パーティー一番の嫌われ者、又はトラブルメーカーは追放された。

 平穏を取り戻した、とパーティー一同はホッと胸を撫で下ろした。


「……ということだ。レイも出て行ってくれ」

「はあ!?」


 シャルルルカのついでとでも言うように、その場にいた赤毛の少女──レイも追放を宣言された。


「やーい、嫌われ者ー」


 先に追放されたシャルルルカが煽る。


「それはあんたじゃ!」


 レイは彼に怒鳴った。


「なんであたしも!? あたしは何もしてねえですよね!?」


 レイはリーダーに詰め寄る。

 リーダーは頭を勢いよく下げた。


「頼む、レイ! シャルルルカを見張っていてくれ! 目を離すと何しでかすかわからん!」

「確かにそうですけど!」

「他メンバーはもうそいつに付き合ってられないんだ! そいつを追放しないならパーティーを抜けるって! 折角のパーティーをそいつ一人のために解散する訳にはいかん!」


 レイ達が所属している冒険者パーティー【ウィアード】のメンバーは実力者揃いだ。

 脅威度の高い魔物の討伐、難易度の高いダンジョンの攻略を何度も成功させてきた。

 解散させるのは確かに惜しい。

 レイは思わずこう思った。

──なら、解散してこいつ抜きで再結成すれば良いんじゃ?

 ふと、レイはリーダーの性格を思い出す。

──リーダーは悪い噂が絶えないこの人を好意でパーティーに誘ったくらいのお人好し。例え大迷惑をかけられた身でも不誠実な真似は出来なかったんだろうな……。


「いや、だったらリーダーが見張れば良いじゃないですか! なんであたしが!?」

「そいつ、俺の愛しい妻をいかがわしい目で見るんだ……!」

「う、目に浮かぶようだ……!」

「レイはそいつの弟子だろ!? 師匠を見張ってこその弟子だ!」

「逆では!?」


 レイはバンッ、とギルドの机を叩く。


「考え直して下さい、リーダー! あたしまで抜けたら魔法使いがいなくなってバランスの悪いパーティーになりますよ!」


 リーダーは気まずそうレイから目を逸らし、もにょもにょと言いづらそうに言う。


「悪いが、代わりの魔法使いはもう見つけてある」

「えっ」

「あと、正直クソ野郎──こほん、シャルルルカの方が戦闘の邪魔にならなかった」

「うっ」


 レイの心にリーダーの言葉のナイフが突き刺さる。

 レイはシャルルルカの元で魔法を習い始めてまだたった三年のひよっこ魔法使いだ。

 それでも、実力者揃いのパーティーに同行を許されていたのは、シャルルルカの監督があったからこそだ。

 シャルルルカが監督をサボり、レイは大怪我を負ってしまったこともあった。

 そのとき、文字通り痛いほど自分の実力不足が身に染みたのだった。


「でもな、俺達はレイに頑張って欲しいと思ってるんだ」


 リーダーはレイに巾着袋を手渡した。

 ずっしりと重たいそれにぎょっとして、レイは巾着袋の中身を見る。

 中には硬貨がどっさり入っていた。


「これ……!」

「メンバーのみんなからだ」

「私の分は?」


 シャルルルカが空気も読まずに割って入る。


「ある訳ねえだろ、この嘘つきクソ野郎! むしろ、金返せよって言いたいわ!」


 すかさず、シャルルルカのせいで女性に振られたアイパッチの男が、唾を撒き散らしながら叫んだ。


「……と、そういうことだ。だが、レイになら渡したいとみんな言っててな」

「こんなの貰えないですよ! 迷惑いっぱいかけたし! 主にシャルルルカ先生が!」

「良いから持っていけ。王都の学校に行きたいって言ってただろ? その足しにしてくれ」


 レイはリーダーの後ろに立つメンバー達の顔を見た。

 皆、申し訳ないという顔をしていた。

 パーティーを追放すること。

 シャルルルカを押し付けること。

 それなのに、端金しか渡せないこと。

──ちゃんとわかってた。あたしはみんなの戦闘について行けない。危険なだけ。みんなに迷惑かけた上、こんな大金まで用意して貰ってたのに、あたしは駄々をこねて情けない……。

 レイは溢れる涙を拭い、深く深く礼をした。


「今まで本当にご迷惑をおかけしました! お世話になりました!」

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