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猫又ヨイチの転生録  作者: 里見 知美
3/3

暖かい家庭の行方

 そうこうしているうちに、我輩は主と共に子供の頃育った洋館へと足を向けた。

 父上からなんの仕事を請け負ったのかはわからないが、主は今までになくのんびりして、我輩のそばにいてくれていた。


 ああ、これこそ、最初の世で我輩と主人が過ごした至福の時。


 主の膝の上に陣取って喉を鳴らす、夢のような時間。猫屋敷に行かずとも、このまま時間が過ぎるのであれば我輩はそれでもいいとすら思ってしまった。「暖かい家庭」のお相手を見つけなくてはならないのに。我輩では無理だろうか。我輩が、「暖かい家庭」を作ることはできないのであろうか。もちろん我輩はオスであるから、子は出来ぬが…。


 だが、主は出会ってしまった。洋館に引っ越してきた麗しの白猫。もとい、女性。


「あら、あなたも猫又なのね」

「そ、そういうそなたも、その女性の猫又か。」


 真っ白な長い毛皮を持つ美しい猫又のネネ。青い瞳と金の瞳を持ち、清らかな笑顔。彼女の主人は美咲殿という、彼女が主人と呼ぶにふさわしい清らかな魂の持ち主。


「そなたの主の魂は美しいな。」

「あなたの主も見目麗しく」


「そなたも、その、美しいな。」

「あら、ヨイチ様も新月の夜の闇のような吸い込まれそうな毛皮…」


「そなたの主は、「暖かい家庭」を築けるだろうか」

「どうでしょう。今世の美咲様の願いは「優しい恋人が欲しい」ですから。ヨイチ様の主は、優しそうですわね」

「うむ。今世で主は魂のレベルアップを果たすのでな。なかなか出来た人間であるぞ」

「まあ、では美咲様にぴったりですわね。それでは、今世が終わり次第ヨイチ様は猫屋敷へお渡りに?」

「その予定だが。ネネ殿は?」

「わたしはあと3つほど課題が残っていますので、まだまだ先になりますわ」

「そうか。それは…うん?」


 我輩が私事にカマをかけている間に、主は美咲殿を囲い込んでいたようだった。なんと、フェロモンむんむんは我が主人の方だったとは。我輩がいなくとも、どうやら主は自分のことは自分でやれる男になっていたようだ。


 だが、あんあん言わせるのは、我輩のいないところで頼もうぞ、主よ。

 ネネ殿も我輩の隣で苦笑しているではないか。


「どうやら心配は無用だったようですね。」

「うむ。今生もうまくいってよかった。これで我は契約から解放されるだろう。長い旅だった。」


「羨ましいですわ。」

「うむ。ネネ殿はまだ数百年先になるか…」

「せっかく私の最良なる番に会えたと思ったのに…」


 なんと。


 我輩は猫又になってから600年、番のツの字も考えたことはなかった。ここにきて、これで心置きなく猫屋敷に帰れると思ったのに。心を奪われてしまったら、帰れないではないか。


 ネネ殿を盗み見ると、ほんのり頬を染め瞳はうるうると所在無さげに彷徨いうつむいているではないか。


 ごくり。


ああ、我輩は。

猫又という精霊であるのにもかかわらず、今生で欲望に駆られるというのか。意識の中から猫屋敷が遠くなる。


「ネネ殿。我輩と…今生を共にするのであれば。あなたが課題を終わらせるまでの300年、共に生きても良いと思うが…。どうかの」


ネネ殿の美しい瞳にパッと光が差し、花がほころぶように笑った。ほのかにマタタビの匂いがした。我知らず喉がなり、我輩は落ちた。


「嬉しい…!」





我輩は猫である。

猫又から格下げになってしまった猫である。

だが我輩の隣には、愛しいネネ殿が共にあり、主と美咲殿も「暖かい家庭」を築いたようなので、まずまずの結果と言える。主人がもし血の契約を結びたいというのであれば、それもいいだろう。ただし願いは3つまでだ。


あと300年。猫屋敷に帰る頃には、また猫又になっていたいと思う。


終わり

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