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第一話 差別

石畳の通りの路端には数多くの屋台が並んでおり、ルドルフは幾分か道が狭苦しく感じた。

ルクス大公国伝統の木彫りのワタリガラスの工芸品、野菜を煮詰めたスープ、様々なものが灰色の道に彩りを添えている。

中でもルドルフの目を惹いたのは、熟しきっていないリンゴが(うずたか)く積まれている屋台だった。

その光景は、まるで人の手が入っていない山のようだ。

目を閉じると、胸の奥が清々しくなるような甘い香気が漂ってくる。

「親父、リンゴ一個くれよ」

「ん、あいよ」

獣人の大男が銅貨を数枚老人に手渡す。

ギョロリと目を見開かせ、一枚一枚丁寧に枚数を数えると椅子から立ち上がり、リンゴのヘタをつまんで、彼に握るよう促した。

「あんがとよ、親父」

感謝を述べ、歩きながら勢いよくガブッと一齧りすると、瑞々しい果汁が獣人の口元から滴り落ちていく。

その姿を見て、ルドルフは朝食からだいぶ時間が経ち、腹が減っていることに気がついた。

人が美味しそうに食べているのを見ると、ついつい購買意欲がそそられてしまう。

今の手持ちはどれくらいだろうか。

手に持った革製の巾着袋を開きつつ、ルドルフは屋台に意を決して歩み寄る。

「あの、リンゴを売ってもらえますか」

「はいはい……ヒッ、エルフ!?」

老人は怯えた素振りを見せる。

「あの……」

「シッシッ、あっちいけ。商売あがったりだ」

鬱陶しそうに、老人はルドルフを追い払う。

なに、いつものことだ。

落ち着け、ルドルフ。

目を閉じ深呼吸をして、ルドルフは苛立ちを抑えた。

ルクスに着いてから数ヶ月経過しており、彼自身はあからさまな差別にも慣れたと思っていた。

しかし、こうも拒絶されるとさすがに堪えるものがあった。

エルフが敵視されるようになったのは、約八十年前の出来事が原因だ。

≪太陽と月の代理戦争≫と呼ばれた戦争によって、人間やオーク、ゴブリンたちと夜闇の森に住まう≪月の民≫の間で軋轢が生じたのだ。

戦いは《耳切公》などと恐れられたベルンハルド、妖精王ビョルン、アルクレプス大陸一の射手と称えられるグンナルの三英雄が、十数万もの軍勢を下し《月の民》が勝利を収めた。

それ以来ルクスと《月の民》の間に国交はなく、緊張状態が続いている。

よく知らないものを恐れるのは、当たり前のことなのだ。

父から旅先での出来事を聞かされていたからか、エルフが避けられることもルドルフは想定していた。

ここは人間と獣人(ワービースト)、及びそのハーフが人口を占める都市だ。

特に自分のように、人間でもエルフでもないハーフなら尚更生きづらいだろう。

この国では。

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