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「はぁはぁはぁ、おい、関口ー。おま、お前、ちょ、ちょっ、ねーはえーよ、待てって。」
「早かねーよ、お前が体力無さすぎなんだよ、さっさとしろ、ほら走れ走れ。」
本日はマラソン大会当日です。俺達が通うY高校は、創立当初から伝統的にマラソン大会をしている。この由緒正しいマラソン大会から、さぞやきつい大会と他校から思われがちだが、実はそうでもなかったりする。道のりこそ少し長くきついが、朝9時に出発し、午後4時までに学校にゴールすればオーケー、それすらクリアすれば、なんでもありな大会なのだ。だから、生徒達は町内の商店街に寄り道をして買い食いしたり、これは俺も驚いたが、カラオケにまで行ったやつもいるらしい。マラソンがマジで嫌いな俺は1年の時、マラソン大会と聞いて身構えていた俺だったが、案外楽だったので安心してサボった。だから、今年も去年みたいにテキトーにサボろうかなーなんて、思っていたのに。そうはいかなくなるなんて。
一週間前の俺と関口のプロレス事件。寺センは俺らにある罰を下した。あの日の放課後、俺と関口は寺センに呼び出しくらった。
「お前らには、みんなの朝の会を荒らした罰を与えねばならん!!」
「寺セっ、寺田先生、それなら朝受けましたよー、頭にこぶができちゃったんですから、どんだけ痛かったか。」
あのプロレス中、事態を終息させる為に、寺センは拳を俺の頭の脳天に振り下ろした。おかげで俺は大きなこぶができた。俺はまだヒリヒリと痛むこぶをさすった。
「先生、俺もです。俺も頭腫れてます。」
関口も同様にゲンコツをくらっていた。関口は坊主が原則の野球部に所属している。その丸い頭の上にもう1個小さい丸いものが出来ていたので、実に滑稽だった。
「お前、だっせーよなー、頭に雪だるまがいるじゃんかー。♪雪だるまつくっろー、ドアを開けてー♪」
雪だるまを作るように、関口の頭で雪だるまを作る真似をした。
「っおい、やめろ。いてーんだからな」
「なんでだよー、だって雪だるま作り楽しいじゃんかー。」
「あー、お前らやめろ、ったく…。すぐはじまっちまってめんどくせーなー。お前らは本当に仲良いいんだか、悪いんだか。」
寺センは頭をポリポリとかじり、それからジョリジョリと音を立てて髭を触った。
「悪いです」と、俺と関口は即答した。
「はぁ、わかった!仲が良いお前らには丁度いい罰を与える!」
そう言って、寺センはマラソン大会のルートの地図を取り出した。
「一週間後のマラソン大会で、お前ら2人だけには特別ルートを走ってもらう!」
「え、、、」と絶望する俺。
「それで先生、ルートは?」となぜか余裕の関口。
「まぁ、一般生徒の皆は学校スタートで、T公園と商店街をぐるっと一周して、学校へゴールだ。そんで、お前らだがー、学校スタートで、学校から少し離れた裏山を通って、T公園の近くの展望台を通って学校へ戻ってくるというルートで走ってこい!いいな?」
「うら、、、やま。。。」と絶望する俺。
「あー、ちょっと逸れたルートですけど、トレーニングには良いルートっすね。」とやっぱり余裕の関口。
「先生〜〜、お願いしますよ〜。もうちょっと楽にしてくださいよ〜、ね?ねー?」
俺は寺センの膝にすがり、物乞いをするように頼み込んだ。
「あー、なんだよ気持ちわりーなー。だーめだ!関口に助けてもらってでも、なんとかゴールしろ!!いいな?」
「そ、そんなぁ。」
「まあ、せいぜい頑張れよ運動音痴。」
これが地獄のマラソン大会の始まりだったのだ。