森、私、おちょくられる
脱出した先は森の中だった。
背の高い木は、まるで私達を何かから隠しているかのように鬱蒼としていた。
私達の周囲5メートルくらいにだけ、木がなかった。
まるで以前まで何かがあったかのように。
多分施設の入場ゲートみたいなのがあったのかな?
「よし、地上に出たな。どこか休めるところを探そう」
「【探索】は使えないの?」
そう言うと、シエルは困った顔をして言った。
「あの魔法は、短時間に頻繁には使えない。時間を無駄にしないためにも動くぞ。幸い俺たちは食事をあまり必要としないし、睡眠も少ない時間で大丈夫だから、動ける時に動いておかねばな」
なるほど、私が食事を摂らなくても大丈夫だったのも、眠くならなかったのも、魔族の性質によるものだったのか。
というか、魔族と人では身体の性能が違いすぎるんだけど。
なんでだろう、赤い眼が関係しているのかな。
肯定の意味で頷いて、私は歩き始めたシエルについて行く。
幼女の足と少年の足では歩幅が大きく違う。
走らないと置いていかれる。
キツい、キツいよ。
息を切らしてゼーゼーいっていると、シエルが私をおんぶした。
え!?
やーめーてー!
私は中身は幼女じゃないー!
確かに疲れてるけど、そんな、おんぶなんてされたくない!!
私がバタバタ暴れていると、シエルは笑顔で言った。
「何も問題ないだろう。一緒に行動するにはこの方が良いだろう? そんなに重くないから苦でもないしな」
いや、問題あるよ。
確かにいいかもしれないけど!
私も楽だけどさ。
というか、もしも重いなんて言ってたらぶっ飛ばしてたからね!?
まあ、王子様にそんな事できないけどさ。
私は小心者なんだ。
「年下におんぶされるのは恥ずかしいから、手を繋ぐにして」
そう言うと何が面白かったのか、シエルが爆笑した。
いやいや、今の中に爆笑するような言葉あったか?
「何が可笑しいの? 」
「いや、その見た目で言われてもな」
完全にバカにされている!!
抗議の意を込めてシエルの頭をペチペチ叩く。
ペチペチくらいなら大丈夫、なはず!
ペチペチしてる間にも、シエルは歩き続けている。
抵抗するのは諦めて、おとなしくしていた。
ふと気づいた。
この森何もいない。
鳥の鳴き声も聞こえないし、獣の足跡も見つからない。
キノコとかはあってもおかしくないけど、やっぱりない。
ふと空を見上げた。
そこには、太陽があった。
2つ。
えええええええええ!?
接着剤でくっつけた、みたいな感じの2つの太陽があった。
さっきは明るさだけに気を取られて、気がつかなかったのか。
異世界に来たんだな、と実感した。
シエルの質問に答えたり、空を見渡していた。
新鮮だった。
地球ではなかった光景だから。
ポカポカとした陽気が心地良くて、静寂が心地良くて、私はウトウトし始めた。
あー。ねむ。
あー、抗えないー。
私はいつの間にか寝ていた。
☆☆☆
「私」は傷ついていた。
とても痛くて、苦しくて、発狂しそうだった。
激痛に苛まれたまま、どことも言えない場所で独りで、生きていた。
生きているだけだった。
永遠とも永劫とも言えそうなほどの時間が過ぎた。
ふと「私」は解き放たれた。
「私」は喜んだ。
だけど「私」の周りには何もなくて、哀しかった。
だから私は――。
☆☆☆
目が醒めると、知らない天井が見えた。
びっくりして起き上がると、白衣が身体からずり落ちた。
隣にはシエルが寝ていた。
え、ここどこ?
6畳ほどの広さの部屋に私はいた。
暖をとるためだと思われる火が灯っていた。
壁には意匠を凝らした絵が描かれていた。
天使っぽい羽が生えた女性と、蝙蝠みたいな羽が生えた女性が向かい合っている絵だ。
なぜか憤りを覚えた。
あれ?
なんで私は絵を見て憤りを覚えているんだろう。
この絵を見るのは初めてなのに。
「おはよう」
声をかけられた。
シエルが起きたみたい。
挨拶しようと振り返った。
私は言葉を失った。
だってそこには、獣耳が生えた挙句に、髪色まで黒になっているシエルがいたから。