表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

森、私、おちょくられる

 脱出した先は森の中だった。

 背の高い木は、まるで私達を何かから隠しているかのように鬱蒼としていた。

 私達の周囲5メートルくらいにだけ、木がなかった。

 まるで以前まで何かがあったかのように。


 多分施設の入場ゲートみたいなのがあったのかな?


「よし、地上に出たな。どこか休めるところを探そう」

「【探索】は使えないの?」


 そう言うと、シエルは困った顔をして言った。


「あの魔法は、短時間に頻繁には使えない。時間を無駄にしないためにも動くぞ。幸い俺たち(魔族)は食事をあまり必要としないし、睡眠も少ない時間で大丈夫だから、動ける時に動いておかねばな」


 なるほど、私が食事を摂らなくても大丈夫だったのも、眠くならなかったのも、魔族の性質によるものだったのか。

 というか、魔族と人では身体の性能が違いすぎるんだけど。

 なんでだろう、赤い眼が関係しているのかな。


 肯定の意味で頷いて、私は歩き始めたシエルについて行く。


 幼女の足と少年の足では歩幅が大きく違う。


 走らないと置いていかれる。

 キツい、キツいよ。


 息を切らしてゼーゼーいっていると、シエルが私をおんぶした。


 え!?


 やーめーてー!

 私は中身は幼女じゃないー!

 確かに疲れてるけど、そんな、おんぶなんてされたくない!!


 私がバタバタ暴れていると、シエルは笑顔で言った。


「何も問題ないだろう。一緒に行動するにはこの方が良いだろう? そんなに重くないから苦でもないしな」


 いや、問題あるよ。

 確かにいいかもしれないけど!

 私も楽だけどさ。


 というか、もしも重いなんて言ってたらぶっ飛ばしてたからね!?

 まあ、王子様にそんな事できないけどさ。

 私は小心者なんだ。


「年下におんぶされるのは恥ずかしいから、手を繋ぐにして」


 そう言うと何が面白かったのか、シエルが爆笑した。

 いやいや、今の中に爆笑するような言葉あったか?


「何が可笑しいの? 」

「いや、その見た目で言われてもな」


 完全にバカにされている!!

 抗議の意を込めてシエルの頭をペチペチ叩く。

 ペチペチくらいなら大丈夫、なはず!


 ペチペチしてる間にも、シエルは歩き続けている。

 抵抗するのは諦めて、おとなしくしていた。


 ふと気づいた。

 この森何もいない。


 鳥の鳴き声も聞こえないし、獣の足跡も見つからない。

 キノコとかはあってもおかしくないけど、やっぱりない。


 ふと空を見上げた。

 そこには、太陽があった。

 2つ。


 えええええええええ!?


 接着剤でくっつけた、みたいな感じの2つの太陽があった。

 さっきは明るさだけに気を取られて、気がつかなかったのか。


 異世界に来たんだな、と実感した。


 シエルの質問に答えたり、空を見渡していた。

 新鮮だった。

 地球ではなかった光景だから。


 ポカポカとした陽気が心地良くて、静寂が心地良くて、私はウトウトし始めた。

 あー。ねむ。

 あー、抗えないー。

 私はいつの間にか寝ていた。




 ☆☆☆



「私」は傷ついていた。

 とても痛くて、苦しくて、発狂しそうだった。

 激痛に苛まれたまま、どことも言えない場所で独りで、生きていた。

 生きているだけだった。

 永遠とも永劫とも言えそうなほどの時間が過ぎた。


 ふと「私」は解き放たれた。


「私」は喜んだ。

 だけど「私」の周りには何もなくて、哀しかった。

 だから私は――。



 ☆☆☆




 目が醒めると、知らない天井が見えた。

 びっくりして起き上がると、白衣が身体からずり落ちた。

 隣にはシエルが寝ていた。

 え、ここどこ?

 6畳ほどの広さの部屋に私はいた。

 暖をとるためだと思われる火が灯っていた。

 壁には意匠を凝らした絵が描かれていた。

 天使っぽい羽が生えた女性と、蝙蝠みたいな羽が生えた女性が向かい合っている絵だ。


 なぜか憤りを覚えた。


 あれ?

 なんで私は絵を見て憤りを覚えているんだろう。

 この絵を見るのは初めてなのに。


「おはよう」


 声をかけられた。

 シエルが起きたみたい。

 挨拶しようと振り返った。


 私は言葉を失った。


 だってそこには、獣耳が生えた挙句に、髪色まで黒になっているシエルがいたから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ