触って、見つける
歩くのに疲れたので、走ったりスキップとかしながら進む。
ひーまーだー!
歩くだけで何も変わらない!
ずっと白い廊下だし!
ここまで代わり映えしない景色!
つまらない!
それにしてもここは何で出来ているんだろう。
鉄?木?コンクリート?
壁を触る。
硬い。木ではないと思う。
木ならもっと軽い音が出るはずだし。
うーん。鉄っぽい。
でも魔法なんてものがある世界だから、未知の建築材があるのかもしれない。
壁をコンコン叩きながら進む。
もしかしたら材質変わるかもしれないから。
見た目に変化がなくてもこういうところが変わっているものだよね。
リズム感も鍛えられるし。……意味がないとか言ってはいけない。
トンテン壁を叩きながら歩いていく。
すると、少しだけ違う音が出る箇所があった。
音が今までより軽い。
その箇所に何かあるかもしれない。
そう思って確認する。
触ったり叩いたりしながら。
すると、ほんの少しだけ壁が凹んだ。隠しボタンみたいになっていたみたいだ。
凹んだ箇所をさらに強く押すと、くるんと壁が反転して、別の空間が広がっていた。
びっくりしたー。
ここはなんだろう。
床には謎の幾何学模様が描かれていた。
紙の束、薬品らしき粉末、そしてやっぱり白衣が散乱していた。
脇の棚の中には試験管があった。
研究室かなにかだったのかな。
そして一番目を引くのが、部屋の中央にある球体。
そこにいたのは、人だった。
培養液に入れられ、培養液ごと宙に浮いていた。
とても綺麗だと思った。
白磁のような白い肌、真っ白な髪をもつ少年だった。
まつ毛は長く、まるで人形のようだ。
最初は女の子かな? って勘違いしてしまった。
培養液は透明だから、その美しさが良くわかる。
その美しさに息を呑んだあと、気がつく。
培養液に私の顔らしきものが映っているということに。
顔を近づける。
培養液に映っていた顔は、地球にいた頃の私に少しだけ似ていた。
口や鼻はあまり変化がないみたい。
あ、顔の彫りが深くなっている。
目にも変化があった。
以前の私はタレ目だった。
でも今は鋭い切れ長な目になっている。
目の色は、血のような赤だった。
総合的にいうと、美人だと思う。
自分で美人って言うのもどうかと思うけどね。
本当に転生したんだな、と実感した。
自分を確認したあと、少年に向き直る。
少年と言っても今の私よりかは年上だと思うけど。
少年を見つめる。
そして私は培養液に手を伸ばす。
すると、球体が弾ける。
少年が重力に逆らえず、床に落ちる。
私も培養液に押し流されて部屋の端に追いやられた。
部屋の中は水浸しになってしまった。
いろいろ濡れてる。
なんか、スラム云々って書いてある重要そうな書類は見なかったことにして、少年に目を向ける。
書類なんて見たって私には関係ないしー。
それよりも優先することがあるのだー。
この少年をこのまま放ってはおけない。
質問したい事がたくさんある。
私は少年が目覚めるのを待つことにした。