山狩り来たる(2)
「山狩りだ」
と聞いてカトーも立ちあがり、かまどの石を崩して穴に蹴り入れ、土をかぶせて均してしまった。
「ミトラちゃん、じゃったかの。隠れんで」
ミトラは身をすくませたが、なおも用心深い目つきをして、膝を抱えたままだった。
「べつに馴れあわなくたっていいからよ。お前だって、とっ捕まんのは嫌だろ」
「あの連中、そもそも誰なんじゃ」
「それだ。ミトラ、お前、襲ってきた連中に心当たりはねェのか?」
ミトラは、なおも押し黙っていたが、
「知らんばい」
ようやく、それだけ言った。
「そうかい。まあ、いいや。向こうから来てくれてんだから、とっくと観察してやろうぜ」
ほどなくして男たちが現れた。
総勢およそ十四、五人が二人一組になり、かたや木立や茂みを松明で照らし、そこに長槍を突き込んでいる。
引き上げていった五十余人を数班にわけて、山狩りをしているのだろう。
ひとりが、かまどの痕跡を見つけて、
「副隊長!」
そう呼ぶと、それらしい男が歩み寄り、
「ふん、ここで火を焚いたか」
長槍で掘り返すと、木炭がまだくすぶっていた。
「これで隠したつもりか、素人め」
と嘲笑して、
「慌てて消したのが、すぐにわかるではないか。してみると、まだそう遠くにいってはいないはずだ」
「ひとりでしょうか」
「なんの苦労もなく、ぬくぬくと育って、こんなところで火など起こせるものか」
どうやらミトラのことらしい。
「何者かが一緒にいるはずだ。そやつらが隊長たちを殺したのだろう」
「何者なのでしょう」
「わからん。が、四人や五人ではあるまい」
「大勢ですか」
「隊長たちは、抵抗らしい抵抗もできずに殺されていた。多勢に無勢であったはずだ」
十数名の部下たちは、思わず長槍を握りなおしていた。
「急げ。夜とはいえ、そのような人数を隠しおおせるものではない。必ず見つけて討ちとるのだ。人数が同じなら我々が勝つ」
そう副隊長が訓示をすると、部下たちは右の拳で左胸を叩き、踵を鳴らしてそれに応えた。
彼らはまた二人一組になり、長槍で藪を突きながら去っていった。