山狩り来たる
「なァ。オレたちが悪かったからよ、もうちっとこっち寄んな」
スキピオが火をつつきながら言った。
旧街道から脇道に入り、やや平らな場所をみつけて、地面に掘った穴の周囲に石を積み、木炭を詰め込んだところで日が暮れた。
今はスキピオが、かまどの番をしている。
「おい、聞こえねェのかい」
「変態とは馴れあわんばい」
ミトラは離れた場所に座っていた。
着ていた服は引き裂かれてしまったので、葛籠にあった単衣に着替え、腰に長布を巻いて、肩からショールをかけている。
本人のものだったらしく、サイズはぴったりだった。
それはいいのだが……。
ミトラは決して近づいてこようとしなかった。
逃げずにいるところをみると、敵ではないと思ってはいるらしい。
だが、カトーとスキピオは、のっけからヌードをガン見したばかりか、ダブルモロ出しのアブノーマルプレイをお見舞いしてしまっていた。
おかげで、すっかり警戒してしまったのだ。
「だからあれは、ちっとばかし対応を間違えたんだってばよ。何度も謝ってるじゃねェか」
そこへカトーが戻ってきた。
なにやら抱えている。
「用意できたで」
「水場はあったか?」
「この下に小川が流れとった」
「こっちもいい頃合いだ。下の方に突っ込んじまってくれ」
カトーは大きな葉でくるんだ包みをふたつ、燃えさかる枯れ枝の隙間に突っ込んで、棒でかまどの奥に押し込んだ。
「腹が減っとるじゃろうが、もちいと待っとれや。旨いのを焼きよるけえ」
と声をかけたが、ミトラはじろりと睨みかえしただけだった。
「ありゃ。まだ、むくれとるんか」
「もう放っとけよ。いつまでも人の失敗を根に持ちやがってよ」
「まあ、これが焼けたら気分も変わるじゃろ」
カトーは苦笑して、
「あっちのほうも、ぼちぼちかの」
「ああ、来てもいい頃だな。ちっと見てくるから、火のほうを頼むわ」
スキピオはそう言い残して、木立の間に入っていったが、しばらくすると戻ってきて、
「来たぜ。山狩りだ」
声を低くして、そう言った。