表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
1 旧道の小いくさ
5/69

言葉責めでシヌ

「み……見たと?」



 と、ミトラは早くも涙声。


 無理もない。


 自分は引き裂かれた衣服の残骸を、僅かにまとっただけの、あられもない姿。

 そして見知らぬオッサンふたりが、そんな自分を凝視していたのだから。


 カトーは鍋カブトごしに頭を掻き掻き、



「ま、まあ、見たゆうたら見たかもしれんが、そのー、あれよ。のう?」


「うろたえてんじゃねェよ」



 スキピオはあくまで冷静だった。



「なァ、目ん玉ウルウルさせて、そんなに恥ずかしがるこたァねえだろ。ガキのナニなんて、こっちも見たからって嬉しいもんじゃねェよ。まァ、女装したガキってのは、ちっとばかし風変わりかもしれねェがよ」


「ナ、ナニ……」


「あー、わかんねェか。男のヘソの下についてるもんを、俺たちシモジモの人間はそう呼んだりするんだよ」



 しばし呆然としたミトラの瞳から、大粒の涙がぽろりと落ちて、



「えぐっ、ふ、ふぐっ……」



 と、ついに泣きだしてしまった。



「な、泣いてしもたど」



 カトーは狼狽して、



「どうすんなら。なんとかせえ。なんとかしてくれやあ」



 そこへいくとスキピオは落ち着いたもので、声をかけられる頃合いを待ってから、



「そのままでいいから聞いてくれ。な?」



 と、穏やかに語りかけた。



「お前がナニ者なのかは知らねェが、オレたちゃしがないこそ泥でしかねェし、それ以外のナニかになるつもりもねェ。だから見ちまったもんを誰かに言うつもりもねェし、ナニかに利用するつもりもねェ。そんなこったから、ここでナニがあろうが、お前がナニ者であろうが、興味もナニもねェんだよ。つーことだからよ、ここじゃナニもなかった。ナニも起こらなかった。そういうことでよくねェか?」



 ミトラは濡れた瞳をあげた。

 スキピオはひとつ大きく頷いて、



「言ってる意味、わかるよな?」


「こん太か人、またナニって言うたばい」


「え?」


「何回も言うたばい。七回もナニって言うたばい……ふえええ……」


「い、いや、そいつは誤解だぜ。さっきのナニはそういう意味じゃねェんだ。その前のナニはそっちの意味だが、いまのナニは違うんだよ」


「また三回も言うたばい……よう数えたら、さっきの八回やったとばい……びえええ……」



 穏やかに説得できたはずだった。

 が、なぜか余計に泣いてる。

 振り返ればカトーも泣きそうだ。

 お手上げだ……スキピオはため息をついた。


 ところがミトラは、



「死ぬばい……こげん恥ばかいて、もう生きてんいられんけん、ここで死ぬばい」



 さらに困ったことを言いだしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ