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第二話 遭遇

今回は舞視点で書かせてもらいました。これからも基本は孝二ですが、話によっては視点が変ります。

「やっと終わったわ」 

 思わずそう呟く。この立川学園に入学してもうすぐ一ヶ月になろうとしている私だが、やはり勉強というものを好きになれそうにない。しかも私は部活動というものをやっていないので学校に来ての楽しみといえば、昼の昼食くらいなもんである。

 

 しかしそれも仕方がないことなのだ。なぜなら私はあの店以上に居心地がいい空間などしらないのだから。そんな私はこのあとのホームルームが終わればさっさと帰れるように支度を始めていた。しかし邪魔者というのはどこからでも湧き出てくるもので、支度を終え、ホームルームを終え、さぁー帰るか。と席を立った私に無駄に高い声で呼びかけるものがいた。



「あぁー、まぁた先に帰ろうとする!!」

 振り向くとそこには幼稚園のころから見慣れた顔があった。無視しようかとも思ったがさすがにそれはかわいそうなので、普通に返事を返すことにした。



「なによ愛、別にいいじゃない。愛に迷惑かけるわけじゃないんだし」


「あぁー!舞ってそういうこと言うんだ。私は悲しいよ、およょ・・」


「あぁーもー、わざとらしいなー」

 そう言葉を返している間に愛はいつのまにか自分の定位置である私の隣に収まっていた。まぁいつものことなので気にしない。


「で?何のよう。私今から帰るんだけど」

 

「えーとねー。ちょっと付き合って欲し・」


「いや」

 答える前に断った。


「えー!?なんでよー」


「どうせ、「部活でも入ってみない?」とかそんなこと言うんでしょう」

 愛の言う事は容易に想像できた。この世話焼きな幼馴染はいつも私の交友関係を心配しているからだ。何せ私はこの子供離れした容姿のせいで周りからどうしても浮いてしまうのだから


 しかし、彼女の言葉は私の予想を超えたものだった。

「いや、そうじゃなくてもう舞を部活に入れたから顔見せに行かないと。ってこと」



「・・・・・はっ・・・」

 五秒思考が停止した。そして正気に戻ったらこれからどうするかを三秒で確認、そして。


 ダッ


 怒るより何より、私は逃走を開始した。

  

  しかし

 

 がくん。と思いっきりつんのめってしまった。


「逃がさないよ。舞☆」

 動きを読まれたのか。制服のすそをつかんでいた愛が、勝者の笑みを浮かべていた。


「・・はぁー。わかったわよ、付き合うわよ」

 そして私は小さくため息を吐いて今日の予定を全部諦めた。

 

   ・

   

   ・

   

   ・


   ・


「で、私は何部に入ったわけ?」

 廊下を二人で歩きながら、私は[怒ってます]という態度を隠さずに尋ねる。


「えーとっ、行けばわかるよ」

 しかし愛はそんな態度を気にもしないで、花が咲くような笑顔で返事を返した。


 ・・・まいった。そんな顔で答えられたら、なぜか怒っている私が悪く感じてしまう。私は悪くないはずなのに、そう思いながら隣を歩く、私より一回り以上に小さい愛を見ていた。そうしながらふと思う。愛はここまで強引だったろうかと、愛のことなら幼稚園のころから知ってる愛もそうだろう。年中組のころに同じ組になったのがきっかけで仲良くなったのだが、そのときから笑うとかわいかったのを覚えている。


 愛は私と違い年相応にかわいい女の子で、隣でひょこひょこと動いている頭は、さらさらな髪を左右で結んだツインテールだし、目は猫っぽいきょろっとした目だし、特にほっぺのやわらかさは反則だと思うくらいだ。・・・話がそれたがようは私がそれくらい愛のことを知っているということだ。その愛が私の意見を無視して部活に入れるなど、冷静に考えるとあまりいやほとんど無い・・・本当だ。となると何かしら別の理由でもあるのだろうか。等と考えていたら不意に愛が足を止めていたことに気づいた。あたりを見回すとほとんど人が居なくなっていた。どうやら音楽室らしいが、ここが目的地なのだろうか?


「愛、ここなの?」


「んー、そうだけどちょっと待ってて」

 そう言いながらも愛は教室の扉を開けようはとしなかった。そのことに違和感を感じ愛に声をかけようとしたら、それは始まった。



  〜♪〜



 なじみの無いしかし聞いたことのある音色だった。ピアノではなく、ギターでもなく、ましてや合唱の歌声でもなかったその音色は。



「ヴァイオリン?」

 そう、ヴァイオリンだ。生で聞いた覚えなどないがその音色はなぜか自然に知ってしまうものだった。しかしその音色はただパート確認のためだけだったようで、すぐにやんでしまった。そしてやんだと同時に愛が教室の扉を開け中に居る誰かに声をかけた。



「きれいな音だったよ。た・・ん」

 なんと呼びかけたかはよく聞こえなかったが、愛が中に居る人物を知っていたようなので、私も気持ち急ぎ足で愛について行き教室の中を確認した。そこにはまたもや知った顔の人物がいた。


「聞いてたのか愛、それと舞ちゃん。どうだった」

 そう声をかけてきた人物は愛の生まれた時からの幼馴染であり、愛の片思いの相手でもある、安藤 拓也(あんどう たくや)であった。


「だからきれいだったって言ってるじゃん」


「えーそんな抽象的な感想じゃなー」


「いーの。どんな言葉でも私が褒めたんだから泣いて喜んでいいんだよ」


「ハイハイ、わかりました」


「むー、その態度はなにさ」


「いえいえ、感激のあまりむせび泣きたいところなんだが、男のちんけなプライドのせいで泣けないだけさ」


「もー、たっくんはいっつもそうやってー」



 私にも一応感想を求めたはずなのに、二人は既に二人の世界を展開してしまっていた。だがそんな二人を見ながらなぜ愛が私を連れてきたのか、その理由を理解した。   




 ただ愛は恥ずかしかったのだ

 


 あの言い合いを見てるとそんなこと忘れそうになるが、愛は拓也さんと二人っきりになるととたんに無口になってしまう。前にこっそり見た限りでは「うん」と「あうう」ぐらいしか言ってなかった。だがまぁしかたないだろう。客観的にみても拓也さんはかっこいい身長は私と同じくらいあるしさっぱりとした短髪も好印象だ。・・・まあ孝二には負けるが


 そんな彼は三年生なので一昨年から学校で会えなかった愛は、今年からせっかく同じ学校になるんだから部活も一緒にしたいと思ったのだろう。しかし一人で部活に入るのは恥ずかしい、そんなこんなで一緒に部活に入る相手として、私に白羽の矢が立ったのだろう。

そんな感じで納得していると私たちが入った扉から誰かが入ってきた。


「あっ先生」

 拓也さんが声をかける。その人はこちらを見ると、正確には私を見るとすこし驚きを表してから声をかけた。


「あなたたちが新入部員?」


「あっハイ、1年B組高橋 愛です」

 

「・・・1年C組佐藤 舞です」

 私の返事はかなりそっけないものだと感じた。実際そのとおりだと思った。だってその先生というのが入学式のときに孝二と再開したあの・・・ 


「じゃあ今度は私の番ね今年新任なんだけど1年生の音楽と、この『弦楽部』の副顧問をやらせてもらってる『阿木島 妙』です。呼び方は苗字でも名前でも好きな方で呼んでね」

 先生なのだから、そんな先生に愛はフレンドリーに声をかけ。


「じゃあ、たえちゃ・」


「よろしくお願いします『アキ』さん」

 

「・・・・・舞?」

 けど、その前に私が攻めた。


「こちらこよよろしくね。愛さん『舞』さん」


「・・・・・先生?」

 愛たちが変な目で見ているが気にしない。近頃あの店の常連になっているらしいアキさんを見ながら思う。彼女と話した回数は店の利用時間がずれているためあまりないが、孝二のした話とアキさんの態度を見る限り彼女は私の恋の好敵手(ライバル)に違いないと。


「舞さん、先輩は元気でしたか?昨日は店に顔出せなくって」


「大丈夫ですよ。孝二は私が『毎日』面倒見てますから」


 ぴく

「そうですかそれはよかった。先輩も『子供』の相手は大変でしょうからね」


 ぴき

「そうですよねー、孝二も『ただの』部活の後輩『だった』人に迷惑をかけるわけにいきませんから」


 ぴきん


ごごごごごごごごごごごごごごー

 ↑

 まさにこの場にふさわしい擬音だろう。私たちは年や容姿や親も違えど一人の男に恋する者同士。お互いに負けられないものがあるのだ。


「あのねー舞ー」

「あのーですね先生」



「「ふたりは静かにしてて」」


「「ハイー」」

 何気に息が合ってしまった。


 しかしこの後のことはいろいろと大変なことになった、勝負(?)が終わるまで愛と拓也さんはずっと教室から出られなかったそうだし、終わった時間は既に下校時刻を過ぎていたり、結局私の部活動はどうなったんだーとか、結局店にもいけなかったりで散々だった。しかし収穫が無いわけでもなかった。





 −次の日−



 カラーン


ドアのカウベルがお客の来店を告げる



「すいませんねまだ開店してませんがっ・・・って、なんだ今日はずいぶんと早いな」

 

「昨日はちょっと来れなかったからね、言いたいこともあるし今日は朝のうちに会っておこうと思ったの」


「かわいいこと言ってくれるね、男冥利に尽きるね」

 たわいのない会話だがそのひとつひとつが心地よかった。かわいいと言う一言で頬が熱くなるのを感じた。


「昨日アキさんと話をしたの」


「・・・へっ、へーそうかー。どうだった」

 驚いてるのが分かる。まぁ誰だって分かるだろうけど


「凄かったわよ。何か言い合ってるうちに外が暗くなっちゃったから」


「・・・・・・」

 沈黙、まぁその言い合い自体は剣呑なものじゃないけれど。そういう話し方をしたのだからしかたない。だからそのまま話を続ける。


「でも嫌いじゃないの、どちらかといえば好きな方よ」

 

「・・・だろうな、それで?なんでそうなったんだ」

 そして続く答えを知っているかのように苦い顔だった。いやたぶん分かっているだろう。孝二ははそういう人だ。だから私はその続きを口にした。



『譲れない思いがあるの、その思いは一人にだけ注がれるものだから、だから好きになれない。好きになると辛くなるから、思いを手にしても、できなくても。』



 そう言って私は店を出た。違う答えがあるかも知れない。彼女ならまかせられると思えるかもしれない。だけど負けたくなかった。逃げ道を用意するようでしたくなかった。だから私はこの思いだけで勝負する、だってこの思いは誰にも負けないって知っているから。













 そして舞が去った後を見ながら孝二はそっと言葉を紡いだ。

「俺にはもったいねぇ女だよ。お前は」

 

とても、とても大切そうに。

















−オチ−


「これが約束の先輩の高校のときの居眠り激写写真よ」


「こっこれが、うーむすばらしいわ」


「じゃあ、そっちも」


「えぇ、これが孝二が店で試しに着ていた。孝二ギャルソンスタイルの時の写真よー」


「こっこれがー!!・・・舞さん。やりますね」


「あなたこそ」

 けっきょくろくなことをしていなかった。



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