第1話 再開
「静かだ」
ふとそんなことを呟いた。今日はアイツの入学式なのでアイツの指定席であるカウンター席
には誰も座る者がいない。
「アイツが居ないからって独り言か俺よ、どんな寂しい生活だよ・・・欝だ死のうかな」
なんだか心が荒んでいく、でもしかたがない。8時開店で現在16時、なのに来店者数は二桁に満たないってどうよ?思考がネガティブになるのもしかたないだろう。
しかし遅いなアイツは近頃の入学式ってのはこんなに遅いのかまったく・・・あれ!?俺今近頃って言った?若い奴は今時って言うだろ ショック!!なんか思考が老けてきた。いやまだだ俺は若い・・・のか?
ちょっ!?だから
「若いの!!」
「こんにっ!?」
カラーン
ドアのカウベルが空しく響いた
「あっあのー」
貴重なお客が苦笑いを浮かべている。確かに店に入ったとたん「若いの!!」って叫んだやつを見たらそうなるだろう。しかしそんなことでお客を逃がすつもりはない。
「いらっしゃいませご注文は♪」
「あのっ、さっき」
「何か♪」
「あの」
「おすすめはブレンドとできたてのあつあつスコーンになっております♪」
「えっでっできたて?」
「ハイ♪」
「じゃっじゃあそれで」
「はいかしこまりました」
勝ったー!!
渾身の笑顔と共に送り込んだ切り札によってさっきの出来事をごまかすことに成功した。ふっちょろいもんだ。
そうして注文の品を準備しながらお客の相手をする。
「お客さんは仕事はどんなことを?」
「えっと教師なんです。新任ですからまだ担任は貰ってないんですけど」
「へー、近くのとこに勤めてるのか?」
「あっハイあの中高一貫の」
「あぁ、あそこ」(立川かおれも通ってたな)
「ハイ、小学部だけなかったりいろいろとおかしいとこもありますけど、あそこで過ごした日々はかけがえのないものでしたし」
そういった彼女の顔は正直見惚れるに値するものだった。最初の出会いがアレだったので気にしなかったがよく見るとかなりのいい女だ。髪は薄いブラウンでくりくりした目も犬チックでなんかいい、スタイルも悪くない。そして個人的に一番来たのが うなじ だ。長すぎはしない髪をバレッタで後ろに止めているのが好印象。ぶっちゃけ好みだった。
「ふーん。そうなんだ」
だが口説きはしない、なぜなら思い出を語る彼女の顔が恋する女の顔をしていたからだ。そんな人に声をかけるのは俺の中ではルール違反だからだ。・・・本当だ。うそじゃない!!
「よっぽどいい男だったんだな?」
「えっ、なっなななんでそれを」
「へー勘で言っただけなんだが」
「あー、うー」
素直に白状しすぎた。軽くあきれる
「あー、まぁそうなんです部活の先輩なんですけどね。弦楽部の」
「そうなんだ」
弦楽部ね、俺も弦楽部だったけどこんないい女は居なかったな。
そして彼女は言葉を続ける。
「その先輩はですね特別にうまいわけではないんですけど、だけど下手ってほどでもなかったんです。でも先輩のいいところはそんなところじゃないんです」
「じゃあどういうところなんだ?」
「なんか居心地がいいんです」
「ふーん」
なんとなくその先輩っていう人がどんな奴か見えた気がした。
「その先輩ってなんか隣にいても追っかけまわしても愚痴を言ってもなんだかんだでつきあってくれたんです」
「弦楽は関係ないんだな」
「ハイ、ほぼ♪」
いい笑顔だった。
なぜだかその話を聞いていたらいつも後を付いてくる犬みたいなやつがいたことを思い出す。たしか名前は・・・
「でもひどいんですその先輩私にあだ名をつけてたんですけどその名前が秋田犬なんていうんです。名前が阿木島 妙でなんか犬っぽいからって酷いと思いません?」
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「・・・そうですね」
あれ?なんか聞いたことあるような名前じゃないか?いや、でも万に一つのかの・
「しかも先輩、高校を卒業したら家の都合とかで私に一言しか言わずにいなくなっちゃっ
たんですよ。しかもその一言が「目指せ!!忠犬アキ公」ですよ。私の思いを返せーって感じ
ですよ」
・
・
・
ハイ、俺です。間違いなく俺です。申し訳ございません。だって店のこと知ってると思ってたんだもん。だってあそこから徒歩9分っていう微妙に近いこの場所をアイツ、いやアキだったら知ってると思ってたんだ。
そんな俺の脳内での葛藤をよそにアキは言葉を続ける。
「そんな人でしたけど私にとっては、とても、とても大切な人なんです」
っ!!
まずい、いろいろとまずい。なにがまずいかって・・・そりゃいろいろだろう
「おかしいですね私、こんな喫茶店の店長さんにこんなことを話すなんて」
俺は返事を返せなかった。ただ注文された品を作ることしかできなかった。それが卑怯な逃避だとしても。
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「・・ご注文のブレンドとスコーンになります」
そう言って密かに自慢のブレンドとスコーンを並べた。
「おいしいです。すごく」
「そうか」
そういってもらえて俺はすこし心がすくわれた気がした。
「ごちそうさま、あのいくらですか」
「おごるよ、おもしろい話を聞かせてくれたお礼に」
「そうですか?・・・じゃあお言葉に甘えて」
そう言ってアキが席を立つ。心にわだかまりが残る。だけど
「あの」
不意にアキが声をかける。
「なんだ」
なんだか自然に返事を返せた自分に驚いた。
そしてアキが振り返り
「このお店気にいっちゃたのでまた来ますね」
そういった時のアキは笑っていた。その姿が全然似てないのに、高校生のときのアキにかぶって見えた。そんなアキに俺は、
「ああ、いつで「孝二ーただいま」い」
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ア レ ?
「ごめん、着替えて来たから遅れたわ。・・孝二?なに固まってるの」
そう言っていつもの席に着くお姫様、だ・が
「ど・う・し・ておまえはこんな時に来るんだー」
「いっイタイイタイちょっとーなんなのよー」
そうして舞の頭にアイアンクローをかまし、
アキは俺の名前を聞いたはずだ。どうすればいいんだ。などというなせけない思考を2秒たらずで完了しアキの方へ顔を向けた。しかし
「あれ?」
そこにアキは居なかった
「もうなんなのよ、今日はいろいろと報告があるのにー」
俺に痛めつけられていた頭を押さえながら抗議の声を上げる。
「なあさっき人が居ただろ」
俺は抗議の声を無視して質問する。
「無視ね。まあいいわ私の報告もその人に関係あるの」
俺の反応に怒るかと思ったが舞は俺の予想を超えた反応を返す。
「なにさっきの人知ってるのか?」
そう聞くと、ちょっと言いづらいように口を開きながら舞は告げた。
「あの人うちの学校の新任教師なんだけど、ちょっと話してね。その時に孝二に伝言をあずかったの」
「俺に!?」
驚いたおれに舞はさらなる事実を告げる。
「ええ「先輩によろしく」ってただ一言だけ、店の名前まで知ってたわ。孝二、阿木島先生とどういう関係なの」
しかし途中から舞の声は聞こえていなかった。知っていた?アキは俺と知っていた?そうかいっぱい食わされたというわけか。
「ふふふふふ」
「ちょっ、なによそんな不気味な声出して」
舞が何か言っているようだが耳に入らない。アキよ確かに卒業式の時のことは悪かったと思うがここまでするとはな。だが今回のことは許そう。・・・なにせ7年ぶりだからな
「おかえり。アキ」
そう小さく呟いたとき、不意にアキが「ただいま。先輩」と言ったように聞こえた。
「舞、ところでアキとはどんな話をしたんだ?」
「えっ、えーとそれは・・・高校のときの孝二の写真のこと?」
ろくなことじゃなかった。
一話投稿しました登場人物がやっと三人
難しいです小説書くのって、これからもよろしくおねがいします