今後の方針
サーシャの持つゴーレムは、手のひらサイズ。
ゴーレムというにはかなり変則的なゴーレムだ。
二体で一体となるゴーレムで、周囲の音を拾い、もう一体のゴーレムに声を届けることが出来るというものだ。
まぁ、ゴーレムというより携帯電話というべきだろう。
って、そんなことより……
「なんで、おかんの声が届いているんだ?」
『おお、クリスか。無事か? サーシャとタンガガは?』
「サーシャは無事です。ダンガガは……」
自然と手に力が籠る。
『……そうか。だが、お前達が無事で良かった』
ゴーレムにこちらの様子を見る機能は無い。
しかし、こちらの様子は、声から感じ取ったようだ。
『で、お主らは今どこにいる?』
「オリビア様。私達は、その……異世界と呼ばれる場所に来ておりまして」
まぁ、普通はそんなこと言っても信じて貰えないだろうな。
俺達がいた世界はファンタジーだが、ファンタジーはファンタジーなりの常識が存在する。
異世界とは、あの世界においても異世界でしかないのだ。
しかし、おかんは……
『だろうな。今いるのは森か』
「今いるのは、砂漠の真ん中にある街で、確かドバイ、と」
『ドバイか。聞いたことないな。ここのゲートを通れば森に出ると聞いていたが……』
「ちょ、ちょっとまて、おかん。なんで、おかんが異世界のことを知っているんだよ!」
『ん、ああ。世界各地で異世界と通じるゲートがあってのう。これが原因でトラブルになることも多く、一部の人達の間では異世界があるのは常識となっておる。
しかし、まぁ、様々な理由からお互いに干渉はしないということになっておる。まぁ、開いている時間が短いこと、運べる物量が少ないこと、そして文化形態が違い過ぎることもあって、あちら側とこちら側は互いに不干渉ということになっておる」
成程、異世界の存在を知っているおかんが、銃の存在を知らないというのはこういうことか。
『まぁ、良い。いいか? 会話出来る時間は限られておる。お主たちが居なくなって一年。ハイロード王国は大きく変化した。ウェストロード侯爵が王を討伐し、実験を握っておる。実質、帝国の属国へとなり下がりおった。今、この国に戻っても捕らえられ政治的に利用されるだけじゃ』
「え、一年? そんなっ」
サーシャが驚きの声を上げる。
ああ、それに関しては俺もびっくりだ。俺の主観だと、ゲートをくぐったのはついさっきの出来事なのに。
しかし、疑問を口にする余裕はない。おかんは、時間がないといった。元々、このゴーレムは短い距離での会話をする為の道具だ。
サーシャから受け取ったゴーレムが、発熱しているのが解る。この通信の為、このゴーレムに相当負担を強いているはずだ。
「……俺達はどうすればいい?」
疑念は沢山ある。
両親の状況、ハイロード王国の状況、ウェストロード男爵領の状況など
しかし、それらを聞く時間は無いのだろう。
普段は余裕ぶっこいているおかんが時間がないと言うのだ。本当に時間がないのだ。
『……わらわ達は、七部族連合の元へ行くつもりじゃ。いつかハイロード王国を取り返すために。しかし、取り返そうにも旗頭になるものがおらぬ。侯爵共は殆ど殺され、生き残ったのはウェストロード侯爵に下っておる。
さりとて、わらわでは無理じゃ。魔王を殺さず数百年も放浪していた勇者など旗頭にするには弱すぎる。だから、主のとるべき道は二つ』
「それは?」
『……一つは、その世界で暮らすこと。主らは若い。そちらには世界には戦争を放棄した豊かな国があるという。そこに居つくのもいいじゃろう。母親としては、そちらの案を進めたいところじゃ。会えなくはなるが、主らが幸せに暮らしてくれるなら、それもありじゃと思う』
悲しげにおかんはいう。
戦争を放棄した豊かな国、おそらく日本のことだろう。
ああ、あの国なら俺らでも暮らしていけるだろう。何しろ、俺が生まれ育った国だ。
しかし……
「ざけんな。おかん達を放っておいて幸せに暮らせるかって―の。それに俺が戻るべき場所は、ウェストロード男爵領だ」
あのブドウ畑と森しかないようなクソ田舎。俺は様々な理由で屋敷から出たことはあまりない。
しかし、好きだったのだ。窓の外に見えるあののどかな風景が……
だから、意地でも戻ってやる。俺の故郷は、前世で育った七森ではない。ウェストロード男爵領だ。
『……そうか。では、もう片方について説明しようかの。いいか、クリス、魔王を倒せ』
確かに、魔王を倒せば、俺は旗頭になりえるだろう。
俺の胸に輝く幾何学的な紋章。今は淡く、しかし赤く輝いているが魔王を倒せば燃え尽きたかのように光を失うという。
俺のウェストロードの血と、輝きを失った紋章。この二つがあれば、確かに俺は旗頭になりえるだろう。しかし……
「だけど、あっちにいる魔王をどーやって倒せばいいんだよ」
『いや、主の倒すべき魔王は、おそらくそちら側におるはずじゃ』
俺が倒すべき魔王は色欲の魔王。戦闘能力は低いとされているが、人や魔物を操り裏から暗躍する者が多かったという。
しかし、今代の魔王の情報はあまりに少ない。
『わらわも、主が生まれた時、各地の魔王の情報を調べたがの。色欲の魔王に関する情報は一切入ってこなかったのじゃ。やつは裏から暗躍するタイプ、表には出にくくはあるが、しかし、痕跡すら感じられぬ。とあれば……』
「こちら側で発生している可能性が高い、ってか?だけど、魔王ってのはセブンスで発生するものだろ?」
『いや、異世界……えーっと、地球といったか。そちら側でも魔王が発生することはあるらしいのう。勇者の紋章の輝き具合はどうじゃ?』
服を脱ぎ、紋章を見る。元々、淡い輝きをしていた紋章が、僅かではあるが色が濃くなっているような気がする。
『その紋章は魔王が近くなると輝きを増す。主が生まれ、その紋章を見た時、別大陸に魔王が発生したとしても輝きが薄すぎると感じておったのじゃ。少しでも輝きが強くなっているのであれば……』
「こちら側に魔王がいる可能性が高い、か」
『そうじゃ。クリスよ。色欲の魔王を追え。そちら側には、暴食の魔王がいるはずじゃ。奴にわらわの名前を出せば協力してくれるはずじゃ』
暴食の魔王。それはおかんが、倒すべきだった魔王。そうか、魔王が協力してくれるなら安心……って、おい!!
「てめぇ、なんで魔王が勇者に協力するんだよ」
『何、奴には大きな貸しがあるからの。異世界に渡ってから百年近くたっておるからの。それなりに力をつけておるはずじゃ。魔王を倒した後に戻る為のゲートの一つや二つ抑えておるはずじゃ。ともあれ、すぐにどうこう出来る問題ではないからの。気長に待っておるぞ』
「いや、だから勇者と魔王がお友達って聞いたことないんだけど!おかん、何やってんだよ」
『おー、そろそろ時間じゃ。そうじゃ、クリスよ。女装は解いてはいかんぞ。こちらとあちら側の繋がりはあまりないがの。ゼロではないのじゃ。勇者として活躍すればその噂はこちらの上層部に届くはずじゃ。その時、男が魔王を倒したでは困るのじゃ』
「おい、おかん!! 突っ込みどころがいっぱいあるんだけど! おい!!」
『ウェストロード男爵領の淑女であることを忘れぬように。何より、そこは主らにとって未知の土地じゃ、知らぬ男に騙されて、コロリとなびくようじゃダメじゃぞ』
「いや、俺、男だし。なびくもくそもねぇ!」
本当、おかん、俺の性別のこと忘れているんじゃねーか?
ああ、本当ムカつく。俺が男だとなんどもなんども言っているってーのに……
『それと……』
「あ?」
『愛しておるぞ。また、あの屋敷でみんなで暮らそうぞ』
それは、彼女らしからぬ穏やかな声。
ああ、解っている。少々変わっているが彼女の愛情は確かに俺にも伝わっている。
だから……
「解っているよ。その、俺も、それなりにおかんのこと好きだから、な」
小っ恥ずかしい。顔から火が出るくらいに顔が熱い。
ゴーレムから、くすっと笑う気配。
それとともに、ゴーレムがぽん、と音を立てて停止する。
「……クリス様」
サーシャが後ろから俺に抱きついてくる。
おかんと会えなくなって悲しんでいると思っているのだろう。
「あー、くそ。明日から男の恰好で暮らせると思ったのによ」
だから、俺は明るく彼女に笑いかける。
「く、クリス様の女装はとても似合ってます。問題ありません」
キリッ、とした表情で言いやがるサーシャ。いや、そういう問題ではないだろうが……
「まぁ、いいか。サーシャ。つーわけだ。これから大変になるがついてきてくれるか?」
一応、彼女に確認をとる。まぁ、長年付き合ってきた相手だ。答えは解り切っている。
「はい。私がいるべき場所はクリス様の隣です。どのような結果になろうともお傍を離れるつもりはありません」
その答えに、俺の頬が吊り上がるのを感じる。
解らないことだらけ、この広い世界で二人も魔王を探さないといけない。
しかもこちとら八歳児とこちらの世界のことを知らない田舎娘ときた。
しかし、何をすべきか定まった。ならすべきことは一つ。
「上等。なら、やってやろうじゃねーか。魔王退治ってやつをよ」




