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美味しいお肉(ダンガガ視点)



「……ガガ、ダンガガ!」


 その声に、俺はハッとする。

 視界にお嬢の顔がドアップに映し出される。

 吐息さえ感じることの出来る距離にあるお嬢の顔。

 きめ細かな白い肌。人形のように整った容姿。青い瞳はまるで宝石のようで、髪は金で出来ているかのよう。

 これだけ顔が整っていりゃ、無機物めいた印象を相手に与えがちだが、お嬢の場合違う。

 

 目をみりゃ解る。

 人形めいた容姿の奥に宿る力強い意志の力。それが彼女の魅力を引き立てている。

 それがこんな沼地で泥だらけになろうが損なわれることは無い。


 全く、目に毒だ。オークってーのは性欲が強い生き物だ。

 こんな乳臭いガキに一瞬でも惑わされるなんて、種族の業ってーのを思い知らされる。


 で?俺はどうしてたんだっけか?


 ああ、そうだ。

 俺たちがいるのはガウス沼地だ。

 もうかなり奥のほうへ進んでいる。俺たちが抜けた森はすでに見えやしない。


 そうそう、俺たちを追ってきた肉塊は沼地に沈んでいる。

 お嬢曰く、ゴーレムにしろ、合成獣にしろ。本来の生き物の形からかけ離れたものを動かすのはかなり大変なことらしい。

 俺たちや、獣が何気なくやっている歩行という行為には、その行為に最適化した進化の結果らしい。

 つまりは計算もクソもないあの滅茶苦茶な形をした肉塊は、ちょっとしたことでバランスを崩してしまうんだそうだ。

 で、そんな奴が底なし沼という最悪の足場に足を踏み入れたらどうなるか?

 答えは、転倒。暴れれば暴れる程、泥が絡みつき、そのまま沈んでいった、という訳だ。


 で、俺はこのまま村に戻るのは危険と判断して、オリビア様達が向かったという根の森へと足を延ばそうとしている訳だ。

 まあ、あそこに向かうまで亡霊系の魔物が現れるが、それは問題ないと判断した。

 亡霊系の魔物は実態の無い魔力の塊のような存在だ。俺のような戦士系では戦うのは難しいが、こっちにはお嬢がいる。


 相手の魔力に干渉出来るお嬢は、この手の魔物には滅法強かった。

 どれくらい強かったかというと、うん、本当相手にならないくらいだ。何しろ、触れることが出来ればそのまま相手を分解出来るという反則級の相性の良さ。

 除霊を専門にするかつての仲間が見たら憤死するんじゃないかってくらいの理不尽なまでの相性の良さだ。


 で、沼に関して、予想外に役立ったのがサーシャだ。

 やつが大量に召喚したホウライ。あいつら、最下位の精霊なんだが、生意気にも実体化することが出来る。

 んで、やつを大量に呼び出して、ホウライで出来た橋を作り出したっつー訳だ。

 サーシャのやつ、ホウライしか呼び出せないとか昔嘆いていたけど、こんだけ呼び出すことが出来れば何か出来そうなんだがね。


 まぁ、とりあえず、現在役立たずな俺は、この二人の後を着いていきながら、日が落ちてきたので、こうして野営をしているという訳だ。

 幸いに、点に延びる『根の木』を見つけることが出来た。

 これはガウス沼地に存在する不思議な木だ。『根の森』に密集しているが『根の森』に近づくとたまに一本だけ生えているなんてこともたまにある。

 見た目、天に延びる巨大な木の根なのだが、この根の付近には亡者の連中は姿を現さない。ガウス沼地に入ったらこの根のそばで休憩するのがこの沼地での常識だ。


「おい、ダンガガ!」

「へいへい、聞こえていますよ。それよっかお嬢。男に跨るってーのは淑女としてはどうかと思うんですがね。何ですか?誘ってるんですかい?」

「この、馬鹿!」

 お嬢が俺の腹に一発入れて、離れる。

 怒ったような顔でさえ、美しい。これで男ってーのが本当信じられねぇ。

 俺、オリビア様に騙されていないよな?



 はぁ、と俺はため息を吐く。

 パチパチと音を立てるたき火。サーシャはたき火の前で、うっつらうっつらと船を漕いでいる。

 色々とあって疲れているんだろう。肉体的なダメージもあるのだろう。今は休ませるべきだ。

 その姿を見ていると、涎が分泌されるのが感じる。


 ……うん、最近奥さんとご無沙汰だしな。性欲がたまっているのかね?

 少し、自己嫌悪に陥る。



「お嬢も少し休んだらどうです?」

「あー、なんか寝付けなくて」

 お嬢はお嬢で、擬態が完全に取れている。

 身内である俺や屋敷の人間の前では、よく素の表情を見せるが基本は、お嬢様モードの時のほうが多い彼女。

 こうやって素が出ているっつーことは、かなり参っているのだろう。

 

 事実、応急処置をしたとはいえ、お嬢はけが人だ。通常であれば、そのまま寝込んでもおかしくない。

 けれど、亡霊と戦えるのはお嬢だけだ。心配させまいとカラ元気をふるまっているがこうして起きているだけでもかなりきついはずだ。


「休めるとき休みな。俺が見張っておいてやるから……」

「ん……ごめん」


 そういって、お嬢はサーシャの隣に行き、寄り添うように目を閉じる。

 姿形、種族さえは違う二人。しかし、こうして並んでいると仲のいい姉妹のように見えるのが不思議だ。


 俺は、苦笑しながら火の前に座り込む。


 こうしてたき火の前に座っていると様々なことを思い出す。

 仲間と飲み明かした夜。

 魔物の群れに囲まれ、必死に夜の森を駆けた夜。

 ああ、長男も生まれたのも、深夜夜遅くだったっけか?


 ……家族は無事だろうか?俺はふと思う。

 男爵領の村から、俺の村は結構離れている。

 息子も、俺が育てただけあって、年の割にかなり戦えるようになっているし、あそこには俺の元部下もいる。

 問題はない。そう思うが、しかし家族の元に戻りたいという衝動が常に俺の中に燻っている。

 

 お嬢と共に、この沼に来たこの判断は間違っているとは思わない。

 この選択がベストの選択だとは思わないが、あの時取れた選択の中では、いい判断だと思う。

 理屈としては解っているが、それでも焦りがなくなるかといえば、そう割り切れないのが人間というモノなのだ。


 やれやれ、と俺は頭をかく。

 この状況がよくないのだろうか。

 周囲は暗闇、霧が出ているせいか、暗闇の中に何があるのか、僅かな陰影からしか判断できない。

 くわえ、遠くから響く。亡者のうめき声が余計に気持ちを落ち着かなくさせる。


 しかし、ふとそのうめき声に違和感を感じる。

 思ったより近い。この根の木のそばに亡者は寄ることは出来ないはずだ。


 俺は、ゆっくりと起き上がり声の方向に向かう。

 たき火から離れ、次第に周囲が暗くなる。


 うめき声が次第に近づき、そして、そこには……


「子供?」


 そこにいるのは人類種の子供。泥だらけになっているがまだ生きている。


「大丈夫か!」


 俺は、子供のそばに駆け寄る。

 なんでこんなところに子供が?


「おじ、さん。誰?」

「俺はダンガガだ。大丈夫、敵じゃない。なんでこんなところに……」

「お父さん、とウェストロード男爵領に寄ったら、急に騒がしくなって……それでお父さんとこの沼に逃げて来た」

 ……おそらく、行商か何かなのだろう。

 偶然、村に立ち寄ったところであの難民共が騒ぎを起こし始めた、と。

 そして、沼地へ足を踏み入れたのが彼らの運の尽き。

 この沼地を訪れる者は少ない。人の体を求める亡者達が彼らを逃がすはずがない。

 逃げまわるうちに沼地の奥へ奥へと進む羽目になったという訳か


「あの、お父さん。お父さんを助けてください。僕を庇ってさっきから動かないんです」

 少年が父と呼ぶものに目を向ける。

「…………」

 すでに息絶えている。

 おそらく、少年を安全な根の木のそばまで連れてきて、それで息絶えたのだろう。

 身なりからしてやはり行商。しかし、その肉付きからしてかなりの戦士であったようだ。

 子供を連れて、ここまでこれた戦士に祈りを捧げる。


「え、うそでしょ?お父さん、起きてよ!お父さん!」

 その祈る姿に、察したのか、子供が親の亡骸に縋り付く。

 やりきれない。このような光景は何度か見たことがある。

 しかし、何度見ようともこのような光景に慣れることは無かった。


 まだ、小さな子供。

 この先、この子供はどのように生きていくのだろうか?

 

 それと同時に思う。

 その柔らかそうな足が、頬が、お腹が、とても、とても




















 

 ㇳても、























 おイシそウだ、と




しばらく土曜出勤続きます。書けるか?俺(汗)

そろそろ難民編切り上げたいorz

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