その時、村では2(ダンガガ視点)
最近、視点移動が多すぎるのが気になる今日この頃。
拾った剣を振るい、
拾った槍を振るい、
拾った斧を振るう。
振るう度に人の形をしたものは肉片と血に分解され、周囲を赤色に染め上げる。
すでに体は真っ赤に染まっている。その血も体から発せられた熱で乾き、赤黒く染まっていく。
『撲殺者』
その名に相応しい戦いをしていると自分でも思う。
事実、迫る軍勢を俺は、枝を折るかのように容易くなぎ倒している。
しかし、俺は正直焦っていた。
倒した兵士の数は百は超えているだろう。
ダダの魔術で呼び出した水龍を合わせれば、間違いなくその倍以上だ。
ちなみに難民としてきた傭兵の数は三十から四十。どう考えても計算が合わない。
答えは簡単だ。視界の先には、先に俺が作った肉片。それが液状化し、集まり再び人型へと形を変える。
ご丁寧に、その手には、無骨な剣が握られている。
「……っ!またかよ!」
そう言いながら、再び俺は剣を振るう。
こいつらは俺が殺した『自称・難民』達だ。
殺して放置した遺体が、溶けて再び形作ったのがこの人型達だ。
これが何か解らない。何しろ、こいつら喋りもしないで無心に武器を振るうだけの存在だ。
解っているのはこいつらが敵だということのみ。
だから、こうやって蹴散らし続けているが……
キリがない。一回は、火の中に突っ込ませてみた。ダダの作り出した水龍に食わせても見たが結果は同じ。
いくら倒そうが、再び人型へと構成される『ソレ』を倒すすべは今のところはない。
出来るのは、こうして目に映る人型をぶち壊すのみ。
しかし、これは時間稼ぎにしか過ぎないと自分でも解っている。
何しろこの正体不明の人型は無尽蔵に現れる。
倒しても倒しても倒しても、次から次へと現れる。
「くっ!」
焦る理由はほかにもある。
屋敷を見る。二階建てだったその建物は、現在、一階建てへと形を変えている。
爆発音と共に、二階部分が吹き飛んだのだ。
二階には、お嬢が仕込んだ罠があったはずだ。しかし、それは、爆発を起こすようなものではない。
爆発が起きるとすれば、それは難民共が何かしたということ。
この人型共も、爆発が起きてしばらくしてから現れた。つまりは屋敷の変化とこれはリンクしているとみて間違いない。
しかし、屋敷に向かおうにもこの人型達が邪魔して身動きが取れない。
しかも、ダダの元には村人達がいるのだ。
俺がこの場を離れれば、この人型達は、ダダと彼が守る村人達の元に殺到するに違いない。
問題点はまだある。
ジクジクと痛む膝。戦いで高揚しているので今は気にならないが、結構ひどいことになっていそうだ。
痛みなら、そんなに気にならない。しかし、痛みは我慢できてもいずれ限界は訪れる。
動けなくなったら、俺もこいつらの仲間入り間違いなしだ。
全くもって問題だらけ、このままだとじり貧になることが目に見えている。
(こうなったら……)
俺は、もう片方の手で斧を持つ。
二刀流。これで殲滅速度二倍。体力の消費も二倍だ。
「どりゃあああああああああああああ!!!」
二つの武器を振るい、吹き飛ばされる人型達。
その出来た一瞬の空白の時間。その隙に、俺は駆け出す。
目指すはダダ達のいる倉庫のほう。
ゾンビのようにダダの水龍を目指す人型を切り捨てながら走る。
「ダダ!」
「ダンガガ様?」
俺の叫びに、リザードマンの執事が答える。
「村人達を連れて逃げろ!このままじゃじり貧だ!」
「……シカシ、ソレデスト、お嬢サマガ」
リザードマンの表情は解りにくいがその顔には苦悶が浮かんでいるのが解る。
それと同時に、疲労もだ。
「その水龍作り続けるのも限界だろうがっ!村人がいた状態じゃあ、俺も屋敷に向かえない! 隣の町へ迎え!あそこには、そこそこ民兵が揃っているはずだ!救援を呼ぶんだ!」
夜間、村から出るのは村人達にとっては自殺行為だ。
疲れ切った村人など、魔物のいい餌にしか過ぎない。だから護衛がいる。疲れ切っていたとしてもダダならその役目を全うできるだろう。
「ソレナラ、私ガ、屋敷ニ向カイマス。ダンガガ様は村人ヲ……」
「俺の膝じゃ隣町まで持たねぇ!それにダダ。そんなど派手な水龍を作り続けてるってことは、そろそろ限界だろうがっ!」
適材適所だ。この手の大魔術は消費が異様に激しいものだ。
短期決戦型、それがダダのスタイル。それに対し、俺は長期間の戦いを得意とする戦士型だ。
もし俺が村人を避難させて、ダダが屋敷に向かったとしよう。
普段ならいざ知らず、ただでさえガラスの膝をさらに痛めつけたこの状態。俺は一晩中歩くなど不可能に近いし、ダダが屋敷に向かおうとしても、この人型をさばきながら屋敷に向かう頃には魔力を切らしてしまうだろう。
ダダも、そのことを理解しているのだろう。
一瞬の躊躇の後……
「ワカリマシタ」
とだけ、答える。
「皆様、コレカラ隣ノ町へ向カイマス。朝マデ歩くコトニナリマスノデ水ノ準備ヲ!急イデ!」
「お、おう!」
「で、でも領主様を見捨てて逃げるなんて……」
「馬鹿野郎!俺らがいても邪魔になるだけだ!ダダさんのいうことを聞け!早く!」
ダダの言葉に村人達が一斉に動き出す。
そのことに、ほっとしながら、俺は屋敷に向かって足を向ける。
その先には、あの人型達。ぞろぞろとこちらめがけて歩いてくる。
「……って、おい。また数増えてねぇか」
全く、泣きたくなる。
「大丈夫デスカ」
「何とかするしかねぇだろう」
ため息交じりに俺は答える。
「この場を引き受けたんだ。終わったら酒でも奢ってくれや」
「ソウデスナ。デハ、スベテガ終ワッタラ、旦那様秘蔵ワインをゴ用意シマショウ」
「おいおい、そんなの持ちだしたら怒られるんじゃねぇか」
「ナニ、コノ騒ギデ、ワレテシマッタト報告スレバイイダケノコト」
そう言って、ダダがウィンクしてくる。
「はははは、そうだな。んじゃ、そう簡単には死ねないなぁ!!」
そう言って、俺は斧を振り上げ。人型達の群れに突進した。
◇◆◇◆
切り裂いて、切り裂いて、切り裂いて。
俺は只管前へ、前へと進む。
よくよく見れば、人型達は揃いも揃って平凡顔。
同じような平凡な顔が揃っているのを見るのは正直気持ちが悪い。
見たそばから、順番に吹き飛ばしていく。
腕が痺れる。呼吸も上がって、脚はズキズキと痛みを訴えてくる。
それでも一歩、また一歩と足を進める。それにつれて人型の数は増してくる。
それはまるで壁のよう。前後左右に囲うように、俺の周りに纏わりつく人型のせいで、俺が本当に屋敷にむかえているのかもわかりやしねぇ。
手に持った斧が折れる。倒れた人型の持った武器を拾い上げようとするが、しかしその剣は根元からぽっきりと折れている。
だから、俺は唱える。
「オーバーヒート!!」
体の中から、エネルギーが吸い上げられていくのを感じる。
それを無視し、拳を振るう。ごちゃり、と肉と骨が砕ける音と共に、人型の頭が吹き飛ばされる。
オーバーヒート。俺らオークが持つ固有魔術。体のエネルギーを消費して身体能力を上げるという接近戦に特化した魔術だ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
雄たけびをあげて、俺は前へと進む。
なんの捻りもない体当たり。しかし、やわっちい人型に魔術で強化された俺を止める術はない。
吹き飛ばし、踏み砕き。前へ前へ。足は止めない。止めるということは、その段階でお陀仏するのが確定だ。
息が上がる。体は奴らの攻撃で傷だらけ。
しかし、まだ、体は動く。負った傷もそんなに酷くない。
坂を上がり、屋敷が見えてくる。
ゴールはすぐそばだ。このまま最後まで……
そう思った矢先。
がくん、と膝から力が抜け落ちる。
「なっ!」
迫る地面。次の瞬間、顔面に強い衝撃が走る。
「がっは……」
やばい、やばいやばいやばい!
起き上がろうとするが、脚に力が入らない。
戦闘の高揚が落ち着くにつれ、足の痛みを訴えだす。
控えめにいって、滅茶苦茶痛い。
昔の戦いの傷で、壊れてしまった足。それなのに昔と同じように暴れればどうなるか?結果は解り切っていた。
それなのに、昔と同じような戦法を取った上での自爆。
「たっく、成長しねぇな。俺も……」
そう言いながらも、放った拳が人型の顔面を貫く。
崩れる人型。その手に持っていたのは……
「お、ラッキー」
その人型の持っていた槍を杖にして起き上がる。
「こいよ。順番に殺してやっからよ」
痛みを堪え、獰猛な笑みを浮かべ、そして押し寄せる人型の波。
薙いで、貫き、素手で打ち砕き、 貫き、貫き、貫き、貫いて……そして、折れる槍。
「あ……」
腕を失った人型の歯が、俺の首を捕らえる。
ずきりと走る痛み。それと同時に、思考にノイズが走る。
「はっ、ざまぁねぇな」
がくん、と体中から力が抜ける。
走馬燈のように駆け巡る様々な光景。
そこに映るのは、愛する家族と、そして……
「すま、ねぇ。お嬢」
無意識に呟いた言葉。その言葉を最後に俺の意識は闇の中へと落ちていった。




