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投降

※時間を少し遡ります。

今回はかなり短めです。


 ーー時間を少し遡る。


『おい!起きろ!起きるんだ!』


 遠くから、声が聞こえた。


『体内残留魔素、危険値を脱しましたのを確認』


 どこか焦ったような老人の声と、機械的な声。


 全く、うるさい。こちとら、体中は痛いわ。頭ガンガンするわでもう動きたくないっつーの。

 今日一日、大変だったんだ。馬鹿な親戚のせいで、馬鹿な貴族が攻めてきて、何度も何度も戦って、ああ、マジで限界、終わったんなら少しぐらい寝かせ……


 ちょっとまて?

 終わった? 本当に終わったのか?


『だから、まだ終わっていないぞ。さっさと起きろ』

 

 そうだ、俺はあの馬鹿貴族をぶん殴って、それで……

 

 その後の記憶がない。

 ちくしょう。俺は何をやっている。

 体を動かそうとするが、びくりとも動かない。


『警告:体内魔素の残量から戦闘出来る状況ではありません。このまま休まれることをオススメします』


 馬鹿が!ここで動かなくていつ動く。

 動け、動け、動け!


「動けっつーてんだよ!」

 その叫びに、俺の目は見開く。


 まず、視界に入るのは、ボロボロの屋敷の天井。

 

 体中が痛い。恐らく魔術の反動だろう。

 ギシギシ、と悲鳴を上げる体。指一本動かすだけでも、痛みで意識が吹っ飛びそうだ。

 たっく、ちっとくらい外の魔力を吸い込んだからといってこの始末。だが、こうして寝っ転がっている訳にはいかない。


「ぐっ!」


 奥歯を噛み締め、起き上がる。

 ゆらゆらと揺れる視界。そこに写るのは、ボンボンとへらへらと笑う見覚えのない男。

 その平凡そうな顔をみた瞬間、背筋がゾクッとする。

 格が違う。平凡そうな顔。この眼で見ても魔力の総量はそこのボンボンと変わらないくらい。

 しかし、足の付け根から指の先まで、見ているだけでブルブルと震えてくる。

 奴に逆らうな、と本能が訴えかけてくる。


『狼狽えるな。しかし、やばそうな相手だな』

 

 冷静を装っているがじじいの声も若干の緊張が混じっているのが解る。

(で、勝てる相手か)

『勝てる、と言いたいがまず無理だな。傷だらけの体、その上数段格上の相手だ。奴に対抗できるのは、そうだな。ここらではお前の母上と父上ぐらいじゃないか?』

(……マジかよ)


 あの両親、かなりおバカに感じることはあるが戦闘能力はかなり高い。

 認めたくないが俺がどう足掻こうが手も足もでないレベルだ。

 つまりは目の前の男はそれと同じ土俵に立っているということ。万全な状態でも勝てない相手。しかも……


「くり、す様」


 か細い声が聞こえる。

 目の前の男に意識を外さずゆっくりと声のする方向に目を向ける。

 そこにいるのはサーシャ。肌色の何かによって壁に貼り付けられている。

「おにげ、ください」

 なんとか絞り出した言葉に、俺は小さく嘆息する。

 命は別状はない、か。

 俺への人質としての価値を見出しているのだろう。


「ちっ、万事休す、か」

 貼っていた気を抜いて地面にヘたり込む。


「おやおやぁ。理解が早くて助かります」

 平凡顔が俺に近づいてくる。

 村を歩けば数人は似たような顔を出くわしそうな絵に書いたかのような平凡な顔。

 しかし、体中から発せられるその気配。そして、その悍ましいほどに感じる死臭。


 吐き出したくなる。しかし、そうする訳にはいかず、ただ奴の顔を睨みつける。


「一応確認しますが……抵抗、しないんですかぁ?」

「人質を取られていたらどうしようもないだろう」

 ……もっとも機会があれば出し抜くつもりはあるが。

 相手もそれを理解しているのだろう。うんうん、と頷きながらも、その目には油断も隙もない。

「投降する。かわりにサーシャと村人の安全は保証して欲しい」

 その言葉に、男の頬はにやり、と釣り上がる。

「解りましたぁ。かわりにあなたの両親、帝国に下るよう説得してもらえませんかねぇ。なーに、悪いようにはしませんから」


 その言葉に、俺は何ら抵抗することもできず……

「わかった」

 歯を食いしばって、その提案を受け入れるのであった。


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