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百貌の暗躍2

500pt達成しました。皆様ありがとうございます。

「勇者オリビア様と、ウェストロード男爵ですねぇ。お迎えに参りました」

 ゆらり、ゆらりとアドガストが近づいてくる。

「ふむ、お主がアドガストか」

 名前は聞いている。帝国といえば名門貴族によって構成された五帝騎が有名だが、しかしその影で暗躍する者が存在する。

 『百貌』アドガスト・ウェンルート。

 出生は不明。突如として帝国の暗部に根付いた魔術師。

 五帝騎が表の帝国の象徴だとしたら、『百貌』は、帝国の裏の象徴ともいえる存在。

 彼の情報は殆ど存在しない。ただ、その百貌というその名だけがごく一部の者が知るのみである。

 しかも彼の名前を知る一部の者でさえ、存在に関しては疑問視までされている。

 

 つまり、彼はそれだけ優秀だということ。

 影は、日陰の存在でなくてはならない。異名やその武勇が広まるということは、それだけ能力に疑問視さざる得なくなる。


「あらあらあら、何故、私の名前を知っているのでしょうか?情報管理はしっかりしているはずなんですけどねぇ」

 つまりは、その存在を知る者を殺してきた、ということなのだろう。

 

「さあて、のう」

 軽くわらわが手を振る。

 それを合図に、旦那様が宝剣を握る。

 すると、目の前の男の首から血が……噴出さなかった。


「くっ」

 代わりに旦那様の腕からダラダラと溢れ出す血液。

 旦那が心配になって、声を上げそうになるがぐっと堪え、旦那の目を見る。

 旦那様は軽く頷く。そこまで大きなダメージではないようで、ほっとする。

「ああ、ウェストロード男爵様~。あなたの魔術は重々理解していますゆえ、対策を練らせて貰いました~」

 旦那様の腕から血が止まらない。魔術を返された反動だ。


 ウェストロードは暗黒騎士と呼ばれている。

 先陣を切り、見えない刃で敵を裂き、傷を追えば、その傷さえも刃に変えて襲いかかる狂気の騎士。

 その魔術の本質は『呪い』。

 相手の魂と自分の魂を繋ぎ、自身の体から失った代償分のダメージを送り込むというもの。

 血液だろうが髪だろうが自身の体の一部なら何でも代償に出来るがこの魔術には欠点がある。

 繋がった互いの魂は無防備である為、相手に防がれるとそのダメージは自分に跳ね返ってくるのだ。


 ゆえに、跳ね返されれば、代償が大きくなればなるほど、跳ね返ってくるダメージもでかくなる。

 しかも、さらにたちが悪いことに魂そのものを犯す魔術ゆえに、代償としてしようした傷と帰って来たダメージは自然治癒でなおすしかないのだ。

 ゆえに、この手の魔術師は帰って来たダメージを軽減するすべを幾つか用意するのが常識だ。

 自身の魔力を練りこんだ身代わりの人形を用意するなどが一般的だろう。

 しかし、自分がそれをできるということは相手もそれが可能だということ。

 無論、その対策にはコストが掛かるため、雑兵一人一人に対策をするわけにはいかないが、帝国でも上位の魔術師であればそれくらい用意してくるのは予想すべきだった。

 対策を練られた『呪い』の使い手は弱い。無論、その対策をぶち壊す程の強力な呪いを打ち込めば問題ないが失敗すれば即死だ。


「ああ、もう話の最中で攻撃するなんて無粋な方ですねぇー。奥さん、そんな旦那さんより私のほうが紳士的ですよ~。どうです今晩。あつーい夜を過ごしませんか」

「ふん、抜かせ」

 旦那様を傷つけられた怒りをぶつけんと、手を上げる。

 術式やら、詠唱やら普段はじっくり練るやるが今はまどろっこしい。

 力任せの強引さで魔術を組み上げ、男の足元に巨大な手が生まれる。

 アドガストの体をギシギシと締め上げる。


「おー、さすが勇者オリビア様。なかなかの威力ですなぁ」

 そう言って、男の輪郭が崩れる。液状化したその肉は、腕の隙間から溢れ落ち、そして再度人型へと形を変える。

「ああ、そこの騎士団の方々動かないでくださいねぇ。あなた方は『あちら側』の方々と聞いています。私としてもぉ、あちら側とは喧嘩する気はありませんゆえ。けど、手を出したらしりませんよぉ」

 剣を構えようとした騎士たちをアドがストは牽制し、そしてわらわ達に笑いかけてくる。


「どうです?その才能我が帝国で活かしてみるのは?あなた方の娘も我が勧誘に乗ってくれるようでして。ウェストロード公爵との確執は知っています。我が帝国で再スタートをするのは如何でしょう?それ相応の地位を用意できますよぉ?」

 ああ、確かにいい話だ。

 ウェストロード公爵がいる限り我が男爵家は日の目を見ることはないじゃろう。

 公爵からしたら、自分より魔術の才能があり、しかも勇者を嫁にした旦那様は自分の地位を脅かす存在となっている。

 公爵は政治においては才能がある。でなければ、我が旦那様が公爵の地位になっていた……かもしれぬ。

 断言できないのはこの旦那様のせいじゃ。こう、女みたいな顔をしておきながら旦那様。学者肌ではあるが同時にどうしようもないほど脳筋じゃからなぁ。


 しかし、まぁ。

 我らが帝国につくことはありえないじゃろう。

 何しろ、帝国の人類至上主義的な思想はまず受け入れぬし。それに……


「主のような魔王が巣食うような国に行きとうないからのう」

 その言葉にもアドガストは反応しない。へらへらと笑みを浮かべている。

「何を言っておられるのでしょうかねぇ~私が魔王?しがない魔術師でしかないのですが?」

「ふん、ごまかせると思っておるのか? 臭うのじゃよ。瘴気というべきかの?上手く誤魔化しているがどう考えてもその気配は通常の魔族の者ではないのう?」

 勇者は魔王の気配を察する能力がある。通常、自身が倒すべき魔王の気配を探れる程度のものだが、しかしそれでもこうも長い年月生きていれば自分以外の魔王の気配はなんとなく分かるようになる。

「さてさて、どこの魔王殿かの?『暴食』はわらわがまだ勇者である以上どこかで生きておるだろう」

 あやつは何度も戦ったことがあるがゆえ、まずあいつではなかろう。


「『怠惰』はまず倒されることはないじゃろうし。『嫉妬』は……去年頃となりの大陸で『観測』されたのう」

 『怠惰』は、あやつは大人しい……というかその名からして本当に怠け者の魔王じゃ。一度も代替わりをしたことがない南の海に生息する巨大な亀で、その背には、人間や亜人、魔族が暮らしている。倒すこと自体大変じゃし、まずあやつを倒すなどそこに住む住民も周辺諸国もまず認めんじゃろ。

 『嫉妬』は、討伐に失敗した魔王の成れ果て。一定の周期で発生する災いじゃ。意思もなく、ただ被害を拡大させるそれは、その性質ゆえ討伐が困難で一種の天災とされておる。

 ……となると残りは3つ。


「直接的な戦闘能力は低そうじゃから『憤怒』ではないの。だからといって『傲慢』や『色欲』でも無さそうじゃし。そうじゃの。『強欲』そのあたりかのう?」

 その言葉にアドガストの表情から笑みが消える。代わりに苛立ちが浮かび上がる。

「……あ~、失敗しましたねぇ。これだったら私が姿を現すべきではなかった」

 イライラしたように、アドガストが頭をかきむしる。

 つまりは図星ということ。隠す必要が無くなったのか。体中から魔族の象徴ともいえる瘴気が桁外れの量で溢れ出す。


「オリビア!!」

「わかっておる!!」

 旦那様と並び駆け出す。


 アドガストの体が膨れ上がる。

 それは肉で出来た球体。そこから触手が生えたその姿は、この世のモノとは思えぬ醜悪さだ。

 肉の触手が四方に向かって手を伸ばす。影の遺体を取り込み、そしてこの地の主たるミミズさえも取り込まんとする。

「仕方ありません。あなた方には私の体の一部になってもらいますよぉ!」

 肉の触手がわらわたち目掛けて打ち出される。しかし、その肉の触手も光り輝く宝剣によって、切り落とされる。


「な、にぃ!」

 自慢の触手だったのだろう。確かにあの主たるミミズを貫いたその威力は目を張るものがある。

 しかし、こちらにあるのは伝説の魔剣ティルヴィングだ。

 決して錆びず、どのようなモノさえ切り裂き、そして狙いを絶対に外さないとされる魔剣。

 持ち主に三度の勝利をもたらすが、しかし同時に破滅を呼び寄せるとされるという曰くつきの剣だ。


 旦那様は幾度となくこの剣を振るっている。

 しかし、破滅をもたらされたことはない。

 何故なら旦那様は『呪い』の専門家。リスクはないわけではないが魔剣を使いこなすことが出来るのだ。

 ゆえにウェストロード最強。魔術が強いからだけではない。この魔剣を使いこなす知識の量が、彼を勇者たるわらわを差し置いて最強を名乗ることが出来るのじゃ。


「なんですか、その剣は!抵抗をやめなさい!こちらにはあなた方の娘がいるのですよぉ!私の分体はあちらにもいる!それでも抵抗するつもりですかぁ!」

 魔剣の異様な空気を察したのかアドガストが悲鳴に似た叫び声を上げる。

「ふん、手を出せるのか。あの子も勇者だというのに?」

「な、に?」

 その言葉に、アドガストが凍りつく。

 迷いが彼の中に生まれたのが解る。状況を考えれば娘もろとも殺すべきじゃろう。

 しかし、勇者という名前の持つ価値に、アドガストの中に迷いが生まれたようじゃ。

 一瞬のこと。じゃが、わらわには十分すぎる隙じゃ。


「旦那様!」

「はっ!」

 旦那様が剣を走らせる。

 同時にわらわの道を塞ぐ触手をすべて切り落とす。

「その程度、いくらでも!」

 にょきにょき、と生えてくるアドガストの触手。

 しかし……

「チェックメイトじゃ」

 わらわはアドガストの懐に入り込み、ナイフを突き立てる。

「ナイフごときで、私が、が、がああああああああああああああああああああああああ!!」

 突如上がるアドガストの悲鳴。その肉人形の表面が大きく波打ち始める。

 その様子に、わらわの頬が釣り上がる。


 ふむ、予想通りじゃの

 あやつはナイフの傷で叫んでいるのではない。

「やはりの!主、我と似た系統の魔術を使いおる!」

 つまりは奴の魔力に干渉し操作することができるということ。

 そして、このアドガストの分体は、屋敷にもいるということ。そいつのこいつが繋がっているなら、つまり……

「お、りびあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「まとめて退治させてもらうぞ!肉人形!!」

 魔力と術式を最大出力で流し込む。

 術式の構成も糞もない。意味の無い術式をただわらわの中のすべての魔力をもって奴の術式と魔力を洗い流すのみ。

「ががが、びあああ、あお、おりりりりぃいぃぃぃびああああああああ」

 最後の抵抗とも言える触手の攻撃も旦那様に撃ち落とされ、

「お、のれ。おぼえて、いろ」

 その言葉を最後に、アドガストの体はゆっくりと溶け出すのであった。

※実のところ、魔王だからといって人類に害をなすとは限りません。

まぁ、ほとんどは人類と対立しますが……


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