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百貌の暗躍 (アルガスト、オリビア視点)

前半と後半で視点が違います。


 ~アルガスト視点~



 ウェストロード男爵領の戦いも終盤に近づいてきている。


 村では、オークとリザードマンが暴れ、殆ど手駒は全滅。村人達は、村の外へと逃げようと準備中。

 根の森で『勇者』を足止めするはずの影達も次第に数を減らしつつある。

 

「さーてさて、どうしますかねぇ」

 私ことアドガストは小さく呟く。

 屋敷での男爵令嬢を捉えるということに関しては成功したが、しかし彼女の潜在能力は予想以上。

 手勢を連れたアルフレッドが戦闘不能の一歩手前まで追い詰められる事態になるとは誰が予想できるだろうか?

 

 アルフレッドは自信家だ。自分の実力以上に自分を評価している傾向がある。

 だが、それでも帝銃騎の息子であり、帝国でも上位に位置する魔術師だ。

 それが、まだ八歳の少女に負ける。そんなことを予想が出来る人間がいるなら是非とも教えてもらいたい。


 帝国の影を統括する百貌として、

 帝国の情報を一手に握る身としては、あのお嬢様の情報を察知出来なかったことにひどくプライドが傷つけられる。


 もっとも、それ以外は想定通りだ。

 C級如きの冒険者の群れが元A級の冒険者たるダンガガに勝てるはずも無いし

 根の森に張った影達も、勇者と名門ウェストロード家最強と名高い男を相手に勝てると思っていない。


 そもそも、この作戦は失敗することが前提だった。

 帝国が銃に傾倒し始め、そして銃とその固有魔術との相性の良さから銃の専門家としてその地位を上げているグランイット家。

 その影響力を削ぐ為に失敗させるのが今回の作戦の本当の姿だ。


 王国の勇者を勧誘することが失敗し、帝国が暗躍していることが王国に明らかになればグランイット家であっても無傷ではすまない。

 それを狙っての今回の作戦であり、今回は監視だけで出てくるつもりは一切なかったのだが……


「彼女は欲しいですねぇ」


 相手を一撃で行動不能にする力。

 相手の固有魔術を制御する力。

 そして、猛毒であるはずの外部の魔力を吸い込んでもなお行動出来るその力。


 グランイット家の力を削ぐとかそういった政治的なことはどうでもいい。

 そんなことを無しに欲しくなる

 私にとって未知な力であり、なんとしても手に入れたい。


 政治的に考えれば彼女を諦めて、グランイット家にダメージを与えるほうを優先すべきだ。

 しかし、彼女を手に入れろという欲求がグツグツと湧き上がる。

 浅ましい程の強欲。しかし、私は否定するつもりはない。

 私がここまでのし上がってこれたのもこの強欲ゆえなのだから……


「では、本気で介入するとしますかねぇ~」




 ■◇■◇■


(オリビア視点)


 なんというか、状況が混沌としてきたのう。

 穴から生えた巨大なミミズ。

 沼に体を突っ込んで足をバタバタしている騎士殿。

 で、あいも変わらず抵抗している帝国の影達。


 わらわは鎧に近づき、その足を掴む。

「引き上げてやるからちいっと足を動かさないでくれ」

 その声が届いたのか騎士様は足を動かすのをやめる。

 そのまま、足を掴み、引き上げようとするが……重い。

「あー、旦那様」

「はいはい」

 旦那様が目の鎧の足を掴み、沈んだ鎧を引き上げる。

 やはり、接近型は身体能力系の魔術が上手いのう。わらわはどうもこういった魔術が苦手じゃ。


 騎士様が姿を現す。

 泥で汚れているが、その鎧は見事なこと。

 白を基準とした鎧に、盾と剣。重量がありそうなフルプレートの鎧。

 顔を隠すタイプの兜をかぶっているので、その姿は見ることが出来ないが、恐らく中身はマッチョな男なのだろう。

 しかし、この鎧何か違和感を感じる。

 触った時の感触が金属のそれではない。どこか温かみのあるその感触は木々のよう。

 しかし、強度はあるようで、地面を激突した割にダメージは一切見られない。


「……助かった」

 

 鎧に反響しくもった声がする。

 そのせいか本来の性別は解らない。

「ふむ、主は何者じゃ?」

「……何者と言われると困る。もしかしてあなたはオリビア様?」

 でかい図体の割にどこか幼い喋り方。そのギャップに違和感を強める。

「……そうじゃが」

「ナナシに関係するものといったら解る?」

 その言葉に、くっと頬が釣り上がる。旦那が訝しげにこちらを見るがそれに説明している暇はない。

「懐かしい名前じゃの。ああ、そうか。ならば主らは敵ではないの。歓迎したいのは山々じゃが今はちとトラブルがあっての。しばらく隠れていることをおすすめする」

「でも、私達は、七部族連合のところに向かわないと」

「残念じゃが、この森から一番近い我がウェストロード男爵領は現在、帝国の攻撃をあっている。反対側も帝国に落とされておる。あー、帝国と言っても解らんだろうが……」

「……人類至上主義を掲げる大陸南部の小国」

「ほう、そこまで知っているか。じゃが、その情報はちと古い。現在は大陸を飲み込もうと覇を唱える巨大な国へと変わりおった」

「情報提供感謝。みんなと合流してからどうするか決める」

 みんな?とそう疑問が浮かぶと同時に旦那が横から口を挟む。

「オリビア、誰か来る」

「影かの?」

「いや、気配の消す様子がない。足音からして鎧で武装しているみたい」

 ならば、影ではないだろう。彼らが動くと音が響く鎧など着るはずがない。


「姉貴大丈夫か!」

 そして、姿を現したのは、一人のエルフと、彼が率いていると見れる鎧を来た男達。

 何というか、一発で高貴な方々とその御一行というのが解る一団だ。

 

 先頭のエルフは、旅人が好むような安いマントと布の服。

 背後の男達も、革の鎧に、一般的なロングソードを腰に指している。

 

 が、似合っていない。

 使い古した感じが一切ない旅人の装備をしたそのエルフは、エルフを見慣れたわらわでも目が惹かれる程の美形で、その動作もどこか品がある。

 騎士達も、動きが良すぎる。恐らく、旅人とその護衛という設定なのだろうが、見るものが見れば正規の訓練を積んだ騎士と一発で解るその姿。


 恐らく、余り領土から出たことが無いのだろう。

 このまま、七部族連合に向かうまでトラブルに巻き込まれること間違いなしだ。


「みんな大丈夫?」

「ああ、つーか姉貴こそ大丈夫かよ!あんな化物に挑むなんて無謀としかいいようがないぜ!」

「けどみんな逃げられた結果オーライ」


 ああ、と穴から姿を現しているミミズを見上げる。

 噂には聞いていたがあれがここの主なのだろう。彼女が飛んできた方向からしてあの穴。

 穴の底には、知る者は殆どいないが『ゲート』というのが存在する。

 彼女たちはゲートを通ってここに現れ、そしてあのミミズと遭遇。この騎士がミミズを引き寄せ、その間にエルフ達は穴から脱出したと。

 欲しい戦力じゃ。しかし……


「ふむ、主らに構っている暇はない。わらわ達には時間がないのでな」

 ナナシに関係する奴らじゃ。巻き込むわけにはいくまい。

 そう考えていると……


『いやいやー、そう言わずにゆっくりしていってくださいよー』


 声がした。それは先ほど旦那様が殺した遺体から……

 死体が溶け、捻じれ、血の匂いを撒き散らしながら一つの形を作り出す。



 それは人型。

 どこにでもいる農民と同じで、しかし無個性であるがゆえ違和感を感じるその姿。


「何者じゃ?」

 旦那様がわらわの前に立つ。

 その最大限の警戒をする旦那様に自分の直感が正しかったと理解する。

(こいつはちと、やばいのう)


「アドガスト・フェンルート。まぁ、どこにでもいる帝国の魔術師ですよ~」

 へらへらと笑うその姿に、何処か悍ましさを感じるのであった。

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