時間稼ぎ
状況は最悪だ。
前方には、自分の実力の及ばないような強敵に
後方には傷づいたサーシャ。しかも、その傷のせいで身動きが取れずにいる。
(なら……どうする?)
『……戦うのを選ぶというなら、選択は一つだろう?』
だな。つまり、やるべきは……
(先手必勝!!)
手に持った銃を構える。
AK47 。これが世界中で使われている理由は三つ。
整備性の良さ、コストの安さ。そして、威力が高いということだ。
フルオートだとどうしても命中精度が落ちるがこの距離なら問題ない。
弾丸をばら撒く。
ヘッドショットは無理だ。だから、狙うは胴。
アルフレッドが、驚いたような表情を浮かべるが、その銃弾は、見えない壁に阻まれ四方へと飛び散る。
(なっ!)
『この程度で倒せるはずないだろう! 止まるな、動け!』
爺の叱咤に押され、俺は前へ出ようとする。
銃は無理。なら、魔術で対抗するのみ。
『魔術の視認。及び操作』
それが、俺の魔術の特性だ。
その名前の通り、俺は相手の魔力の流れを視覚し、そして操作をすることが出来る。
この能力は、一見、地味のようで魔術戦においては大きなアドバンテージになる。
魔力の流れが解れば、どのような魔術を使おうとしているか理解できるし、放つタイミングも予測できる。
また、相手の魔力が見えるがゆえ、干渉し攻撃の進行方向の変更や解除も可能。相手が魔術を使う際に漏れ出した魔力を利用し相手の魔術をコピーして使うことが出来る。
そして、最大限のメリットは、相手の体内の魔力を操作することで、様々な現象を起こすことが出来る。
体のマヒや、魔術の使用を制限。また、空気に触れた魔力が魔石化することを利用し体内の魔力を外に出すことで体の一部を魔石化させることさえ可能だ。
かなり強力な力といえるが、欠点も多い。
一つは、一度に『視る』ことが出来る魔術の系統は一つだけ。
そして、もう一つは、どのような魔術か認識出来ないとその魔術を『視る』ことが出来ないということだ。
(風を扱う能力? 違う。力場を操る能力? 違う。なんだよこいつはっ!)
その眼で奴の魔術を読み取ろうとするが、どれもヒットしない。ならば……
『……一分稼げ』
(あ?)
『一分だ。口答えは無しだ。何としても一分は稼げ』
「ちっ!わーたよ。やりゃいいんだろ?やれば!」
ならば、すべきは……
相手に触れて直接魔力を操作するしかない。
基本、相手の魔力の色がはっきりしてからすべき戦法であるが、しかし、効果は半減するが相手の属性が解らなくても相手の体内の魔力を操ることは出来る。
だから、前へ。アルフレッドに食らいつこうと前へと踏み出す。
ダッ!と地面を蹴る。一歩、二歩。加速する。
しかし、三歩目で、何故か俺の体は、後ろへと吹き飛ばされる。
「くっ」
浮遊感が体を包む。視界の先、動けない俺に向けてアルフレッドが銃を向ける。
「来て! 『ホウライ』」
銃の爆発音とともに、サーシャの声が響き渡る。
その言葉と共に、ふわふわな球体が俺を包むように現れる。
サーシャの魔術特性は『召喚』。
その魔術が発動し、このふわふわな球体が現世に姿を現す。
『呼ばれた~』『怖い人いるー』『逃げる?逃げる?』『けど、命令は絶対~』
サーシャはこの精霊しか呼び出させない。ふわふわと漂うことしか能がないそれ。しかし、そんな精霊でも集まれば、目くらまし程度にはなる。
ホウライに包まれた俺の真横に銃弾が通過する。
『きゃー』『わー』『やーらーれーたー』
緊張感のない声で消えていく精霊達。
そして、僅かな間の空中での散歩が終わる。
地面と俺との間に、ホウライが滑り込む。ホウライがクッションになりダメージを吸収。
俺は、アルフレッドがいるらしき方向に向けて銃を乱射。
「サーシャ!後ろに退避。あと、役に立ちそうなもの集めて」
「しかしっ!」
「いいからいうこと聞け。サーシャ、お前には接近戦は無理だ」
「っ!はい!」
彼女は碌に動くことは出来ない。通常なら俺がいったことを実行することはまず不可能だ。
しかし、彼女にはホウライがいる。
俺の言葉の意図を読み取ったのか、ふわふわと浮いているホウライが、彼女を担ぎ上げ、廊下の奥へと連れていく。
そして、残されるのはアルフレッドと俺の二人だけ。
「ようやく二人きりですね」
俺は、嫌悪感を堪え、彼に向けて微笑みかける。
「そうですね。折角、二人っきりなのです。あの亜人に話すように砕けた話し方をしてくれてもいいのでは?」
「あなたとはそこまで親しくないですし。これからも親しくなるつもりはありません」
「どうしてですか?あれは亜人ですよ?あのような劣等種と仲良くなれて、人間同士の私達が何故、仲良くなれないのですか?」
その答えに呆れてものが言えなくなる。しかし、この会話に乗るしかない。
じじいとの約束である一分までまだ時間がある。
くだらないと思いつつも、私は彼の会話に乗る。
「なんで亜人を劣等種と呼ぶのです? 彼らと接していたらそんなことは思わないはずですよ」
その言葉にアルフレッドは黙り込む。
あれ?この程度の言葉で、揺らいでしまう?
帝国は、優れた人類種こそ大陸を支配すべきだ、と主張している。
そこの教育にどっぷり漬かった貴族様にこんなことを言って改心するとは思わないが……
しかし、言葉が届くなら好都合。
俺は、口を開こうとし……
「おかしい」
と、アルフレッドはいう。
「この話はどう話そうが平行線になる。それはお互い解っているはずです。なのに、何故あなたはこの話題を引き延ばそうとしている?」
そして、ああ、成程。とアルフレッドが納得したようにいう。
「時間稼ぎか」
ちっ、ばれた。どうする? 戦うにしても、さっさと無力化されておしまいだ。
おいじじい。さっさとその武器とやらを寄越しやがれ。
しかし、俺の声もむなしく、アルフレッドが一歩、また一歩と俺に近づいてくる。
「何を待っているのです?両親ですか?いやいや、彼らが帰ってくるにしてもあと数時間はかかる。そこじゃないですよね?教えてくださいよ?教えてくれないなら……」
にたり、と笑みを浮かべ手に持ったAK47を俺に向ける。
「体に直接聞くまでです」
アルフレッドが、トリガーに手がかかり、そして……
『待たせたな。ちょっと早いが誕生日プレゼントだ』
じじいの言葉と共に、頭の奥にずん、とした重みが生まれ、そして周囲の動きがスローモーションになる。
ばん、と放たれた銃弾が、空気を切り裂いて飛んでくる。
通常であれば、避けることのできない必殺の一撃。しかし、今の俺にはそれをこの目で捉えることが出来る。
捉えることが出来るなら避けるのも簡単だ。その射線上から外れればいいだけのこと。
クソ重たい体を動かし、その銃弾が体の真横を通り過ぎて……
そして、時間は元の速さを取り戻す。
急に加速する時間。銃弾は、そのまま目にも止まらぬ速度で壁へと突き刺さる。
『仮想精霊『ミーミル』。ガキには勿体ない代物だが。受け取れ、この状況を切り抜けるカギはここにある』
能力その2発動。




