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クリスの魔術



 俺達の考えた作戦はシンプルなものだった。

 敵を分断させ、片方を罠にはめ、片方を残りの戦力で殲滅するというもの。

 分断させる方法は簡単だ。マネキンのゴーレムに俺の恰好をさせて罠のあるほうへ逃げさせる。

 俺は、庭師のゴーレムにシャンデリアの落とさせ、そのどさくさに紛れ、サーシャと合流し、残りの戦力を叩くというものだ。


 半分はうまくいった。

 貴族のボンボンは、マネキンを俺と疑うことなく階段を登っていき、ガルドのおっさんは、サーシャに食いついた。

 問題なのは、シャンデリアのトラップからの立ち直りが思ったより早かったこと。


 俺に出来たのは、彼らに見つかる前に柱に隠れる、それが精一杯だった。

 さすがはB級冒険者。俺も甘く見すぎていた。

 なら、どうする? 武器は無い。サーシャを合流することを前提としていたから俺の武器は、あのバリゲードの向こうだ。

 

 俺は、今隠れている柱を見て、そこに立てかけてあったモップを見て、そして、その上を見上げる。

「よし……」

 俺は、その柱に握り、そっと覚悟を決める。


◇■◇■


「あああああああああ!」


 そして、俺は登った柱から飛び降りる。

 手に持ったのは、棍……に見せかけたモップを折って作った即席棍。


 吹雪が吹き荒れている。

 ただの吹雪ではない。ここに突っ込めば、刃のように鋭い氷の粒が俺を切り裂くだろう。

 さすが、B級冒険者の魔術。攻撃性と防御性を兼ね備えた強力な技だ。


 しかし


 俺は、その吹雪を『視る』


 目を見開き、そこに映るのは、膨大な魔力と、それを構成する術式。

 魔術師は、自分と同じ系統の魔術しか、視ることは出来ない。


 海を泳ぐ魚は水の流れを読んで泳ぐことが出来る。

 空を飛ぶ鳥は風の流れを読んで飛ぶことが出来る。


 双方とも似た能力を有しながらも、魚は空を飛ぶことは出来ないし、鳥は海を泳ぐことは出来ない。

 魔術師も同じだ。同じ魔術を扱う者でありながら、それぞれが魚と鳥と同じくらいにかけ離れている。

 火を使う魔術師は、同じ火を使う魔術師の魔力の流れ、術式の構成を読むことが出来るが、氷を使う魔術師の魔力の流れも、術式も読むことは出来ない。

 だが、俺は、こうして氷の魔術の魔力の流れを見て、術式を分析することが出来る。

 俺は、モップをその嵐に向けて振りかぶる。


 本来ならズタズタになるはずの即席棍は、その吹雪を綺麗に切り裂く。


「なん、で!てめぇがここにいる!」

 はは、驚いてやんの。だが、驚くのはまだ早い。

 奴の剣と棍がぶつかり合う。所詮は即席棍。綺麗に真っ二つになる。

 その刃は、そのまま俺の胸に、吸い込まれ、そして、ガキンと音を立てる。


 奴の刃を防いだのは、氷の塊。術式でガチガチに強化しているので、そこらの鉄の塊より硬い。

 衝撃が届くより早く、俺は驚愕に顔をゆがませるガルドの顔面を蹴り飛ばし反対へ飛ぶ。


「てめぇ!」

 もう一人のモブ傭兵が、炎を呼ぶ出し、俺に投げつける。

 ああ、シンプルな系統で助かる。その炎に視界を向ける。その炎の魔力の流れは見えない。

 しかし、認識出来る魔力の周波数を変える。すると、炎の周りに渦巻く魔力とその中心にある術式が浮かび上がってくる。

「はっ!」

 分解する時間は無い。だから、術式を軽く弄る。それだけで、炎の塊は、方向を変え壁にぶつかり炎上する。

「なっ!」

 あまりの出来事に、硬直するモブ。ああ、こいつはガルドより弱い。

 術式の構成も魔力の量も、予想外のことがあった時からの立ち直りも、かなり遅い。

 一瞬のことであっただろう。しかし、その一瞬で十分。

 地面に降りた俺は、そのままモブめがけて走る。ガルドが阻止しようと駆け出す。

 俺は、炎上する壁めがけて手を伸ばす。

 分解。そして、再構成。ついでに少しアレンジ。

 

 ガルドの目の前に突如として炎の壁が現れる。

 オリジナルより数段火力は少ないが、足止めには十分。

「くっ!汎用魔術か!」

 汎用魔術? 馬鹿か。確かに自分の魔力の色を消し、様々な現象を起こせる汎用魔術なら氷使いの人間でも火を起こせるだろう。

 だが、自分の魔力の色を消すには、特殊な術式に通す必要がある。魔力のロスもかなりのものだし、発動させるの時間がかかる。

 少なくとも、こんなに早く発動させることが出来る代物ではない。

 全くの見当違い。だが、勘違いを訂正させるほど俺は甘くない。奴が、炎と戯れている間に俺はモブ傭兵に向かって駆ける。


 モブ傭兵が、手に持った武器を構えるが、正直、遅い。

 ダンガガが相手だったらすでに数回切られていただろう。


 俺は半分になった棍を投げつける。

 それを剣で弾くが、そこに生まれるのは一瞬の隙。

 だが、それに入り込めると思う程、俺は自分の腕を過信している訳ではない。


(なら、その隙を広げるまで!)


 残った炎の魔力を彼に投げつける。

 当たっても、火傷を負う程度の火の玉。

 しかし、モブ傭兵は、俺がただの汎用魔術で炎の壁を起こした訳ではないと気付いている。


 そこに生まれた警戒心。

「くぅ!」

 人は未知のものを恐れる。ゆえに、普段であれば無視するような火の玉にも警戒心が生まれ……

「くそっ!」

 その火の玉を剣で切り付ける。

 そして、余計な動作に広がったその隙。大きく出来た脇辺りの空白地点に、俺は拳をねじ込む。


「がぁ!」


 魔力操作。とりあえず、このモブ傭兵の体内の魔力を滅茶苦茶に弄る!

 所詮は、子供の一撃。大したダメージにならないだろう。しかし、体内の魔力を乱されたモブ傭兵は、痙攣しながら、そのまま地面に崩れ落ちる。


「……てめぇ!やりやがったな!」


 ガルドの魔力が膨れ上がる。

 氷の吹雪がガルドの剣に纏わりつき、巨大な剣を作り上げる。

 これがB級冒険者の本気か。その無駄のない術式に、そこに込められた魔力の多さに、背筋に冷たいものが走る。

 勝てない。本能で悟る。今の俺には、正面からこの魔術を破る術はない。しかし……


「正面から、受けて立つ必要はないですけど、ね」


 そういうと共に、ガルドは、地面へと崩れ落ちる。


 後頭部に生えているのは矢。

 サーシャの矢がガルドの頭を貫いたのだ。


「魔術を過信しすぎだ。ばーか」



 誰もいないのを確認し、本来の口調で呟く。

 

 そうして、すでに動かないガルドの持つAK47 を奪う。

 二階から、ばたん、と誰かの倒れる音を聞き、ほっと一息つく。

 どうやら、貴族様は無事トラップに引っかかったようだ。


「残るは……村に残る残党のみ」


 俺は、サーシャを連れて外へと向かうのだった。


主人公の能力その1発動

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