王国貴族と帝国貴族
前半、クリス視点。後半、別の人の視点となります。
そして、舞台は幕を開ける。
「お待ちしておりました。略奪者の皆様」
目の前に展開しているのは、傭兵と亡国の兵士達。
その先頭に立つのは、煌びやかな服装をした優男。
記憶に無い男だ。しかし、その胸に輝く金色の鷲の紋章には見覚えがある。
それは確か……
「帝国の貴族様ですか。このような僻地にどのような御用でしょうか?」
何故か、その男は俺を見て、ぼんやりとし、そしてハッとして姿勢を整える。
「突然の訪問申し訳ございません。私は、アルフレッド・グランイット。帝国貴族の末席に名を連ねる者です。あなた様をお迎えに参りました」
アルフレッド・グランイット。確か、帝国が誇る五帝騎の一人がグランイットを名乗っていたはず。
その表情に察したのか、優男は、俺に柔和な笑みを返してくる。
「ええ、アーデン・グランイットは私の父です」
柔和で気品に溢れた笑み。しかし、その視線は俺の胸やらスカートの隅から見える足に固定されている。
……うん、冗談抜きに吐きたくなる。だが、それを表には出さないで、笑みを深める。
「お引き取りを、あなたを招いた覚えはありません。ちゃんと正規のルートでアポイントを取ってくださいませ」
「あははは、手厳しい。ですが、その点は心配ご無用。許可はとってあります」
「へぇ、それはどなた?」
その俺に言葉に、アルフレッドは頬を歪め、そして言う。
「ウェストロード公爵」
ウェストロード公爵。俺にとって叔父にあたる人物で、ハイロード王国の西側の諸貴族のまとめ役である貴族。
「叔父は、国を裏切ったと?」
声が震える。この村の惨状を作り出しているのが、俺の親戚であるとしたら……
(あんにゃろう!何考えてやがる!)
あったことのない叔父に対して、怒りがこみ上げる。
「いやいや、ウェストロード公爵は、汚らしい亜人から国を守るため、我々と手を組んだのです。帝国は何も侵略したい訳ではない。この大地は正統な後継者たる人類種こそが支配すべきであり、帝国は人類の剣であり盾でありたいだけ。ウェストロード公爵がこの国の王になった暁には、帝国の庇護下で発展し続ければいいのです」
つまりは、ウェストロード伯爵を傀儡とし、ハイロード王国を裏から操りたい、と
「その両国にとっての平和の架け橋となるのが、君だ。クリス=H=ウェストロード。我が妻として、帝国とハイロード王国を繋げる絆として私達は夫婦となり、共に繁栄の道を歩もうではありませんか!」
俺の手を取り、跪く男に、俺は……
「寝言は寝て言え。このロリコンやろうが」
それだけ言って、バックステップ。
男はきょとんとした表情を浮かべ、そして笑みを深める。
ああ、自分に自信があるのだろう。自分程度の小娘が何やろうと食い破る自信がある、と。
だが、その傲慢さは命取りになる。
「アルフレッド様!」
兵士の一人が声を上げるが、もう遅い。
俺が足をついた直後、アルフレッドの頭上に巨大なシャンデリアが降ってきた。
◆□◆□◆
(アルフレッド視点)
私ことアルフレッド・グランイットは、帝国では公爵位にある魔法の名家に生を受けた。
名家といっても、オリビアのような一人で一軍と戦えるような強さもなく、他の名家と比べてもそこそこのレベルでしかなかった。
帝国が小国の地位に甘んじていたのは、突出した魔術の名家が無かったことだと歴代グランイット当主は、そのことを恥じ続けていた。
だから、父がこの任務の話を聞いた時、真っ先に飛びつき、私を派遣した。
オリビアの娘を娶ることで、帝国に勇者を縛り付け、そしてグランイット家は勇者の血を引く娘を取り入れることで、魔術師としての格を上げる。
人類種の剣を謳う帝国にとって勇者が属しているというのは大きなアドバンテージだ。
何しろ、勇者は人類にとっての希望。勇者の称号を持つ者が属しているということはそれだけで帝国の行為に対し正統性を謳うことが出来るのだ。
しかし、オリビアが所属しているハイロード王国は、天然の要塞だ。
歴代、軍事に優れた『傲慢』の魔王が拠点としていただけあって、その立地条件は攻める側からすると最悪といってもいい。
四方は強い魔獣が生息するダンジョンと高い山に囲まれた土地。建国以来外部からの侵略を拒み続けていただけあり、銃という新兵器で武装し、急激な勢いで勢力を広げる帝国軍を持ってしても、攻めるのは難しい、と判断せざる得なかった。
しかし、このような立地に位置しながら、この国が小国であり続けたのには理由がある。
それは、この国の制度の問題だ。
ハイロード王国には、王家というものが存在しない。
ウェストロード、イーストロード、サウスロード、ノースロードの四大貴族の中から、年に一度の選挙によって王が認定される形となっている。
ゆえに、どこの家が王になるかによって、国の方針が大きく変わる。
コロコロ王が変わるため、方針が安定せず、優柔不断な決断ばかりし、大陸の大きな流れから取り残されつつあるのだ。
ウェストロード公爵はこのような不安定なシステムを打破し、ウェストロード公爵家が唯一の王位継承権を持つ家になるべく帝国に取引を持ち掛けたのだ。
ウェストロード公爵の行動が野心によるものなのか、愛国心によるものなのか解らない。
正直、自分としてはどうでもいい。勇者を自国に取り入れ、グランイット家の次世代の礎になれるのであれば、ウェストロード公爵が何を考えていようが、オリビアの娘がどんな人物であろうが、関係のない話だった。そう、彼女の姿を見るまでは……
彼女の姿を見た時、魂が震えた。
美しい、シンプルにそう思った。
白い肌と金髪碧眼というこの国では見慣れたその色も、彼女が纏うとそれは全くの別物だ。
雪のように白い肌。金をそのまま糸にしたかのような美しい髪。月夜に照らされたその姿はまるで妖精のよう。
職人の作り出した人形のような無機質なその整った顔も、その強い意志を感じる瞳の輝きによって生の力に彩られている。
「帝国の貴族様ですか。このような僻地にどのような御用でしょうか?」
そう言われて、ハッとする。彼女に見とれていて何の反応も出来なかった自分を恥じる。
「突然の訪問申し訳ございません。私は、アルフレッド・グランイット。帝国貴族の末席に名を連ねる者です。あなた様をお迎えに参りました」
帝国貴族として持ち直した私は、彼女に投降するよう告げる。
断らないだろう。そう踏んでいた。最初、傭兵達に投降せず上役を連れてくるように言ったのは、交渉し投降後の自身の扱いを保証させる為だろう、そう思っていた。
「お引き取りを、あなたを招いた覚えはありません。ちゃんと正規のルートでアポイントを取ってくださいませ」
しかし、帰ってきたのは拒絶。その言葉に、そしてそのこちらを見る燃えるような瞳に体が震える。
断れば命がなくなるかもしれない状況下。それでも彼女は自身の誇りを曲げずに拒否してきたのだ。
この震えは恐怖ではない。歓喜だ。ああ、こんな女は他にはいない。
美しく、そして強い。グランイット家の貴族としてではなく、アルフレッド・グランイットとして彼女を欲しがっている。
それは生まれて初めての感情。
彼女の信念を砕き、自分色に染め上げることが出来たら、どんなに幸せだろうか。
その力強い瞳が、怯え、媚びるような眼に変わった時のことを想像し、悶えそうになる。
そんな、恋というにはどこか屈折した感情。しかし、アルフレッドは、それを表に出さずに彼女に微笑みかける。
「あははは、手厳しい。ですが、その点は心配ご無用。許可はとってあります」
「へぇ、それはどなた?」
だから、私は口にする。彼女の心を折るために……
「ウェストロード公爵」
ウェストロード公爵。彼女にとって叔父にあたる人物で、ハイロード王国の西側の諸貴族のまとめ役である貴族。
いくら、彼女がハイロード王国の貴族として矜持を持とうとも、彼女の親族がハイロード王国を裏切ったとしたら、彼女はこの国で貴族をやっていくことは出来ない。
「叔父は、国を裏切ったと?」
その震える声に、ぞくぞくする。
ああ、もっとだ。もっとその声を聞かせてほしい。
「いやいや、ウェストロード公爵は、汚らしい亜人から国を守るため、我々と手を組んだのです。帝国は何も侵略したい訳ではない。この大地は正統な後継者たる人類種こそが支配すべきであり、帝国は人類の剣であり盾でありたいだけ。ウェストロード公爵がこの国の王になった暁には、帝国の庇護下で発展し続ければいいのです」
だから、屈しろ。ハイロード王国という国ごと、私の前に膝を折るがいい。
「その両国にとっての平和の架け橋となるのが、君だ。クリス=H=ウェストロード。我が妻として、帝国とハイロード王国を繋げる絆として私達は夫婦となり、共に繁栄の道を歩もうではありませんか!」
内心と裏腹、私は彼女の前に膝をつき、彼女の手にキスをする。
膝をついているのは私。しかし、これを受け入れた段階で、彼女のハイロード王国の貴族としての矜持は折れる。
震える体を抑えつつ、彼女の言葉に耳を傾け、そして……
「寝言は寝て言え。このロリコンやろうが」
そして、帰ってきたのはそんな言葉。
一瞬の思考停止。しかし、思考が動き出すと共に、頬が勝手に吊り上がる。
ああ、そうだ。そう簡単に屈服されたら面白くない。
いいだろう。何を用意しようが、正面から食い破って、屈服させてや……
「アルフレッド様!」
はっと上を見る。そこに広がるのは視界を覆う巨大なシャンデリア。
「くっ!リフレクト!!」
魔術を発動させようとすると同時に、衝撃が走る。
シャンデリアの一部が俺の頭にあたると共に魔術が発動。
シャンデリアが爆散し、その破片が降り注ぐ。
顔を、腕を、体中を切り裂くガラスの破片。
キラキラと輝く視界の中に、階段をかけ上げっていく姿が映し出される。
「アルフレッド様!」
兵士の一人が近づこうとし、通路の先から飛来した矢に当たり、そのまま崩れ落ちる。
この役立たず。ああ、なんでこいつらはこんなに役に立たず、俺はこんな痛い目に合わないといけないんだ?
そう考えていると、再び風を切る音が耳に届く。
「ふん」
魔術を発動。自分の眉間に刺さるはずだった矢は見えない壁にあたったかのように弾かれる。
「あ、アルフレッド様」
「お前らはこの通路の先の狙撃手を何とかしろ」
「アルフレッド様は……」
ああ、本当、こいつら屑だ。なんでこんな当たり前のことを聞くんだろうか?
痛いんだよ。こんな痛いのは初めてだ。頭が痛い、腕が痛い。足が痛い、もう、こうして話している間もズキズキ痛みを訴えている。
だからさ。伝えないといけないでしょ?
こんなに私は痛かったんだって、彼女の罠を食い破って、正面から伝えに行かないと……
彼女もすべての仕掛けを壊されれば、私に屈服するだろうし、将来の夫に歯向かい怪我をさせたことも反省させることが出来るだろう。
何、将来の妻だ。そんな酷いことはしないさ。
ただ、まぁ……
「腕の一本くらいは、貰ってもいいよね?」
泣き叫ぶ彼女の姿を想像し、私の分身がいきり立っているのを感じていた。
急いで書いたので後で修正するかもしれません。




