17話 貴族として
「ク……様、クリ、様!クリス様!」
「っ!」
はっと、目を覚ます。起き上がると同時に腹部に痛みが走る。
そこは見慣れた天蓋。泣きそうな顔で俺を覗き込んでいるのはサーシャだ。
どうやら、ここは自分の部屋らしい。
どうしてここに?思考を巡らすが、腹部の痛みと共にすべてを思い出す。
人を殺したこと。銃で撃たれたこと。
そして、夢の中であの男と出会ったこと。
「良かった!クリス様!痛いところはありませんか?」
「は、らがいてぇ」
「腹部を貫かれたんですから当たり前です」
巻かれた包帯の上から傷跡を触る。
「っ!」
電気が走るような痛み。しかし、それでほっとする。
急所は外している。加え、銃弾は綺麗に体を貫いているようだ。
銃弾が体内に残ると危険だ。体内で変形し、体内を無茶苦茶に切り裂いてしまうからだ。
「くっ!」
無理矢理体を起す。まだ、ジンジンとした痛みがあるが動けないほどではない。
机の上においてあるガラスのビンを見る。青く光るそれはファンタジーの産物。ポーションだ。
飲むなり、傷口なりに振り掛けるとその場で傷がふさがっていくという代物だ。
「クリス様。ポーションです。飲んでください」
そういってポーションの入った瓶を渡してくる。装飾に凝ったその瓶を見る限り高級品なのだろう。
俺は、クリスからそのポーションを受け取り、口を付ける。苦い。
腹部にじわじわと熱が伝わり、痛みが和らいでくる。
恐らく、傷がふさがりつつあるのだろう。痛くはあるが動くのに支障はなさそうだ。
基本、傷口に降りかけるほうが効果的とされるが、あれは大人の兵士でも気を失う程痛いらしい。
まあ、恐らく気を失っている間にぶっ掛けられたのだろう。出なければ、銃で腹を貫かれてこの程度で済むはずが無い。
「おー、どうやら無事のようですな」
そういって部屋に入って来たのは、見慣れた豚面のダンガガだ。
「ダンガガ。助かった。あんたが来なかったらあのままお陀仏だった」
「おやおや? いつもの似合わない令嬢言葉はどうしました」
女として育てられて八年。令嬢っぽい喋り方にもなれてきた所だ。しかし、こうも痛みが酷いとそんな余裕もありやしない。
「うっせ。ところで状況はどうなっている?」
「あー、正直、あんまよろしくない。村の一部は焼かれ数人見せしめに殺されてやがる。残った村人は広場に集められて、周囲にゃ難民共が見張っている。ただの難民相手だったら俺でも何とかなったかもしれないがあの見たことの無い黒い武器ありゃ一体なんですかね?あれを食らえば俺でもタダじゃすまないですわ」
怒りに目の前が真っ赤になるが抑える。
この状況を打破するには、どうすればいい?
銃の恐ろしさは俺も十分承知だ。
人の眼には捉えられない速度で飛来し、それでいて指先程度の大きさしかない弾丸。
幾ら、魔術で身体能力を高めてもあれを避けるのはまず不可能だ。
あれで武装した難民数十人。それに対し、自由に動けるのは、俺とジイ、サーシャにダンガガのみ。
全員の戦闘力を冷静に分析する。
サーシャは、最近訓練によりそれなりに戦えるのは知っている。しかし、彼女の魔術は戦闘向きではない。
ジイは、不明。しかし、その物腰から戦いを得手とする者の独特の空気がある。
恐らくこの面子の中で一番強いのはダンガガだ。本人は口にしないが恐らく冒険者としてはA級に近い戦闘力があると思われる。
しかし、あちらのトップはB級の冒険者だ。しかも銃で武装している十人近くの難民達がいる。
通常であれば積んでいる状況だ。しかし……
『お前のプライドは、領民の命より大事なことなのか』
そのクソ野郎の言葉を思い出す。
「……っ」
唇を強く噛む。しかし、ずっとこうしている訳にはいかない。
「なあ、サーシャ」
サーシャに何かいおうとしたその時……
ごんごん、と遠くから扉を叩く音が響き渡る。
窓から外を見るとそこには、銃で武装した難民達が集まっている。
「……クリス様」
緊張した面持ちでサーシャが俺の顔を見る。
「……俺が出よう」
「駄目です! クリス様に何かあったら」
「ああ、それは俺も同意ですわ。裏口も抑えられていますが、数が少ない。俺が裏口を突破しますので、そのまま逃げたほうが……」
「そうすれば、領民達に被害が出る。なあ、サーシャ。俺は誰だ?」
その言葉に、サーシャがクッと言い詰まり、そして震える声で口を開く。
「ウェストロード男爵令嬢、です」
その言葉に俺は笑顔を浮かべる。
「ああ、そうだ。領民達を守る義務がある。何、大丈夫」
安心させるように彼女に笑いかけ、そして最後に頬を吊り上げる。
「……何の策も無いわけじゃない」
◇■◇■
俺は部屋を出て、玄関の前に立つ。
これからすることは上手くいくだろうか。
何から何まで運任せの作戦。
しかし、俺とあの夢であったクソ野郎と考えた作戦の中でこれが最善だと結論つけた。
扉を開く。
そこにいるのは、筋肉質の冒険者風の男。彼の後ろには、ウェルウォード王国の兵士らしい男達が並んでいる。
その手にはAK47。正面から戦えば一気に蜂の巣だ。
「おー、お嬢様。迎えに来てやったぜ」
恐らく、この中では一番強いのだろう。回りの奴らと比べると纏う空気が違う。
しかし、ガルドはいない。なら、付け入る隙はある。
圧倒的な優位な位置で、まるで鼠をいたぶる猫のように、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる彼に、俺は笑みで返す。
満面の笑みで、しかし令嬢らしく気品の溢れる動作で告げてやった。
「お引取りくださいませ」




