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16話 矜持と義務と


『……ふむ、私の記憶に当てられたとはいえ、激昂し正面から突撃か。戦力が劣っているのに正面から戦うとは愚かとしかいいようがない』


 声が、した。

 そこは暗い空間。上も下も無いその場所にあるのは、テーブルと椅子。そして、宙に浮いている柱時計。


 懐かしい風景だ。

 転生する際に、女神と出会った場所。しかし、テーブルに座るのは女神ではなく、一人の男。

 年齢でいうと40代といった所か。上半身裸で、椅子に座るその姿はとても痛々しい。

 顔の右半分は包帯に覆われ、その包帯から僅かにはみ出した変色した肌は恐らく火傷によるものだろう。

 体のあちらこちらに爪で切り裂かれた跡や、焼け焦げた跡。どれも傷はふさがっているが、その傷はとても深く彼の戦歴の長さを感じさせる。


『久しぶりだな。クリス』

 そういって、左手を上げるが、肘より先はすでに無い。

 その鍛えられた体と傷跡を見れば、民間人にはとても見えない。しかし、彼がまた戦えるとは到底思えない。

 戦いどころか、生きていることさえ不思議なその姿。

 しかし、残された左目は、とても深く、そして鋭く。まだ戦いを諦めた者の表情には見えない。


『どうした? この傷の跡にびっくりしたか?』

 そう、男が苦笑する。

 その姿に、言葉が出ない。いや、言葉にすることが出来ない。


「あんた、一体、誰だよ?」

 男が、ずるっとバランスを崩す。

『おま、そういうことはあっさり口にするなよ。ていうか、会ってるじゃねぇか。俺達。ほら、お前が一歳の頃に!』

 あ、いけね。そのまま口にしちまった。けど、一歳の頃か。

 記憶に無いぞ。つーか、7年前に会ってた人物っつーとかなり限られているはずなんだが……


 そこで、ふと、記憶が蘇る。

 それは、魔法を発動させようとして失敗した時の記憶。

 夢の中で偉そうなことをほざいた男の声。

 確かあの時『では、近いうちまた会おう』とだけ告げられて消えたはずだが……


「近いうちにって、あれからもう7年立っているぞ」

『お前が安穏と7年も過ごしているからだ。本来だったら、もっと早く俺に接触してくると思ったんだよ。本当にお前は■■■なのか?ああ、くそ。禁則事項に引っかかりやがった。あの性悪女。こんな細かい言葉にまで規制かけやがって』

 苛々とした様子で、男が吼える。

 ……何というか、最初の夢の時とはイメージが違うな。

 最初の頃は完全に上から目線って感じで嫌な奴としか感じなかったが、こうも余裕の無い姿を見せられるとそのイメージも見事に崩れ落ちる。

 それにどこか他人って感じがしないんだよな。親戚のおっさんと会っているような感覚。いや、前世も今世も親戚という輩と会ったことは無いけれども……


「……おっさん、何か大変そうだな」

『おっさん言うな。ああ、あの女のせいで碌にお前に情報を伝えることが出来やしない。だが、お前はいつかあの女と出会う。いや、出会わなければならない。何故なら■■■■■は、■■――くそ、やはり駄目か』

 おっさんは舌打ちし、まぁ、いい。と小さく呟く。

『今、大事なのは、この状況を切り抜けることだ。オリビアとアルド。あの二人は素晴らしい

戦士であると同時に優れた魔術師だ。あの程度の奴らの罠など勝手に食い破るだろう。しかし、問題はこっちだ。こちらには半人前の子供に、半人前のダークエルフ。そして、戦いから遠のいたオークとリザードマンのみ。それに対して、相手は現役の戦士達十人程。しかも一人はそれなりの経験を積んだ冒険者だ。普通にやってたら勝てやしない』

 リーザードマン? ああ、じいのことか。確かにじいの身のこなしはそこらの農民達とは違う。なんらかの訓練をつんでいるのは解るんだが、得手とする武器は見たこと無いんだよなぁ。じいの部屋。なんも置いてないし。


『しかし、オリビアとアルドには致命的な弱点がある。それがお前と村人達だ。お前が逃げ出せばお荷物の片方は無くなって奴らも動きやすくなるだろうが……やつらもそれは認識しているはず。今頃、屋敷に向けて連絡をよこしている筈だ。逃げれば、村人を見せしめに殺す。とかな』

 いきなり大人数で攻めれば、通常の令嬢なら逃げ出そうとするだろう。それを抑えるための一手というわけか。

 なら、すべきことは一つ。


「……奴らを倒し、村人を解放する」

 

『どうやって?』

 俺の決意におっさんが冷ややかな声を浴びせる。

「どう……って、村に突っ込んであいつらを倒せば」

『どうせお前のことだ。猪のように突っ込んで、奴らをぶっ潰すつもりだろう?無駄だ。戦力でいえばあっちのほうが上だ。正面から突っ込んでも掴まって終わり……』

「やってみなきゃわからねぇだろ!」

『ああ、もしかしたら、なんらかの奇跡が重なって上手く行くかもしれないな。だが、その先には人質になった村人達。彼らを楯にされてちゃんと戦えるか?お前』

 その言葉に俺は、黙り込む。

『……方法はある。勝算は低いが、お前の頑張り次第では何とかなるかもしれん』

「なんだ?その方法は……」

『勝てないなら罠を張れ、勝てると高をくくっている奴を同じフィールドに引きずり込むんだ』

「あ? 罠を張るだ? んな卑怯な真似できるはずないだろうがっ!」

 激昂する俺に、おっさんは冷めた目でこちらを見ている。

 ぞくっと背筋に冷たいのが走る。見るからにボロボロのおっさんだが、やろうと思えば赤子を捻るかのように俺を殺すだろう。

 だが、俺は引かない。ここで引くという選択肢は、俺には存在しない。

『引かないか。プライドが高いことは結構。だがな。お前のプライドは、領民の命より大事なことなのか?』

 その言葉にハッとする。

『奴らの計画が上手くいけば、間違いなく村人は殺される。帝国の痕跡を残すわけにはいかないからな。オリビアが帝国に行ったら帝国はこう宣言するだろう。ハイロード王国は自身の王位を脅かす勇者オリビアを亡き者にしようと村ごと焼き払った、と。ゆえに我々は勇者オリビアを保護したと」

 実際、そうなるだろう。ハイロード王国は勇者の作った国。ゆえに、現国王からすれば、勇者オリビアは邪魔な存在なのだろう。帝国からすれば、喉から手が出るほど欲しい勇者を手に入れ、ハイロード王国を攻め入る理由を作る事が出来る。まさに帝国にとって都合のいい状況なのだ。


「……俺はどうすればいい」

 心が痛む。正々堂々、例え自身がどうなろうとそれは貫き通そうと思ってた。

 だが、守るべきは自身の矜持ではなく、領民達だ。それが、貴族である俺の責務。

 握り締めた拳から血が垂れる。夢の中だというのにリアルに痛みが伝わってくる。

 その表情を見て、おっさんが満足げに、しかしどこか悲しげに笑う。

『ああ、その策を教えてやる。お前を導くのが俺の存在意義なのだからな』




男の娘成分が不足しています(汗

この騒動が終わったら、男の娘成分を補充しようと思います(汗

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