15話 初めての戦闘
難民の暴動。その言葉の意味に呆然としつつ、俺こと、クリスが絞りだしたのはたった一言。
「あ? 一体なんで?」
難民に高圧的に接したとかはまずない。
食料とか医療に関してはかなり気を使うように指示は出している。
つーか、この村の住民は、外敵にさらされる機会が少ないせいか、かなりお人よしだ。
んな指示しなくても勝手に、村人達は善意で出来ることはやってくれるはずだ。
そんな疑問に答えるように、サーシャは答える。
「……彼らは帝国の新兵器を持っていました。一個や二個じゃありません。殆どの兵士が持っている様子です」
難民の持っていた武器は長剣や槍や斧。その程度だ。銃は確かにあったが、ガルドの持っていた一丁のみだ。
つまりは……
「くそっ!罠か」
彼らがここに付いた時は銃などという上等なものは持っていなかった。
しかし、元から反乱を起すつもりならやりようはある。ようはここに来る前に森に隠しておけばいい。
難民のメンバーを見ると戦闘職ばかりだ。こんな平和な村の農民を出し抜くなど容易だろう。
「そう考えるのは妥当かと……」
幾ら帝国でも、まさか最新鋭の武器を大量に鹵獲されるようなミスはしないはずだ。
普通に考えれば、バックにいるのは帝国がいると考えるのが普通だ。
しかし……
「狙いは? こんなとこ帝国も手に入れても仕方ないだろう」
何しろウェストロード男爵領は僻地と言っても過言ではない。
確かに国境沿いにあり、防衛に使われる兵士の数の少なさ侵略する側としては魅力的な土地とも言えよう。
しかしながら、達の悪い死霊が跋扈し、足場が悪いガウス沼地は天然の要塞だ。
この地を拠点に進軍できれば、かなり楽にハイロード王国を蹂躙できるだろうが、こんな場所に軍隊を送り込むことは現実的に考えてもまず不可能だ。
「……オリビア様が目当てではないでしょうか?勇者の称号は、帝国としても魅力的でしょう。勇者とは人類の希望であり、正義の象徴です。帝国は、歴史が浅く、象徴ともいえるのが、皇帝と帝国の剣と称される帝国の剣と称される5人の騎士達のみ。歴史の浅い帝国が勇者を取り込み権威を示したいと思うのは当然でしょう?」
「……くそっ。おかんを捕まえる為に難民を使いやがったか。で、その勇者様を捕まえるだけでは意味がない。何せ、まさか人類の希望を地下牢に捕らえりゃ、逆効果にしかなりやしねぇ。となると、おかんを下す為に何をするか」
「……ええ、クリス様を捕らえ、それを餌にするのかと。恐らく、掴まればクリス様は帝国貴族と無理矢理婚約させられるでしょうね」
「……俺は男と結婚するつもりはねぇぞ」
男と一緒になるなんて考えたくも無いぞ。
「で? どうする。言っておくが領民をほったらかして逃げるつもりはねぇぞ」
何だかんだで、ここの領民には世話になっている。高貴なる義務とか興味はないが、ここで逃げるのは男が廃る。
「ええ、クリス様ならそう仰ると思いました。幸い奥様が用意しているゴーレムが外の倉にあるはずです」
恐らく、ゴーレムが数体集まっても、効果は薄いだろう。
ゴーレムの本来の使い手は、オリビアだ。剣を握ったことの無い人間に剣を持たせても有効に使うことが出来ないように、ゴーレムの運用の仕方が素人の俺達では本来の力を発揮させることは出来ない。
しかし、それでもこの状況を打破できる数少ない武器には違いない。
俺達は、その武器を手に入れる為、屋敷の扉を開き、そして見た。
暗闇に浮かび上がる真っ赤な炎。
俺は、サーシャが何か言う前に、屋敷を飛び出す。
いつも眺めていたから解る。そこには村があり、そこに行けば村人達が笑顔で迎えてくれて、それで……
――脳裏に広がるのは、巻き上がる炎。森に囲まれた閑静な住宅地。逃げ纏う人達をその爪で切り裂く狼人達。
こことは違う風景。クリスとしても前世である一成としても見たことのないその記憶。
しかし、その記憶が、俺の胸を強く締め付ける。
「俺は……また、故郷を救うことが出来ないのかっ」
「え? クリス様?」
違う。まだ、間に合う。
あの時とは、状況が違うっ!
祈るような気持ちと共に、俺は周囲の魔力を集め、体内に取り込む。
体中が、軋みを上げる。背筋に焼けた鉄棒を突っ込んだかのような痛みだ。
だが、問題ない。どれくらい持つかは、『かつての俺は知っている』
「フィジカルブーストッ!」
体内に魔力が駆け回る。それと共に、地面を蹴る。
「クリス様っ!!」
サーシャの声を背に、俺は駆ける。
風を、切る。
一歩、一歩。地面を地面を蹴るごとに、ゴッ、と大地が抉れ、更に速度を増していく。
暴れまわりそうな魔力を制御し、汚染された魔力を無色に変換。無色の魔力を体内に循環させ只管、前へ前へと向ける。
後ろへ過ぎ去って行く並木道を超え、そして村へと入る。
入り口を守るのは、二人の男。俺は更に速度を上げる。
「なんだっ!てめ……」
冒険者風の男が何か言い切るより早く、俺は飛び上がる。
その髭で覆われた頭に飛び乗り、そのまま捻る。
ゴキリ
鈍い音と共に、その男の体がバランスを崩す。
男が倒れるより早く、俺はその男から飛び降り腰に挿したナイフを抜き取る。
「アルベド! てめぇ!」
冒険者だけあって、奇襲に対する立ち直りも早い。早いが、少々遅い。
俺は、無防備である喉に向けてナイフを投げる。冒険者が避けようと体を捻るが、間に合わずその動脈を切り裂く。
ドサ、と音を立てて、倒れる冒険者。
そのまま、二人は動かない。
(殺した、か)
これが俺にとっての最初の殺人。
しかし、初めての人殺しだというのに、心はとても落ち着いている。
飛び出して来た時は頭に血が上っていて何も考えていなかったが明らかに自分は異常だ。
まるで、何十、何百と繰り返し、慣れ親しんでいるかのような感覚。
前世では暴力に慣れていた。何人も病院送りにしてきたが、しかし人を殺したのは今回が初めてだ。
なのに、何も感じていない。その感じていないことに動揺する。
いや、それだけではない。
二人を殺した技。明らかに人を殺す為の技術だ。どう考えても自分の知っている喧嘩の技ではない。
それに俺は魔術を使っていた。まだ、ろくに発動させることの出来なかった魔術を、だ。
その魔術を使いこなし、自分の限界を知っていた。
ただの不良では知りえない殺しの技。ただの不良では知りえない銃の知識。そして、今世の俺がまだ知りえない魔術の知識。
前世でも知らない銃の知識のこともある。俺は一体……
「何者なんだ?」
『ぼさっとするな!まだ終わっていない!』
脳裏に声が響く。
はっと振り向く。そこには首から血を流し、空ろな表情の冒険者が俺に銃を向けている。
「死……ね」
ばん、と乾いた音と共に、衝撃が走る。
「お嬢っ!」
それと共に、一人のオークが飛び出す。
見慣れた姿に俺は、ほっとする。
「ダン、ガガ」
信頼するそのオークが、冒険者にトドメを挿したのを見届け、俺はゆっくりと意識を手放した。




