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14話 ガウス沼地と潜む罠(オリビア視点)

「ふむ、久しぶりのデートがこれとは、泣きたくなるのう」

 わらわこと、オリビア・H・ウェストロードは一人独白する。

 目の前に広がるのは、どこまでも広がる沼地だ。

 それ以外で目に付くのは、遠くに生えている一本の枯れた木。そして、ふわふわと浮いている鬼火の姿。

 全く変化のない風景に、あくびが出てしまう。


「こらこら、オリビア。あくびなどはしたない」

「わらわと主しかここにはおらんじゃろ? なら、わらわがどうしようが勝手じゃろ」

「もう少し気を張ってくれると嬉しいんだけど」

「『ありのままの君が好きだ』と言ってくれた主はどこに行ってしまったのじゃろうか?ああ、わらわはとても悲しい」

 と涙を拭うポーズをとる。それを見て旦那様は苦笑めいた顔を浮かべている。


 まぁ、本来であれば、ここはそんな呑気なやり取りが出来る場所ではない。

 まともに歩けば、膝まで埋まってしまうような泥沼だけでも厄介なのに、いたるところに底なし沼があるときた。

 それを見分けるのは至難の技だ。

 くわえ、ここは死霊の巣。気を抜けば仲間に引きずりこもうとする死霊共が牙を向いてくる。

 難民達もよくこの沼地を越えてきたものだ。と感心する。ベテランの冒険者達もここはまず避ける。そういった場所なのだ。


 わらわも好き好んで来たい場所ではない。

 まぁ、行きたくない理由としては、死霊共は見てて気分のいいものではないということ。

 そして、どこまでも続くこの薄気味悪い風景が好きになれないからだ。


 命の危険?そんなものここで感じたことはない。

 何しろ、わらわは勇者なのだからな


「オリビア、どうした? 無い胸を張ったりして」

「ぬ、こ、この旦那様よ! 胸のことをいうのは禁止だと前から言っているだろうに!」

 緊張感の無い笑いをするのは我が旦那様であるアルド・H・ウェストロード男爵。

 貴族というにはどこかのんびりしたこの旦那様は、こう見えてもこの国でもトップクラスの戦士だ。


 彼を見る。

 線の細い白い肌。艶やかな金色の髪。どこか漂う儚げな雰囲気といい。女装させたら、深窓の令嬢でも通りそうだ。

 ……いや、実際、女装させたら、ガチで傾国級だった。

 クリスの兄も父も、脳筋という言葉が良く似合う容姿だったのに。遺伝とは不思議なものじゃの。


「な、何?オリビア。僕の顔をじーっと見て」

「いや、何。屋敷に帰ったらまた女装させようと思っての」

「い、嫌だ。それは勘弁」

「とかいって、この前はノリノリだったじゃろうに。愛い奴じゃのう」

「う……」

 そういって赤くなったうつむいてしまう。

 ふむ、全く生娘のような反応じゃの……クリスよ。近いうちに弟か妹が出来るかもしれぬ


 そんなことを考えながら、わしは前を見る。

 ゆっくりではあるが、沼地を進んでいく。最も、徒歩に比べると数段と早いそうだ。

 勿論徒歩ではない。このグチャグチャした沼地など歩くなどまずしない。

 

 わらわはゴーレム使い。ならば、することは一つ。

 浮きやすい材質のゴーレムに乗っかり移動すればいいだけのこと。


 わらわが用意したのは、木で出来た蛇型のゴーレム。

 元々、浮きやすい材質であることに加え、地面と接する面が多い為、浮力が働きやすく。底なし沼に引っかかろうが沈まず移動できるというわけじゃ。


 元々、わらわの作るゴーレムは、『対魔属性付加』という能力がついておる。

 ゴーストもゾンビどもも魔力の塊のような存在、そんなのがわざわざ好き好んで近づいて来る事は殆ど無い。

 仮にあったとしても……


「あ、ゴースト」

 と、旦那様の気の抜けた声がすると同時に、ゴーストが真っ二つに切り裂かれる。

 旦那様は、宝剣に手をかけただけ。それだけであの程度のゴーストは一撃じゃ。

 

 わらわの能力も色々反則だと思うが、旦那様の宝剣と魔術の組み合わせは、わらわ以上に反則のような気がする。さすがは英雄の血脈というべきか。

 旦那様も一人で一軍に匹敵する魔術を持つ。

系統としては、『呪術系魔術』と呼ばれるものじゃ。まぁ、解りやすくいうと呪いじゃの。

特定の条件で発動する魔術で、強力である代わりに、色々と代償を求められるというもの。

旦那様の魔術は、条件が簡易で、代償も少ない。どう考えてもチートというに相応しい能力じゃ。

四大貴族と呼ばれる家系には、方向性が違えどかなり強力な魔術を有していおる。

こんな強力な魔術の家系を四つも抱えながら、小国に収まっているのは理解できん。

 それぞれの四大貴族が手を取り合えば、大陸制覇……とはいかなくても、それなりの領土を手にすることが出来ると思うのだが…… 

 まぁ、それが出来ない訳も重々承知している。それはこの国の成り立ちゆえの弊害だ。

 利点もあるといえばあるのだが、この国が小国に治まっているあたり弊害のほうが強いのだろう。

 この国の制度のせいでクリスには迷惑をかけているわけで、それに関しては大変申し訳なくおもう。


 そんなこんなを考えていると、根の森が見えてくる。

「何度見ても奇怪な場所じゃのう」

 根の森。その名の通り、巨大な木の根が森のように生えている場所だ。

 奇怪な場所であるが、神聖な土地であり、その森を覆う聖なるオーラは各大陸の聖地にも匹敵する。

 

「ふう、到着じゃの」

 根の森に降り立つ。そこは今までの沼地の陰気な空気も一変し、清浄な空気を包んでいる。

 聖地近辺にしか生えない霊草が生い茂り、聖獣であるユニコーンがこっちを見ている。

「相変わらず不思議な土地だね。ここは」

「……そうじゃの」

 ここがどういった土地かは、世間一般では不明とされている。

 それゆえ調査隊が訪れているが、この地を邪気から守っているのがこの木の根であるということ。

 そして、この森の中央に大穴があり、そこから強い聖気が流れこんで来ているということしか解っていない。


 大穴を調査した調査隊は決まって行方不明になる為、謎は解明されていない。

 しかし、わらわはこの穴の正体を知っている。わらわが魔王を殺さずに、勇者であり続けている理由もこの穴の先にある。

 まぁ、調査隊の者達も運がよければ生きているじゃろうて、戻ってくることは適わないだろうが……


 さて、そんなことよりも……

「妙じゃの」

「オリビアも気づいた?」

「当たり前じゃ……こうにもあからさまな殺気を向けられれば、の」

 苦笑する。

 四方から当てられる強い殺気。姿は見えないが、それなりの数、それなりの猛者のようじゃ。

「難民達……ではないね。多分」

 宝剣を抜き、緊張感の無い苦笑を浮かべるアルド。

「当たり前じゃろ。どう考えてもこれは訓練された兵どもの空気じゃろうて」

 そして、飛び出したのは黒尽くめの兵士達。手に持った武器を見て、確信する。

 それは、先程見た帝国の新兵器、確か、銃といったか。

 つまりは、ここにいる奴らは……

「帝国兵」

 つまりはそういうこと。 

 難民の変わりに、帝国兵がいるということは、今、村は……

 一瞬、そんなことを考え頭を振る。

 罠に嵌められた。そんなのは幾度と無く経験している。

 そんな時、わらわがしてきたことは一つ

「オリビア」

「ああ、解っておる」

 そう、すべきは一つ。

 正々堂々、正面から食い破る。それが強者たるわらわの矜持なのだから

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