13話 難民
「クリス? 一体どうした?」
呆然とする俺に親父が声をかけてくる。
「い、いえ、何でもありません。お父様。その珍しい武器だと思いまして」
驚きのあまり令嬢の仮面が剝がれ落ちそうになったが何とか保つ。
その様子を、不思議そうにみる親父。そんなこっちみるな。
「ふむ、見たことない武器じゃの。魔法がかかっている形跡は無し、か。これが急速に領土を拡大している帝国の新兵器?」
そういって、おかんはその武器を手に取る。
無用心にも、銃口を覗こうとしたので、その銃を取り上げる。
安全装置が働いているのを確認してほっとする。
そして、気づく。
(俺、何でこんなに銃のこと詳しいんだ?)
前世の俺は、別に軍事ヲタクでは無かった。
映画はたまに見るし、好きな映画はアクションもの。
だから、たまにこの銃が出る映画も見たことある。
しかし、その程度だ。一目で何の銃か理解出来るほど、詳しかった訳でも無いし、安全装置なぞ名前で知っている程度だ。
「いきなり何をする」
「お母様。未知の武器に対して、警戒が無さ過ぎです」
怒るおかんに、俺は反論する。
「娘さんの意見は最もです。その先端を向けた先の兵士はどんどん死んでいった。原理は解りませんが、その先っぽに何らかの仕組みがあると考えるべきかと」
その言葉に、むう、と唸りながらおかんは引き下がる。
「そういえば、ここにいるのは戦闘職の人間だけだが、他には誰もいないのかな?」
親父の言葉に、難民に目を向ける。
確かに、そこにいる大半は男。よく見ると男達は二組のグループに分かれている。
片方は統一されたチェーンメイルとメイスを装備した男達。もう片方はバラバラな格好で、持つ武器は、斧だったり、剣たったり、小数ではあるが杖を持った者達。
正規兵と傭兵、あるいは冒険者の集まりだろう。
「ああ、ここにいるのは兵士と傭兵達だ。民間人達は消耗が激しかったからな。少数の兵士を残して『根の森』に退避している。体力、技能に優れた奴らが男爵領に助けを求めにいくことになっていた。そのリーダーに選ばれたのが、俺というわけだ」
根の森は、その名の通り、木の根のような植物が木のように生い茂る不思議な土地だ。
そこは一国を沼に沈めた魔王ガウスが唯一沈めることの出来なかった土地で、その地に染み付いた神聖な力は、沼地を跋扈するアンデッド達は近づくことさえ出来ないという。
「頼む! あそこには俺の娘も居るんだ。勝手を言っているのは理解している。何とか助けて貰えないだろうか?」
その言葉に、クリスは考え込む仕草をする。
この地域には兵士は殆どいない。兵士を兼業している所謂半農半兵のような者もいるが、全体の兵力は数十人にも満たない。
この地が平和である為、兵士が殆ど必要ないのだ。
「あんたらなら何とか出来るだろ?ウェストロード男爵、そして、勇者オリビア殿」
その言葉に、おかんに周囲の視線が集まる。
「え?お母様、勇者だったのですか?」
「あー、昔の話じゃよ。今のわらわは、魔王を倒さずダラダラ過ごしているだけのただの男爵夫人にしか過ぎぬ」
そうおかんが苦笑する。
まぁ、只者ではないとは思っていたが、まさか勇者とは。確かに赤子の頃、サーシャも言ってたな。
オリビアは、一人で一軍に匹敵すると
「頼む!ただでとはいわねぇ。一生かけて恩は返す。だから、娘を、いや、あそこにいる街のみんなを助けてくれ」
そういって、ガルドは頭を下げる。
「頭を上げてください」
ふう、と親父は頭を下げる。
「私とオリビアで、根の森の難民の元に向かいましょう」
その言葉に、難民達は「おお!」と声を上げる。
「ダンナサマ、ゴエイノモノハ?」
そういうのはじい。リザードマンなので表情からは解り難いのだが心配しているのがよく解る。
「いや、兵士達を連れて行っても、アンデッドの餌食になるだけだ。ここは俺とオリビアだけで十分だ。難民の護衛はオリビアが何とか出来るし」
そういって、親父はおかんに目を向ける。
「ふむ、それが一番ええ。出発は?」
「準備が出来次第。じい、すまないけど、食料を難民分含めて用意してくれ」
根の森までの距離はそう遠くはない。しかし、殆どが沼地であるゆえ、そこにいくまで半日はかかる。
「カシコマリマシタ」
そういってじいは頭を下げる。
■◇■◇■
そして、夜になる。
昼過ぎには、両親は根の森に向けて出発した。
初めて、本領を発揮したおかんの魔術は素晴らしかった。
『擬似精霊作成及び、固定化』、『対魔属性付加』。
その二つで作り出されたゴーレムの軍団。百にも及ぶゴーレム達、一体一体に対魔属性が付加されている。
対魔とは、周囲の魔力を乱す性質があり、魔力の塊であるゴーストやアンデッドは、近づくだけでダメージを負っていくという。
これが、勇者オリビアの力。
一人で一軍に匹敵するという魔術師の実力の一片か。
そして、考える。
同じ勇者としての称号を持つ自分。自分にもあんな力があるのだろうか?と
いや、それよりも気になることがある。
銃を見た時、浮かび上がってきた。知識。
一目で、それがAK47であると理解した。
AK47。旧ソ連が作り出した名銃。威力が高い、耐久性が高い、コストが安いといった三拍子の揃ったアサルトライフルだ。
目をつぶれば、その扱い方を手を取るように理解することが出来る。
何故、それを俺が理解出来た?
そして、何故、この銃がこの世界に存在している?
AK47の仕組みはシンプルだ。コピーも容易で中国で大量のコピーが生産された歴史もある。
しかし、それは、銃という概念が存在し、ある程度科学文明が発達しているからこそ出来ることだ。
中世ヨーロッパと同じくらいの文化レベル。そして、科学と違った方面で発達しているこの世界でこれを作り出すのはまず不可能だ。
(まぁ、本当にAK47か確認する必要がある、か)
あの銃は、確か親父の書斎に持っていかれたはずだ。
丁度、屋敷のものは、難民の手伝いで誰もいない。確認するには今しかない。
部屋を抜け出し、暗い廊下を歩く。
ギシギシとぎしむ廊下を抜け、父の書斎に入り込む。
机の上に無造作に置かれているAK47。
それに触れようとし、そして……
「クリス様、大変です!」
バタンと、扉のあく音と共にサーシャの声が下の階から聞こえてくる。
バタバタ、と階段を走る音。慌てて、父の書斎から出る。
「どうした!」
書斎を出た所で、サーシャと鉢合わせする。
普段、書斎に勝手に入ると怒るサーシャ。しかし、今は顔を真っ青に染めて震え上がっている。
「な、難民が……難民達が反乱を起しました!」
そのサーシャの言葉に、背筋にゾワッと背筋に冷たいものが走った。
※すみません。更新遅れました。
休日出勤やら、この展開でいいのか?悩んでたらつい一ヶ月。申し訳ございませんでした。




