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13話 変化の年

 転生して八回目の春を迎えた。

 つまりは8歳になったという訳だが、八年目の春というのは貴族にとっては変化の年ともいわれている。

 貴族の一員として認められ、それと共に、貴族としての義務と責任を負うことになる。

 良くも悪くも今までの生活から一変するらしい。ゆえに変化の年とも言われている。


「くそっ、それだけだったら良かったんだが……」

 

 そう、貴族の一員として認められるということは社交界に参加することが出来るということだ。

 これは義務ではないので参加しなくてもいいのだが、しかし、全くでないというのは、貴族としての体面を傷つけることとなる。

 まぁ、俺個人の面子だけだったら問題ないが、両親に迷惑をかける。

 付け入る隙を見せれば、そこを突っ込んでくるのが貴族というものらしい。

 まぁ、そこら辺はなんとなく理解できる。

 カップラーメンの値段が解らないだけで槍玉に挙げる政治家がいるのだ、あれと似たようなものだろう。

 しかも、両親は貴族と言っても下っ端である男爵だ。その影響も馬鹿には出来ない。


 首都であるハイステイネンからは招待状が来ているが、今の所、病気ということで誤魔化しているがそれも長続きはしないだろう。


 もって夏まで、夏には夜会に参加しなくてはならない。

 そう考えると、憂鬱になる。

「あークソ、なんか、いいごまかし方ないか」

 鏡を見る。そこには不機嫌そうに顔を歪める金髪碧眼の美少女の姿がそこにある。

 そう、美少女だ。

 どう見ても、男には見えない姿。華奢な肉付き、雪のように白い肌。父親似なのか、不機嫌に歪んでいるがそれでもどこかはかなげな雰囲気が漂っている。

 前世での自分はどうだったか?記憶を辿ると、確かかつての自分は、丸坊主の悪がき少年だったはずだ。

 せめて、母親似だったら良かったのに、と、キリッとした容姿の母親の顔を思い浮かべる。



 はぁ、とため息をつき、外を見る。

 青い空、どこまでも広がるブドウ畑。そして……


 屋敷に向かって走ってくる村人の姿。


 この村の住民は基本のんびりとしている。それがこんなに慌てているとなると何らかの事件があったのだろう。

 村人が、家に入り込むと、同時に声が響き渡る。

「だ、男爵! 村に難民が!!」

 事件らしい事件の無かった男爵領。ここにも変化の年が訪れたらしい。



■◇■◇■


 この男爵領は、ハイロード王国の最も西南に位置する国境ともいえる土地だ。

 国境近辺というと、貿易が活発で発展した土地があったり、また隣国の侵入を留める要塞があるというのが常識だが、この村にはそんな要素は何一つない。

 理由は簡単だ。

 この村の先には、人類が立ち入ることの無い空白地帯が続いているのだ。

 ガウス沼地と呼ばれるその場所には、かつて、宗教国家があったとされ、この地に誕生した魔王ガウスの手により、すべてが沼の中に沈んだとされている。

 国一つ飲み込んだその沼地は広大で、すべてが沼地になっている訳ではないが、それでも底なし沼が幾つも点在し、また何もする間もなく死んだ人間の悪霊が飛び交う危険地帯と化している。

 

 冒険者も、悪霊を倒しても何の稼ぎにならないとのことで余り寄り付かない。

 たまに、この男爵領から比較的近い場所にある根の森と呼ばれる不思議な地に調査隊が入るくらいである。

 この沼地を越えて悪霊が来ることはまず無く、しかし、国境を通して活発になることも無く、繁栄とも戦争とも無縁の生活を送っていた。


 難民は、この沼地を越えてやってきたのだ。



 ひどい有様だった。

 親父とおかんと共に訪れたのは、村の広場だ。

 そこには、何十人もの異国の人間が集まっている。

 村人達は、警戒しているが、その目はどこか同情的だ。

 

 彼らは、やつれ切っていた。

 誰も彼もが、傷を負っており、中には重体の者もいるらしい。

 そういった者は、村の医師の下に運ばれているが、人の手が足りず、すでに何人か死んでいるらしい。


「おお、あんたが、領主様か」

 集団の中から一人の男が歩み出る。

 30代半ばといったところ、恐らく戦士なのだろう。

 180を超える身長に、背中に担いでいる大剣。上半身裸の蛮人スタイルだ。


 鍛え上げられた体に巻いている包帯が痛々しい。


「ウェルウォード王国。B級冒険者ガルドだ」

 親父に向かって、左手を差し出す。

「ハイロード王国、アルド=H=ウェストロード男爵です」

 その左手を、親父は握る。

「すまねぇ、右手は今動かなくてな。ま、学の無い冒険者だ。そこは容赦願えると嬉しいぜ」

「私も所詮は男爵です。そこら辺は気にしなくて結構。それより一体何があったのです?ウェルウォード王国から逃れてくるなんて余程なことがあったと思われますが?」

 ウェルウォード王国はガウス沼地の先にある王政の国だ。

 名君と呼ばれるウェルウォード四世によって治められている王国だ。

 強国ではないが、中堅どころの国であり、また、国王の評価もかなり高く、国の乱れる要素は見られない。


「アルタニア帝国が攻め込んできた。国境はとっとと乗り越えられ、俺が知ってる範囲だと一ヶ月で領土の半分を消失。俺は、地方都市バランで冒険者やっていたが、完全に孤立しちまって。帝国兵が攻めてきたんで応戦したが、奴らの勢いには勝てなくてな。領主の機転で何とか一部の領民を逃すのに成功したが、土地柄上、どうしても帝国の大ッ嫌いな獣人がいっぱい居てな。追われているうちにあのクソ沼地に追い込まれて、見ての通り、その殆どの領民が沼に飲まれちまて……残ったのは十分の一だ」

 悔しそうにガルドが語る。

 アルタニア帝国。かつては大陸南部にある王政の小国だったが、今代のウェルド=アルタニアが近隣王国に進軍を開始。

 未知の兵器を使い、近隣王国を侵略し、帝国を名乗るようになる。

 一気に大国へと成り上がったこの国は、人類至上主義を掲げており、人類種が治める国には比較的寛大で、降伏した国には『ある程度』の配慮はしてくれるが、亜人の治める国には容赦が無い。南部にあった猫人の王国においては虐殺が相次ぎ、最も美しい毛並みを持つ王は、毛皮を剝がれ、現在、皇帝に献上されたらしい。

 現在、拡張路線を続けており、南部の殆どを平定。大陸を統一すべく、北へと領土を広げているとされている。


「帝国が……しかし、草風の民の傭兵部隊はどうしたのです?それにアルザック将軍が率いる重奏の騎士団は?彼らが侵略を逃すと思わないのですが……」

 そう、ウェルウォード王国には、広大な草原地帯を抱えており、草原を知り尽くし、誰よりも早く草原を駆ける狼人族――草風の民を抱え、また何より、大陸で名高い重奏の騎士団を抱えている。分厚い鎧を纏った騎士達が一斉に駆ける姿は圧巻であり、その地響きだけで敵兵を怯えさせるといわれている。草原と共に生きるという国民性ゆえ、領土も広くなく中堅どころの国とされているが、こと自身の縄張りともいえる草原においては、無敗とまで言われている。

「重奏の騎士団の奏でる重音は、如何なる兵をも飲み込む、か。まぁ、そういわれていたがな。帝国の奏でる雷音は、その重音さえ飲み込みやがった」

「雷音?」

「ああ、俺ン中では帝国ってーと、五帝騎と帝王によって支えられている国っつー認識だった。多分、男爵様もそうじゃねぇか?」

 基本、この世界における軍事のあり方というと二種類ある。

 一つは、真っ当なあり方。練度の高い兵士達がその国の剣となり、盾となるパターン。

 もう一つは、地球では有り得ないあり方。個人の戦闘能力で国そのものの軍事力を支えるパターンだ。


 名門一族に生まれた魔術師は、時に一軍に匹敵する戦闘能力を有することがある。

 帝国というと、皇帝の下に仕える5人の騎士。彼らによって支えられており、兵士達は練度や装備の基準が低い。そういう認識だった。


「だが、あの装備はなんだ?雷音を轟かす未知の武器。信じられるか?帝国の一般兵が、強堅な重奏の騎士団をズタズタに切り裂いたんだ。そう、この訳の分からねぇ武器でな」

 そういってオヤジの前に出された『それ』を見て、言葉を失った。

 黒い鉄製の『それ』。

「……? なんだこれは?」

 親父が不思議そうに言い。おかんが厳しい目で『それ』を見ている。

 ああ、解らないだろうな。

 刃物ではない。魔法の道具でもない。

 こんな武器。この世界にあるがずがない。

 だけど、俺は知っている。

 黒々とした銃身に、木で出来た銃床。特徴的な沿った銃倉。

「なんで、なんでここにこれがある」

 これはここにあってはいけないはずのものだ。

 だって、これは……


「AK47」

 正式名称:1947年式カラシニコフ自動『小銃』

 身震いがする。地球の科学がファンタジーを侵食していくのを肌で感じ取れた。

※というわけで急展開の一端が姿を現しました。

どういう反応が帰ってくるかビクビクしながら、結果を待ちます。はい

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