11話 執事サーシャ
300pt達成。皆様、ありがとうございました。
「お嬢様。お体は大丈夫ですか?」
背後から声がした。それは聞き覚えのある高い声。
「ああ、何とか……ごほん、ええ、大丈夫です。ありがとう、サーシャ」
そう、にっこり笑う。
振り返ると、そこには、見知った姿がそこにある。
茶色かかった黒髪に浅黒い肌。ショートに纏められた髪から、尖った耳が飛び出している。
着ている服は、燕尾服。
すらっとした彼女には良く似合っている。
「……お嬢様。お顔に傷が」
……ああ、ダンガガの棍がこすった時に出来た傷か。
それくらいの傷、正直気にもならないが、サーシャは違ったらしい。
「ダンガガ様。お嬢様を鍛えてくれていることは感謝しています。が、そのお顔を傷つけるとはいかがと思いますが?」
いつの間にか、サーシャの手にはスリングが握られている。
Yの字をしている投石具。パチンコといったほうがわかり易いか。
子供のおもちゃとして使われることもあるそれだが、狩猟にも使われることのあるれっきとした凶器だ。
「あっはっは、顔に傷ついたって、それくらい訓練だったら当たり前ですぞ。なぁ、お嬢」
「ええ、舐めていれば、勝手に直ります」
二人で笑いあうその姿に、サーシャははぁ、とため息をつく。
「お嬢様。お嬢様は、ウェストロード家の令嬢なのですから、怪我するようなことはおやめください。何かあった時は私共が対処しますので」
3歳の時の誓いはサーシャを大きく変えた。
まず、メイド服から執事服へと変わり、そして、その口調や態度を大きく変えた。
前までのほほんとした雰囲気だったが、今では、前より引き締まったどこか冷たい空気を放っている。
「ええ、気をつけます」
「解っていただければいいのです。お嬢様、他に傷は……」
「右肩にも棍が当たったのですが、痣になってないでしょうか?」
確認するためにドレスの胸元を広げる。
「お、おおおお、お嬢様!そんなはしたない!だ、駄目ですよ!殿方の眼もあります」
顔を真っ赤にさせて、鼻を押さえるサーシャ。
……また、鼻血でも出したか。変態なのは相変わらずだ。
「……だそうですが、ダンガガ様」
「あー、まぁ、俺、オークだしなぁ。あんま人間で興奮することないし。あ、サーシャ殿。頭に毛虫が乗っかっていますぜ」
あ、確かに、サーシャの頭の上に、緑色の虫が這っている。
確かにここは木陰。毛虫が降ってきてもおかしくないか。
「う、うわわわわわわわわ。お、お嬢様!お嬢様取ってーーーーーーーー!!」
だが、まぁいくら澄ましていてもサーシャはサーシャであることは変わらない訳で
仕方ないな、と思いつつ、サーシャの頭についた毛虫を取り除くのであった。
■◇■◇
そんなこんなで、夕食の時間だ。
ダンガガの持ってきたレッドバイソンの肉が並ぶ。
今日は珍しく親父のアルドが家に戻ってきている。
近隣の領主のところに出かけていることの多いのでこうして顔を合わせるのも一週間ぶりといったところか
この食卓に居るのは、6人。貧乏男爵家の食堂だ。人口密度的にはかなり厳しい。
目の前には、親父とおかん、その背後には、ダダが立っている。
自分の背後にはサーシャ。そして、普段座らない脇の席には、もう一人の客が座っている。
そこにいるのは、肉屋のダンガガ。
「やー、自分がこんなところにいていいんですかね」
そんなことをいいつつも全く緊張したそぶりを見せず、肉を食べて、うまっ、と喜んでいる。
「やー、自分の所の肉ながらやっぱいいですわ。頑張って狩ってきた甲斐がありますわ」
そういってがっはっは、と笑う。
レッドバイソン。赤い角と赤い毛が特徴の獣。
バイソンという名の通り、地球のバイソンと似通っている。
群れで行動することと、その突進力はかなりのものでの大きな群れであれば、一つの村を壊滅させるという。
かなり凶暴な性格の為、猟には向いていないとされている。
素手で倒せば、元手ゼロで儲けられますからな。牛を買って卸すよりずっと儲かりますぞ、とかいっていたが、うん、それ肉屋の発想ではないと思う。
そんなダンガガを親父は嬉しそうな目で見ている。
「うん、喜んで貰って嬉しいよ。こっちとしても、レッドバイソンの肉を食べるのは久しぶりだ。狩ってきてくれて助かる」
「男爵様なら簡単に狩ってこれるのでは?その武運は、私でも耳にしたことがありますぞ」
……そう、この一見、20以下に見える華奢なイケメン親父。
実の所、王国でも屈指の戦闘力を持つ戦士らしい。中央でも、その名は轟いており、その鮮麗された技からかなりの信望者がいるとか。
中央にいれば騎士団長も確実とまで言われていたのだが、どういうわけかこうして片田舎でのんびり過ごしている。
「お嬢様。自慢の肉です。いっぱい食べてください。食べないと育つ所も育ちませんぞ!」
うん、台詞といい。その表情といいどう見ても性犯罪者にしかみえねぇ。
まぁ、胸のことを言っているんだろうが、俺は男だ。どー考えても胸は大きくならない。
それにしても、ダンガガさっきから左手の動きが少しおかしい。訓練の時、怪我でもしただろうか?
すべて攻撃は弾かれて、あの男が怪我するような要素は全くなかったような気もするのだが……
「お嬢様を陥れるようなことはいわないでください」
そんなことを考えていると、背後から鋭い声がする。見るとサーシャが鋭い視線で、ダンガガを睨みつける。
「おおっと、申し訳ございません。しかし、お嬢様ももう8歳。そろそろ、晩餐会デビューする年頃でしょう? お嬢様は紛れもない美少女ですが、やはり肉付きがあったほうがいいと思うのですよ」
確かに、貴族は8歳になると、晩餐会デビューをするのが慣わしのようだ。
貴族は貴族の社会がある。基本的に貴族は貴族同士で結婚するのが常識とされている。
しかし、首都に暮らす以外の貴族はなかなか出会いというのが存在しない。
政略結婚が常の貴族であれど、自分の子供にはなるべく相性のあった相手と結婚して欲しいと願うものだ。
自分の利害関係とあった家の子と自分の子の合わせて、相性がいいのか確認するのだ。
まぁ、大人は大人で情報収集の意味合いがあったりと、一見無駄に見えるこの会も貴族の中ではかなり重要なイベントらしい。
結婚相手を見つける、と考えると、まぁ多少は肉付きがいいほうがいいだろうが……
しかし、晩餐会か。
さすがに男と結婚するわけにもいかないしなぁ。
親父とおかんは、一体、どー考えているんだろうかね?




