9話 主従の形
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皆様ありがとうございます。
まー、ぶっちゃけ、弟子入りの件、難色を示されました。
当たり前っちゃ当たり前。ダンガガだって、元々の生活があるわけだし……
意外だったのは、案外すんなり両親の了解を得られたということだ。
何と、ダンガガの説得までセットでやってくれるとのこと。まあ、それは条件付な訳だけど……
その条件と言うのは……
「お、おはようございます。お母様、お父様」
今の俺の姿は夏のスタンダードであった、かぼちゃパンツ一丁からドレス姿に変身。
ドレスはこれでもかというくらいフリルのついたオーダーメイド品。
教えられたようにスカートを掴み、一礼。
頑張って笑みを浮かべているが、微妙に引きつっているのが自分でも解る。
朝の食堂。貴族としては質素ではあるが、どこか落ち着いた雰囲気がある木で出来た一室。
焼かれたハムとパンの匂いが鼻をくすぐり、窓の外には小鳥がチュンチュンと鳴いている。
夏の日にしては気温が低い。開かれた窓から、涼しい風が部屋を通り抜ける。
絵に描いたようなさわやかな朝。最も俺の心はどんよりと淀んでいる。
「ふむ、似合っているではないか。娘よ」
「お、お嬢様、お似合いですよ。本当に、本当にお似合いですっ!」
満足そうに頷くのは、母であるオリビア。
その背後で、涙を流してるのはサーシャ……感動しているのは解るけど、なんでてめぇ鼻血流してるんだよ。
何でこんなことに……と、嘆きたくなるけど、俺が原因なんだよな。これ
まぁ、ダンガガの弟子入りするという件、その条件ってーのが、令嬢であるというのを受け入れるということ。
……ああ、受け入れがたい提案であるが、これに関しては受け入れざる得なかった。
あの時、ダンガガの戦いを見た時、魂が震えた。
力強い動き。力任せで動いているようで、その根底には実戦で磨かれた合理的な技と経験が見て取れた。
あの姿は前世で憧れた『兄貴』の姿とどこか似ていて、だからああなりたい、と思いその提案を受け入れた訳だが……
……うん、すまん。出だしから心が折れそうだ。
「お、お嬢様! このドレス! このドレスも着てください。きっと、きっと似合いますよ。ええ」
何か鬼気迫る表情でドレスをグイグイ押し付けてくるのはマイメイドのサーシャ。
……今まで優しくておっちょこちょいなメイドだと思っていたが、その実態は変態だったらしい。
「うん、クリス。似合っているよ。ただ、動きがぎこちない。膝をもっと曲げて……」
で、口うるさいのは生まれながらの貴族の親父のほう。
普段の穏やかな様子と違い、鋭い視線で俺を指導してくる。
「ああ、違うよ。いいかい、その礼は目下の者が目上の者に敬意を示す為のもの。うちは男爵家。貴族といえば目上の者が多いんだ。もっとしっかりやらないと、夜会にも出れないよ?」
……いや、出たくないって夜会。
そんでもってスタートする親父の指導の嵐。これにはおかんも苦笑している。
うん、段々苛々が溜まってきたぞ。
「ああ、違うよ。もっと、こう……」
「だーーーーーーーーー!! そんなのいきなりできっか!」
口煩く指導しようとする親父についに俺も切れる。
「あ、あはは、ごめん言い過ぎた。けど、これに慣れておかないとクリスも後で苦労するよ」
引きつった笑みを浮かべる親父殿。何とか言いくるめようとするが、子供の特権。駄々をこねてごり押しをする。
「うるさい! おやじも女装すればいいじゃないか!」
「え、えーっとそれは難しいかな?」
「ふむ、確かに、旦那よ。主が見本を見せれば良い」
オリビアの言葉に、親父がフリーズする。
「え”?」
相変わらず、親父は笑顔。しかし、口の端が微妙にヒクヒクと引きつっている。
「いやなに、母親である自分が見本を見せれれば良かったがのう? 元々、貴族でなかったわらわには、ちと荷が重い。ならば、生まれながらの貴族である主がすべきじゃろ? それに、旦那よ。そうしないとその子が納得しないと思うが……」
うぐぐ、と呻く親父。ふふふ、いい気味だ。死なばもろとも、である。
「旦那様。その……」
言いにくそうにしているサーシャに、親父は弱く微笑む。
「解っている。僕も男だ。やる時はやるさ」
「ふむ、それでこそ我が旦那だ。ふっふっふ、どんな姿になるか楽しみじゃの!」
「お、お手柔らかに頼むよ」
諦めの表情の親父と、機嫌が良さそうなおかん。
おかんの手に引かれながらドナドナされていく父親。
さらば、親父。強く生きろよ。
残されたサーシャと、俺。
ふと、じーっと俺を見ているサーシャに気づく。
「な、なんだよ」
警戒が真っ先に来る。
俺の中のサーシャ株は大暴落中、鼻血を噴いて迫る姿にドン引きしたばかりなのである。
しかし、その視線の色がさっきと違うのに気づく。
「……クリス様、申し訳ございません」
「なにが?」
突如としての謝罪に、俺も戸惑いが先に出る。
「本当は、お嬢様が女の子の格好をするのが、嫌いなのは解っていました。解っていつつも止めることは出来ませんでした」
「サーシャは、親父に雇われているわけだし、しかたがない」
それに、俺が女装しているのにはなんらかの理由があるのは解っている。
恐らくは政治的なものなのだろう。
だがそれ以上に、そこに俺を守ろうとする両親と、そしてサーシャの意思を感じるのだ。
だから、女装をするこは嫌がっても彼らを嫌うことはまずありえない。
「私の主はお嬢様です。お嬢様が女であるのを受け入れるというのであれば……」
そんな俺を見て、サーシャはポケットからナイフを取り出す。
そのナイフを自分の髪に当て、そして……
「おい、サーシャ何を!」
そのまま、躊躇いもなく切り捨てる。
「……私は、女であることを捨てましょう」
何てことするんだ!この馬鹿! とか、何考えているんだ? とか様々な言葉が浮かぶが口に出ることは無い。
だって、そうだろう? こんな覚悟を決めた表情をされたら何も言えないじゃないか。
綺麗な髪だった。
メイドというあまりお洒落の出来ない仕事柄。それゆえに髪の手入れはしっかりとしていたのを俺は知っている。
「たく、馬鹿やろう」
だから出たのはそれだけの言葉。
「私の主はお嬢様です。お嬢様が苦しんだ時は支え、お嬢様が嬉しい時は一緒に喜びたい。それが私の願いなのですよ」
そう、真っ直ぐに俺を見るサーシャ。その姿に苦笑する。
「おれの女の格好に鼻血ながしてたやつには思えないな」
「あ、あれはそのっ!」
俺の言葉にテンパるサーシャに、俺は笑顔で手を差し出す。
きょとん、とするサーシャに俺は笑いかける。
「約束。俺もサーシャが仕えてよかったと思えるような主になる。だから、ずっと一緒に居てくれ」
「はい。嫌だ、と言っても着いていきますからね。覚悟してください」
そういって、彼女は俺の手を握り返してくれる。
その手の暖かさは手放したくないと思えるほどに心地よくて……
自分でハードル上げてしまった気もするが、嬉しそうに笑う彼女を見てたらそんなのも気にならなくなる。
いくら体は幼くても、女の格好をしていようとも、慕っている女の前ではいい格好をしたくなる。
それが男というものなのだ。
……しばらくして、女装した親父の完璧な貴婦人っぷりにドン引きしたのはまた別の話。
二日ほど前に、日間132位になりました。
原因不明の急なアクセス増加。今は落ち着きましたがあれは一体なんだったのだろう?(汗)




