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思わず「げっ」と声を上げ気まずそうな表情を浮かべるリノに対し、青年は愉快そうに話し始める。
「ノア、十分に説明しないと誤解を招くと言っただろう。 リノ、その道具袋は俺が支援した金で買った訳ではないから安心して欲しい。 正確には俺が贈った金で彼が勝手に購入したものだ」
「……贈った?」
「その通りさ。 俺たちは昨日伝えたとおり悪魔メフィストフェレスを捜して旅をする一行でね。 出会ってわずか一日の見ず知らずと言っても過言ではない少年に金を恵むほど路銀が潤沢にある訳ではないのだ。 そこにいる大男は人の何倍も飲み食いするし、そっちの小さな従者は衝動買いの癖が治らないからな。 だが、その大切な路銀の詰まった袋を拾ってくれた恩人となれば話は別だ。 恵むつもりは無くても人として最低限の礼はせねばなるまい」
「そ、そんなの屁理屈よ! 屁理屈! あなたはお兄ちゃんを援助するためにわざとお金を落としたんでしょう!? こんなの認められないわ!」
リノが憤慨する様子にレイヴァンは肩を揺する。
「屁理屈と言われようがこれは事実だ。 ノアは拾った金を全て自分の懐に入れる機会があった。 だが、それをせず正直に返してくれた。 この世の中でとても殊勝な事だ。 若いのにしっかりしているのはやはり名家の血筋だからだろう。 感銘を受けた俺は少しばかりの礼をしただけ。 その金で悪魔討伐用の道具を購入するとは思いもしなかったよ」
「あ、あなたって人は! ……シンディ! アーシェも! 何か言ってやってよ!」
「何かと言われましても、私たちがその場に居なかったので……」
「嘘だとしても、嘘だと証明できない以上、嘘じゃないって事になるもんな」
同級生二人が答えると、リノは悔しそうに唇を噛んだ。




