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「突然何をおっしゃるのです!?」
「有無を言わず、思いっきり頬を叩いてやってくれ!」
「ですから、どうして私がブライトさんを叩かないといけないのですか?」
「それは俺が、別にフィーネに脅されたから話した訳ではないんだけど、マリアンちゃんが勘違いしているなら、そういう事にしちゃおうかなと今一瞬思っちゃったからさ。 でも、謝りに来ておいて、そこでまた別の過ちを犯すなんて最低な野郎だと我に返ったんだ。 でも俺って意志が弱いから、と言うかフィーネに滅法弱いから、平手打ちの一発でももらわないと、またマリアンちゃんの秘密をバラしちゃうと思うんだ。 正直なところ数発殴られて戒められてもフィーネの前では何でも喋っちゃうと思ってる」
「いったいフィーネさんに何をされたと言うのです? もしかして物凄く酷い事をされたのではありませんか? 旅仲間であるブライトさんにここまで言わせるなんておかしいですよ! フィーネさんが来たら私から強く言います!」
「話が余計に拗れることになるから、それは止めといて」
「もしや他言できぬよう念入りに脅されているのですか?」
「そうじゃないんだ。 フィーネは決して脅してきたり酷い事をしてきた訳じゃない。 むしろ気持ち良いことをしてやると言われ、俺がその誘惑に負けたんだ」
「……気持ち良いこと?」
「そうさ。 俺は自分の欲求を満たすために大切な仲間であるマリアンちゃんの情報をフィーネに売ったんだ。 最低な男だろ? だから、心置きなく殴ってくれ!」
「そこまで言われても、やはり殴れません」
「どうして!?」
「それは」
そこまで言葉を発したマリアンは急に口を噤むと、目には涙を浮かべ始めた。
突然の事に驚いたのは向かい合うブライトだ。
何が起きたのか分からず、不安の表情で「ど、どうしたの?」と尋ねるのが精一杯だった。




