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しばらくした後、集合場所に現れたのは大柄な青年ブライトだった。
彼は旅に必要な荷物を山ほど詰め込んだ大きな袋を肩に担ぎながらマリアンの下へと駆け寄ると「おはよう」と声をかける。
そして安堵の表情を浮かべながら「早く出てきて正解だったよ」と続けた。
「おはようございます、ブライトさん。 約束の時間まで、まだ時間があるのに、もうお集まりになるなんて…… こう言っては失礼ですが、いつもギリギリにいらっしゃるブライトさんらしくありませんね。 もしかしてノアさんの為に意気込んでいらっしゃいますか?」
遠くを眺めていた彼女だったが、相手の存在に気がつくと笑みを浮かべて言葉を返した。
「いや、そんな意気込みは無いんだけど…… 実は朝一番にマリアンちゃんに謝っておきたい事があってさ。 きっとマリアンちゃんなら誰よりも早く集合場所に居ると思って走ってきたんだよね」
「私に謝りたいことですか?」
頷いたブライトは珍しく神妙な面持ちで話し始める。
「実は昨日の朝、俺に打ち明けてくれた事をフィーネに話しちゃったんだよね。 思い悩んでいる事を本人の許可を取らずに他人に話すのは良くないことだと思ってさ。 彼女に何か変な事を言われたら、それは俺が話したせいだから…… ごめん」
彼が深々と頭を下げるとマリアンは慌てた。
「そ、そんな! 頭を上げてください! そのような事で頭を下げられてしまっては逆に困ってしまいます。 それに、その事は既にフィーネさんから聞いてますから」
「……え? 知っているの?」
「はい。 実は昨夜遅くフィーネさんと話す機会がありまして、そこでブライトさんを脅して聞き出したと聞いているのです」
「……脅して?」
「そうです。 だから私、ブライトさんが怪我をされていないか心配でした。 私の事なんかで怪我をされてしまったら本当にどうお詫びしたら良いのか分かりません。 大丈夫でしたか?」
「大丈夫も何も……」
一瞬沈黙したブライトだったが、すぐに次の言葉を発する。
「マリアンちゃん、俺を殴ってくれ」




