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「単刀直入に聞こう。 何の話をしに来たんだ?」
室内に入り解放されたレイヴァンは部屋の隅に置かれた椅子に腰を下ろすと、水差しの置かれたテーブルを挟んで向かいに立つフィーネを見据えた。
彼女は「話題は三つあるの。 どれから取り上げましょうか」と答えながら、綺麗に装飾され宝石が揺れる剣帯を腰から外し双剣と一緒に目前の卓上に置いてみせる。
金属の鞘と木製のテーブルが軽くぶつかる音を聞きながらレイヴァンは相手の動作を訝しんだ。
愛用の剣を自ら手放すのかと首を傾げていると彼女は続けてスカートの中に隠している両脚に巻きつけた短剣の鞘ベルトも一つずつ取り外し始める。
そして、それをテーブルに置き終えれば、今度は自分の背中に両腕を回す。
そこで事態に気がついたレイヴァンは慌てて立ち上がり「待て」と声をかけるが、フィーネは聞く耳を持たず上着の紐をいとも簡単に解いてみせた。
「何をしている?」
不快感を全面に押し出しながら彼が尋ねるとフィーネは至極当然といった表情で「見てのとおり、眠る際に邪魔となる上着を脱いでいるのよ。 私寝る時は何も着ないことにしているの」と、笑みを浮かべる。
「それに、話したいことはたくさんあるし、あなたは彼女の身体を見た後で気持ちが昂ぶっているでしょうから、昨日伝えたとおり二人でベッドに横になりながら、何ならどちらかが上になって語り合おうかと」
「俺がそんな事を許諾するとでも思っているのか?」
「思っていないわ」
「だとしたら」
「そこで一つ目の話題になるのだけれど、レイは私と交わした約束を覚えているかしら?」
「……約束だと?」
言い終わる前に次の言葉を紡がれ、一瞬苛立ちを覚えたレイヴァンは「勿論だ」と語気を強めて答えた。
「あんたの命と剣がある限りリルたちを護ってもらう約束になっている」
「そうね、そのとおりよ」
フィーネは返事に対して肯定しつつ上着を脱ぎ椅子の背に掛けると、今度は腰の布に手を運ぶ。
その動作には一切の迷いがない。
表情を変えずに紐を解くと、するりとスカートを脱いでしまう。
淡い紫色の下着姿となった彼女はおもむろに距離を詰め始めた。
非の打ち所がない容姿の美女が魅惑的な格好で迫ってきているとなれば、その先の秘め事に心躍らせてしかるべきだが、今回ばかりはそうはいかない。
目の前の相手はその美しい姿とは裏腹に妖しく目を光らせ、ゆっくりと近づいて来ているのだ。
彼女が何かを企んでいることは間違いなく、この状況において鼻の下を伸ばしていたら一瞬で術中に嵌ってしまう。
わずかな時間でも隙を見せる訳にはいかないと、レイヴァンは視線を外す事なく警戒心を最大にまで引き上げて言葉の続きを待った。




