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しばらく項垂れていたマリアンは手荒く解放された。
体勢を崩し思わず両手両膝を床につける。
振り返ると、見下ろす相手は些か機嫌が悪い様に見えた。
「フィーネ……さん?」
恐る恐る声をかけてみると、相手は「くだらない」と言い放った。
その言葉の意味が解らず困惑の表情を浮かべると、それがまた癇に障ったのか更に険しい表情で「くだらないわ」と繰り返す。
彼女の豹変ぶりに驚きつつも頭ごなしに言われる事でもないと思え、つい「何の事です。 一体何がくだらないと言うのです! もしや私が悩んでいる事がくだらない事だとでも言うおつもりですか!?」と声を荒げた。
叫び終えてから言い過ぎたと後悔したが、相手は表情を一切変える事なく「そのとおりよ」と答えた。
あっけらかんとした回答に拍子抜けした後、すぐに悔しさが沸き起こってくる。
今回の件で自分はとても悩んでいるのに、それを淡々とした一言で済ませてしまう相手が目の前にいる。
遣る瀬無かった。
何とか感情をまとめて反論しようとするが、それよりも早くフィーネは「あなたには決定的に足りないものがあるのに、その状態で悩んでいると言われても笑うしかないでしょう。 私の言っている事が理解できないのなら、せいぜい悩めば良いわ」と言って入り口の扉に手をかけた。
「私に足りないものとは、どういう意味ですか? それに、この夜更けにどちらへ行かれるのです」
咄嗟に呼び止めても彼女は立ち止まる事なく「このままあなたの相手をしていると腹が立って仕方がないから、レイヴァンの所へ夜這いに行くことにするわ」と答えて部屋を出て行った。
夜這いの件を嗜める時間は無く、問答無用で部屋に取り残されたマリアンは主目的であった下着を返してもらうことすら忘れ、閉じた扉を見つめながら自分に足りないものは何なのか自問し続けた。




