~ 81 ~
マリアンは数歩進んだ所で訪ねた相手がベッドの上に居ないことに気がついた。
おかしいと思うや否や背後から「動かないで」と声をかけられる。
突然の声に驚きはしたが、相手には覚えがあった。
すぐに胸を撫で下ろし「フィーネさん、冗談は止めてください」と答えて振り返ろうとしたが、それよりも早く「動くなって言っているでしょう」と強い口調で窘められ、同時に両胸を鷲掴みにされる形で拘束された。
突然胸を掴まれるという想定外の出来事にマリオンは素っ頓狂な声を上げて狼狽えた。
「と、突然なんて事を! 放してください!」
必至に振り解こうとするものの相手は「制止を求められて動くあなたが悪いのよ」と言って、更に胸を揉みしだく。
「そ、それは、フィーネさんの声だったから……」
「声色を真似た賊とか悪魔の可能性があるでしょう。 今はこうして拘束されているだけで済んでいるけれど、下手をしたらとっくに殺されていたのよ。 旅をするならもう少し的確に物事を判断しなさい」
「申し訳ありません。 以後気をつけますから…… 放してください。 お願いします」
「嫌よ」
「ど、どうして……」
「わざわざ下着を身につけないままこうして夜這いに来てくれたのに、何もしないで帰らせるわけにはいかないでしょう? それに身悶えているあなたは可愛いわ」
「私はその下着を返して頂こうと伺っただけで、決してそのような事をするために来た訳では!」
「あら、そうなの? だったら、折角の機会だから女同士の楽しみ方を覚えていきなさいよ。 このまま私が手取り足取り教えてあげるわ」
「お断りさせていただきます!」
「つれないことを言うのね」
「私にそう言った趣味はありませんから」
「だとすると、同性からの誘いは断るけれど異性からの誘いは断らないってのが、あなたってことになるかしら?」
「突然何を言い出すのです。 まったくもって意味が分かりません! 私は性別に関係なく情事にうつつを抜かしたりしません!」
「でも、あなたはレイヴァンに押し倒されて思わず受け入れそうになったらしいじゃない?」
「……え?」
背後から胸を揉まれるという行為に恥ずかしさを覚え頬を赤らめていたマリアンだったが、拘束してきた相手であるフィーネの一言によって一瞬で青ざめ動きを止めた。




