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「私の下着、返してください!」
月が天頂を過ぎた深夜の宿。
その廊下の一角でマリアンが扉を叩きながら実に妙な事を叫んでいた。
就寝する時間帯であることを考慮し声は最大限に押し殺しているようだが、言葉の中には明確な怒気が混じっている。
この場面において本来なら出てきて欲しい相手の名前を呼ぶべきなのだが、気持ちが先行して既に訪問の理由を伝えていた。
余程、切羽詰まっているのであろうが、修道の装束をまとっている者の行動としては軽率と言うしかない。
数回扉を叩いてみたが中からの反応はなく、痺れを切らした彼女は扉を押してみた。
すると扉は軽い音を立てて容易く開いた。
鍵が掛かっていない事に驚き思わず手を止めたマリアンだったが、直ぐに我に返って扉を押し開く。
扉の先は薄暗く奥にある小窓から漏れる月明かりだけが頼りだった。
入り口から室内を見渡してベッドを見つけると、彼女は「失礼します」と強い口調で一言断りを入れてから部屋へ踏み込んだ。




