~ 7 ~
「ご主人様?」
静かな山中で物思いに耽っているレイヴァンのすぐ傍らで突然愛らしい声が響いた。
上げていた視線を水平よりわずかに下げると目前にはリルがいた。
彼女と認識すると、口からはため息が漏れる。
「どうかしたんですか?」
そう尋ねられたレイヴァンは続けて小さく鼻で笑う。
「ここまで近づいてきたお前に気がつかない俺は見張り失格だと思ってな」
「それはリルが抜き足、何とか、忍び足で近づいたからです! ご主人様は悪くないです」
「何とかではなく差し足だ」
「そうとも言うです」
「そうとしか言わないんだ」
まったくもって仕方がない奴だとレイヴァンはリルの頭を軽く小突く。
その後、頭頂部に手を乗せて髪をなでてやると、彼女は嬉しそうに笑顔を見せた。
「どうした、眠れないのか?」
「……そうでした! リル、ご主人様と話したいことがあるです! だから、こうやって起きてきたです!」
「話だと? それなら昼間にいくらでも機会があっただろう?」
「ご主人様が目を覚ましてからは出発の準備でずっと忙しかったですし、町を出たら出たで悪魔がいっぱい出てきて戦闘ばっかりだったし、お話する機会なんて全然なかったです!」
「……そう言われれば、そうかもしれないな。 で、話の内容は何だ?」
「実はですね。 リル、これからはご主人様のことを名前で呼ぼうと思うです。 喜んでくれるですか? 嬉しいですか?」
「……何だそれは?」
「だから、リルはご主人様のことを名前で呼ぶです!」
唐突に突拍子もないことを言われて流石のレイヴァンも理解に苦しんだ。
リルが口に出したのは話というよりは質問の類だ。
そして、その質問に答えようにも情報が圧倒的に不足している。
何故、いきなり名前で呼ぼうと言うのか。
何故、それが喜びに繋がるのか。
目を爛々と輝かせて詰め寄る彼女を落ち着かせると、レイヴァンは丁寧に理由を尋ねた。