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「この状況下で叫ぶのは避けてもらいたい」
辱めを受けることになると覚悟したマリアンだったが、その恐れは現実にならず男性は大層申し訳なさそうな口調で、そしてどこか慌てた様子で口を開いた。
「怯えさせるつもりはなかったのだが、流石にこうなってしまっては仕方ないか。 襲うつもりはないから安心して欲しい。 ただ、今叫ばれて誰かが駆けつけたら面倒な事になりそうだからな。 あんたの口を塞いでしまったのだ。 対処方法が悪く申し訳ない。 許して欲しい」
すぐに解放され謝罪もされた事で何もされることはないと安心した彼女はすぐに「私も慌てていて注意力が散漫になっておりました。 申し訳ありません。 そして、支えていただいたお陰で倒れずに済みました。 ありがとうございました」と言葉を返した。
これで一件落着と言わんばかりに安堵の表情を浮かべたマリアンだったが、冷静さを取り戻した事で相手の正体に気がついた。
目の前にいるのは赤の他人ではなく、良く知る人物。
それも先日の一件で少々気不味い関係となっている相手。
そこに今の自分の格好が追い打ちをかけ、今し方冷え切ったばかりの身体は瞬く間に再び熱を帯びる。
彼女が着ていた浴衣着は二の腕や膝を隠せないどころか、前を合わせて着る意匠なので胸元が大きく開いていた。
加えて泉で濡れた事で薄生地の綿布が肌に張り付いており体型を浮かび上がらせている。
このような格好でいるところを他人に見られるなど修道女としてあってはならぬこと。
先日の一件同様、決して許されることではない。
急いで身体を隠すべきなのだが、咄嗟にどう対処したら良いのかが分からない。
たとえ胸元を腕で隠したとしても今度は腕を相手に晒してしまうことになる。
混乱したマリアンは有ろう事か「み、見ないでください!」と叫びながら相手を突き飛し、尻餅をつかせている間に小屋の中へと駆け込んだ。




