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魔天創記 (五)  作者: ちゃすけ丸
第14章
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~ 77 ~

 精霊への感謝を抱きながら静かに浸かっていたマリアンだったが、急に立ち上がると泉を出た。



 泉に浸かったことで疲労感は消えたが、同時に沸き起こった『心も洗われた』という感覚が自分には相応しくないと感じ、場都合が悪くなったからだ。



 女神や修道関係者たちを裏切った人間が泉に浸かったとしても汚れた心は決して洗われることはない。



 むしろ周りの意見に流されて泉に入った行為こそ心が汚れている証拠だと、自責の念が膨らんだ。



 このような恐れ多い場所にこれ以上の長居はできないと足早に小屋を目指した彼女は、その入り口で何かにぶつかってよろめいた。



 濡れた足では踏ん張りが効かず間抜けな声を上げながら転倒することを覚悟したマリアンだったが、身体は何かに支えられて倒れることがなかった。



 どういう事なのか。



 その理由は「大丈夫か?」と声をかけられた事で解明された。



 出会い頭に衝突した相手がとっさに抱きかかえてくれたのだと納得した彼女だが、相手の声を頭の中で繰り返してみると妙に低い声であることに気がつき表情が強張った。



 もしやと思ったものの素直には受け入れることができず、やはり直接相手を見て確かめなければと視線を動かす。



 すると顔よりも先に自分の手が縋っているのが相手の胸部だということが判明した。



 掌から伝わる感覚に柔らかさは一切なく、感じるのは筋肉質で実に逞しい胸板だということ。



 この身体つきは間違いなく男性。



 そう解った瞬間、悲鳴を上げようとしたマリアンだったが、相手に素早く口を塞がれてしまう。



 先日捕まった時と同じ恐怖が全身を駆け巡り、泉で温まったはずの身体は一瞬で寒さを覚えた。

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