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「昨夕の事って?」
ブライトが間の抜けた返事をすると、フィーネはこめかみに青筋を浮かべながら「レイとマリアンが余所余所しい原因について突き止めたらって話よ」と掴む腕に爪を立てた。
「そ、そう言えば、そんな話を……」
「その様子だと綺麗さっぱり忘れていたみたいね。 本当に使えない男なんだから」
「今日は朝から騒がしかったんだから忘れてたってしょうがないだろ! ……あ、むしろそれで思い出した。 レイヴァンを一発殴ってやろうと思っていたんだった。 でも、その時にノアの悲鳴が聞こえて、でっかい蜘蛛と戦うことになって……」
「何であなたがレイを殴る必要があるのよ」
「それはレイヴァンがマリアンちゃんを」
そこまで言葉を発したブライトは慌てて口を噤んだが、フィーネが聴き漏らすことは無かった。
むしろ挙動不審となった相手の様子に「何か知っているのね」と目を光らせる。
「い、いや…… 俺は何も知りませんよ。 本当に知りませんよ」
「言わなきゃ腕を折るわよ」
再び腕を捻り上げると彼はすぐに叫び声を上げた。
「ほら、早く言いなさいって。 本当に折れちゃうわよ」
しぶとい相手だと判ると彼女は躊躇うこと無く更に捻りを強める。
その度にブライトは野太い悲鳴を上げたが、それ以上は決して口を割ろうとはしなかった。
それどころか痛みに耐えながら「お前さんは二人の様子がおかしい理由を知っているんだよな? だから、俺とリルに解いてみろって言った。 褒美もやるって言った。 それなのに、ここまで執拗に答えを聞き出そうとするのは何故だ? それって何か変だよな?」と冴えた言葉を返して彼女を驚かせた。




