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タオル一枚を身体に巻き付けただけというあられもない格好のフィーネは右手でブライトの後頭部を押さえつけ、左手で左腕を捻り上げ、両膝を背中に当てて地面に押さえつけていた。
彼女は相手が謝る度に「もう一度」「まだ足りない」と短く冷たい言葉を返し、彼の短髪を掴んでは額を地面に打ち突ける。
そして、しばらくして彼の語彙不足から謝る内容が同じようなものになってくると矛先をもう一人の少年へと移した。
「そこで突っ立っているだけの坊や。 あなたにはこの場から逃げる機会が再三あったと思うのだけれど、どうして逃げなかったの? ……もしかして、あなたも私にお仕置きしてもらいたいのかしら?」
ブライトの時とは打って変わって艶っぽく悪戯な口調で話しかける彼女だが、その目には相変わらずの凄みが宿っている。
それを目の当たりにしている少年ノアは蛇に睨まれた蛙であり直立不動のまま首を振った。
「ぼ、僕は、ブライトさんを止めようとしていたのですが、ブライトさんがどうしても言う事を聞いてくれなくて、不本意ながらココまで来てしまっただけで、決して一緒になって泉を覗こうとした訳では……」
「私は機会があったのにどうして逃げなかったのか、お仕置きが欲しいのかと聞いているの。 的外れな事を言わないで」
指摘されたノアは自分の答えが間違っていたことに気がつき、一層険しい表情で睨んでくる彼女に対して思わず謝罪し、顔を強張らせながら「余りにも突然の事でしたから呆気に取られ、逃げる事を忘れてしまいました。お叱りを受けたい訳ではありません」と丁寧に答えた。
「初めからそう言えば良いのよ」
「すみませんでした」
少年が深々と頭を下げるとフィーネは「あなたは部屋に戻りなさい」と続けた。




